「清宮一色というか、清宮次第のドラフトとも言えるんじゃないですか」

 いよいよ本番が迫るなか、ある球団のベテランスカウトは今年のドラフトをこう表現した。

 スカウトからは総じて”不作”の声が漏れ、世間の興味は清宮幸太郎(早稲田実)を何球団が1位指名するのかに向かっている。そういう意味では”清宮一色”だろう。また、清宮に絡むそれぞれの球団の思惑や決断によって様々な流れが生まれ、波及するという点でも、確かに”清宮次第”とも言える。


果たして清宮幸太郎は何球団から指名を受けるのだろうか

 まずは清宮を1位指名するのが何球団なのかによって、ドラフト全体の流れが決まってくることになる。そのベテランスカウトは、ドラフト直前の感触として次のように語る。

「(清宮に)最低でも5球団はくるでしょう。そこに加えて、まだはっきりとした狙いが見えてこない球団がいくつかあるので、6〜7球団になる可能性はあります」

 間違いなく清宮を指名するであろう5球団とは、阪神、巨人、ヤクルト、ソフトバンク、日本ハムだ。そのなかでは例年、情報管理が徹底している日本ハムの動向に確信を持ちづらいようだが、「おそらく5つは指名すると思います」と言った。

 日本ハムは清宮側が行なった個別面談に参加せず、そのため「指名回避か?」という憶測も呼んだが、あらかじめ球団の育成方針を記した書類を清宮サイドに送ったという話もある。だとすれば、「その年の最もいい選手を指名する」というポリシーを考えても、清宮の可能性が高いと、先のスカウトは言う。

 この5球団以外に名前が挙がったのが、DeNAとロッテ。ただ、DeNAは日本シリーズ進出こそ果たしたものの、シーズンは2年連続3位。現有戦力を見ると、もうひとり先発で計算できる投手がほしい。

 チーム防御率4.22と12球団ワーストのロッテも、来季の戦力を考えれば即戦力投手を指名したいところだ。ただ、清宮は人気だけでなく高校通算111本塁打の実績もある。つまり、人気+実力を兼ね備えた清宮の指名については球団側の意向も大きい。そのあたりの事情も含め、DeNAとロッテにも指名の気配があるというのだ。そしてロッテについては、「井口(資仁)監督の判断で決まるんじゃないでしょうか」と加えた。

 清宮以外では、広島が中村奨成(広陵)、オリックスが田嶋大樹(JR東日本)の1位指名を明言している。

 オリックスは昨年のドラフトで社会人の山岡泰輔を1位、大学生の黒木優太を2位で指名するなど、大学・社会人の即戦力を上位で獲得してきたが、今年もその方針でいくようだ。前出のスカウトは、田嶋の指名について次のように語る。

「田嶋のほかに大学や社会人で何人か名前が挙がっていますが、『間違いない』と思える投手がいないのも事実です。何かしら不安を抱えていて、1年目から活躍できない可能性が高い。そう思うと、実戦力で勝る田嶋は3チームほどが指名するかもしれません」

 田嶋のほかに、社会人では鈴木博志(ヤマハ)、鈴木康平(日立製作所)、西村天裕(NTT東日本)、大学生では東克樹(立命館大)、馬場皐輔(仙台大)、鍬原拓也(中央大)、齋藤大将(明大)らの名前が挙がる。

「田嶋のほかでリスクが少ないと思うのが東。鈴木博志あたりは大化けの可能性を感じるストレートを持っていますが、変化球の精度はもうひとつだし、調子にムラもある。即戦力のイメージでは獲りにくい。全体を見ても、今年のドラフトは1位にふさわしい12人がすぐに浮かびません。正直、力を持った選手が少なく、『それなら清宮を指名しよう』という考え方もあります」

 柳田悠岐(ソフトバンク)、田口麗斗(巨人)、畠世周(巨人)、山岡泰輔(オリックス)など、広島出身選手の他球団での活躍も目立ち、今回は松田元オーナーの決断で中村の1位指名を決めたのが広島だ。ただ、前出のスカウトはこう語る。

「楽天が(中村を)指名する可能性もあると思います」

 捕手としてすぐ一軍起用とはいかないだろうが、嶋基宏の後継者として、また右の中軸候補として、たしかに楽天が興味を持っても不思議ではない。

 残りは西武と中日。シーズン2位ながらクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージで敗退した西武も、チーム事情を考えると計算できる投手がほしい。菊池雄星が近い将来、メジャー挑戦となると、田嶋の指名も十分にあり得る。ただ、これまで重複指名に果敢に挑み、クジを引き当ててきた渡辺久信シニアディレクターの雄姿を思い出すと、清宮で勝負するのでは……という可能性も捨てきれない。

 中日は、今のチームを見るとすべて足りてないのが現状だ。当初は観客動員を考え”清宮指名”の気配もあったようだが、先のスカウトは「投手を指名するのではないか……そんな空気を感じています」と言った。

 このスカウトとの会話のなかで、話題に上がったのが履正社のスラッガー・安田尚憲。

「極めて順調に成長していて、人間的にもしっかりしている。ただ、あくまで私の見方では、安田のバッティングをAランクとするなら、清宮はSランク。なので、清宮の1位指名を考えている球団が指名回避してまで安田にいくとは考えにくい。(清宮を)指名回避するなら、安田ではなく投手にいくと思います」

 スラッガーでもうひとり、注目を集めているのが東京六大学の秋のリーグ戦で5試合連続本塁打の新記録を更新した岩見雅紀(慶應大)だ。

「秋の活躍で24人(2位指名以上)に入ったと思います。体型もバッティングの雰囲気も、イメージは李大浩(イ・デホ)。とらえた打球はピンポン球みたいに飛んでいく。守りに不安はありますが、ドラフト直前の印象はすごく大事。そこでこれだけアピールできれば、一気に12人(1位指名)に入るかもしれません」

 安田にしろ、岩見にしろ、清宮の外れ1位という可能性は十分にあるという。

 そもそも9月22日、進学も囁かれていた清宮が「プロ入りを表明」したところから今年のドラフトは本格的に動き出した。もし、清宮が進学を表明していたら、今とはまったく違うドラフトの景色になっていたはずだ。そう考えると、やはり”清宮次第”のドラフトと言えるだろう。

 今年で53回目を迎えるドラフトは、明日の17時に幕を開ける。果たして、どんなドラマが待っているのだろうか。その成り行きをしっかりと見届けたい。

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