多くの乗客が乗り降りするラッシュアワーでも定時運転を確保するため、鉄道事業者は様々な対策を行っています。電車のドアもそのひとつ。混雑していても安全・正確に運行するための工夫が、ドアには詰まっているのです。

1秒たりとも無駄にしない工夫

 朝ラッシュ時間帯、本数の多い通勤路線では1分50秒〜2分30秒間隔などといった過密ダイヤで列車が運行されています。しかし駅での乗り降りに時間がかかってしまうと後続の列車が詰まってしまい、遅れが拡大していくという問題が。そのため通勤電車のドアは、ラッシュ輸送を円滑に行うべく、様々な工夫が行われてきました。


JR四国の6000系電車は両開きと片開きのドアを持つ(児山 計撮影)。

 昔の通勤電車は、新幹線や特急列車に見られるような、片側に開くドアでした。特急列車であればドア幅は人ひとりが通れる700〜1000mmでも良いのですが、通勤電車は多くの人が一度に乗り降りできる幅が必要です。しかし幅を広げるとドアの開閉に時間を要します。

 そこで、ドアを両側に開けることで開閉時間を半分にしたのが両開き扉です。1954(昭和29)年の営団地下鉄(現・東京メトロ)丸ノ内線用に造られた300形が戦後初めて採用し、その後各社に広がりました。

 このときドアの開口幅は大人3人が同時に乗れる1300mmで設計。他社も追随し、以後に造られた車両の標準幅となりました。


戦後初めて1300mm幅の両開きドアを採用した営団地下鉄300形電車。乗降時間の短縮に両開きドアは効果を発揮した(児山 計撮影)。

 さらに、ドアの構造を工夫して開閉時間を短縮した車両も営団地下鉄に登場しました。軽いアルミハニカムのドアを勢いよく開閉するため独特の音がして、「爆弾ドア」というあだ名を鉄道ファンから付けられたエピソードもあります。

 こういった改良によって得られる時間の短縮はせいぜい数秒ですが、されどラッシュ時の数秒というのはたいへん貴重です。各社1秒たりとも疎かにしないよう工夫を凝らしています。

ドアを「増やす」「広げる」…鉄道事業者の工夫

 乗降時間を短縮する方法のひとつに、乗客が出入りできる空間を広げることがあります。一般的な通勤電車の場合、ドアの開口幅は1300mmで、1両当たりのドアの数は片側3〜4か所ですが、一度に多くの乗客が乗り降りできるよう、一部の鉄道事業者では、ドアの数を増やしたり、開口幅を広げたりしました。

 JR東日本、東急田園都市線、東京メトロ日比谷線などではドアの数を増やしました。JR山手線の実験では乗降時間が10秒以上短縮できたため、ラッシュの切り札として混雑路線では重宝されました。しかし、ホームドアを導入する段階になると、車両によってドアの数がバラバラでは不都合です。そこで、東京メトロ日比谷線では、18m 3ドア車(一部5ドア車)の後継に、標準的な20m 4ドア車を導入、東急電鉄は6ドア車を外して4ドア車に組み替えるといった措置が取られました。JR東日本も現在、6ドア車は中央・総武線各駅停車の一部車両に残るのみとなりました。


ラッシュの切り札として投入された多ドア車はホームドア設置のネックになるため、現在ではほとんどの路線で編成から外されてしまった(児山 計撮影)。

 もうひとつ、乗降口の幅を広げる方法は、たとえば阪神電鉄が一部車両で標準より少し広い1400mm幅を、横浜市営地下鉄が1500mm幅を採用したりしていました。一目でそれと分かるのは東京メトロ東西線で1800mm、小田急電鉄で2000mm幅です(いずれも一部車両)。これらの幅であれば大人4人が同時に乗り降りできます。

 しかし小田急電鉄は、のちにこのワイドドア車の開口幅を1600mmに狭める改造をしています。2000mmではドアの開閉に時間を要することと、長距離利用の多い小田急電鉄では開口幅を広げて座席が減るのはサービスダウンになるという判断があったようです。

 一方の東京メトロ東西線は05系電車の一部をワイドドアで造った後、最新型の15000系電車もワイドドアで2010(平成22)年に登場させました。ドアの開閉に時間がかかるものの、その数は他と同じ4ドアであるため、ホームドアが設置されても乗降時間短縮の効果があると判断されたようです。

快適な車内はドアの数次第?

 通勤電車においてラッシュ対策は重要ですが、余裕のある時間帯のサービスも疎かにはできません。


京阪電鉄5000系電車はラッシュが終わると、5ドアのうち上部が銀色のドアを締め切って座席を降ろす機構が付いている(児山 計撮影)。

 たとえば多ドア車はラッシュ時に威力を発揮しますが、座席を多く設置できないというデメリットもあります。そこで京阪電鉄は5ドア車の5000系電車を製造した際、閑散時はそのうち2ドアを締め切って、そこに座席を設置する機構を取り付けました。

 そして最近都市圏で増えているのがドア開閉ボタンです。特急列車などの待避待ちや折り返し停車の際、すべてのドアが長時間開いていると外気が車内に入り込み、空調の効果が落ちてしまいます。そこで、開閉ボタンを乗客に操作してもらい、必要なドアのみ開け閉めすることで車内の保温につなげます。

 また、大手私鉄で使われた車両が地方私鉄に売却される際、ドアをいくつか埋めて譲渡されるケースがあります。地方ではワンマン運転を行うところが多く、また、利用者数も大都市の路線ほどではないため、多くのドアを必要としません。そこでドアを埋めて座席を増やしています。

 ドアを増やすのも減らすのも、サービスの一環というわけです。