8月13日、プロ野球通算2000本安打を達成した阿部慎之助は、巨人=読売ジャイアンツの第72代の4番打者として数えられている。


8月13日の広島戦でライト前ヒットを放ち、2000本安打を達成した阿部慎之助

 よく巨人の「第〜代の4番打者」という呼び方をするが、これはプロ野球の公式戦でスターティングメンバーに「4番」としてラインナップされた選手のうち、偵察メンバーなどで実際には出場しなかった場合を除いてカウントするのが一般的だ。

 その定義に従って巨人の歴代4番打者をチェックしてみると、阿部慎之助という選手の特異性と偉大さが、あらためて浮き彫りになってくる。少々長いリストになるが、本記事の末尾に巨人の歴代4番打者を記すので、それも参考にしつつ、阿部慎之助の2000安打の凄さを振り返ってみたい。

 まず、巨人の歴代4番打者のうち、阿部以前に2000安打を達成している選手を挙げてみよう。初めて4番に座った日が古い順に、川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、柴田勲、張本勲、松原誠、駒田徳広、落合博満、松井秀喜、清原和博、小久保裕紀、小笠原道大、アレックス・ラミレスがこれに該当する。このうち、松井秀喜は巨人時代とメジャーリーグ移籍後の安打数の合算だ(ほかに、ロイ・ホワイト、レジー・スミス、ウォーレン・クロマティ、李承菀も日本と海外の合算で2000安打を記録しているが、いずれも海外での安打数のほうが多いため、ここでは対象外とする)。

 こうして見ると、さすがは巨人の4番だけあって2000安打達成者がたくさんいる。しかし、よく見るとその大半は他球団からの移籍組や、後に巨人から他球団に移籍した経歴を持つ選手であり、いわゆる”生え抜き選手”はけっして多くない。生え抜きという意味を「入団から引退まで巨人ひと筋」とするならば、該当するのは、川上哲治、長嶋茂雄、王貞治、柴田勲の4人だけで、今回の阿部慎之助がようやく5人目なのだ。

 昭和のV9時代など過去の圧倒的な強さからすれば、巨人生え抜きの2000安打達成者は意外なほど少ないのが事実で、近年の生え抜きスラッガーとして真っ先に思い浮かぶ原辰徳や高橋由伸も、2000安打には到達していない。

 さらに、巨人の生え抜き4番で2000安打達成者のうち、川上哲治は181本、柴田勲は194本しかホームランを打っておらず、阿部より多い通算ホームラン数を記録したのは王貞治の868本、長嶋茂雄の444本だけだ。つまり、阿部慎之助は「ON」に次ぐレベルで強力な巨人の4番ということになる。

 また、ポジションという視点で考えても、阿部の希少性は特筆に値するだろう。巨人の歴代4番リストからキャッチャーを抽出すると、阿部以外に該当するのは、わずかに川畑博、藤尾茂、森昌彦、大久保博元のみ。しかも、彼らが4番を打ったのは、川畑(6試合)、藤尾(13試合)、森(6試合)、大久保(2試合、当時はファーストで出場)という極めて少ない機会だった。おそらく当時のチーム事情による例外的な起用であったことは想像に難くない。

 これに対して阿部は、今でこそ守備につく場合はファーストに入っているが、そのプロ野球生活の大半ではキャッチャーとして本塁を守り、そのうち300を優に超える試合で4番を張ってきた。ちなみに、全球団の2000安打達成者のなかでもキャッチャーというポジションは稀な存在だ。これまでには野村克也、古田敦也、谷繁元信の3人しかおらず、阿部が4人目となる。

 このように、巨人の生え抜きで4番を張るキャッチャーが2000安打を打ったという事実を冷静に見れば、これは “二度と起こらないかもしれない”レベルの偉業であることがわかる。現在の阿部は、ケガに悩まされたり、守備であたふたしたりで、ついついその衰えばかりに目が向きがちだ。しかし、野球ファンはこの2000安打の機会にもう一度、阿部慎之助の偉大さを再認識するとともに、その快挙に心から拍手を送りたいと思う。


【巨人の歴代4番打者】

第1代 永沢富士雄
第2代 伊藤健太郎
第3代 中島治康
第4代 筒井修
第5代 前川八郎
第6代 水原茂
第7代 川上哲治
第8代 青田昇
第9代 木暮力三
第10代 中村政美

第11代 ヴィクトル・スタルヒン
第12代 近藤貞雄
第13代 川畑博
第14代 黒沢俊夫
第15代 小笠原博喜
第16代 平山菊二
第17代 宇野光雄
第18代 中村不可止
第19代 手塚明治
第20代 宮本敏雄

※211代〜50代は次ページ

第21代 樋笠一夫
第22代 藤尾茂
第23代 柏枝文治
第24代 与那嶺要
第25代 長嶋茂雄
第26代 坂崎一彦
第27代 国松彰
第28代 王貞治
第29代 池沢義行
第30代 森昌彦(祇晶)

第31代 相羽欣厚
第32代 吉田勝豊
第33代 田中久寿男
第34代 高倉照幸
第35代 森永勝也
第36代 柴田勲
第37代 末次利光
第38代 柳田俊郎
第39代 張本勲
第40代 淡口憲治

第41代 デーブ・ジョンソン
第42代 ジョン・シピン
第43代 山本功児
第44代 ロイ・ホワイト
第45代 中畑清
第46代 ゲーリー・トマソン
第47代 松原誠
第48代 原辰徳
第49代 レジー・スミス
第50代 ウォーレン・クロマティ

※51代〜は次ページ

第51代 呂明賜
第52代 駒田徳広
第53代 吉村禎章
第54代 マイク・ブラウン
第55代 フィル・ブラッドリー
第56代 ロイド・モスビー
第57代 ジェシー・バーフィールド
第58代 岡崎郁
第59代 大久保博元
第60代 落合博満

第61代 広沢克(広澤克実)
第62代 松井秀喜
第63代 シェーン・マック
第64代 清原和博
第65代 石井浩郎
第66代 高橋由伸
第67代 ドミンゴ・マルティネス
第68代 ロベルト・ペタジーニ
第69代 小久保裕紀

第70代 李承菀
第71代 二岡智宏
第72代 阿部慎之助
第73代 小笠原道大
第74代 アレックス・ラミレス
第75代 長野久義
第76代 村田修一
第77代 ホセ・ロペス
第78代 ジョン・ボウカー
第79代 レスリー・アンダーソン
第80代 フレデリク・セペダ

第81代 大田泰示
第82代 坂本勇人
第83代 中井大介
第84代 亀井善行
第85代 ギャレット・ジョーンズ
第86代 ルイス・クルーズ
第87代 ケーシー・マギー

◆関連記事>2000本安打の偉業の陰で、 阿部慎之助はライバルのエースも育てた

プロ野球記事一覧>>