週刊ダイヤモンド2017年2月18日号

写真拡大

■「中国産米」を混ぜる動機がみつからない

JAグループの販売している「滋賀こしひかり」や「京都丹後こしひかり」、「魚沼産こしひかり」に大量の中国産米が混ぜられている――。今年2月発売の「週刊ダイヤモンド2017年2月18日号」にそんな大スクープが掲載され、農業界に激震が走った。

同誌は今年1月、JAグループ京都の米卸「京山」が精米・販売したこしひかりについて、「同位体研究所」(神奈川県横浜市)に検査を依頼。その結果、「滋賀こしひかり」は10粒中6粒、「京都丹後こしひかり」は10粒中3粒、「魚沼産こしひかり」は10粒中4粒が「中国産と判別された」とされ、「意図せざる混入とするのはかなり無理がある」と指摘する衝撃的な内容だ。

もし記事の内容が事実なら、国産米と信じて買った消費者はたまったものではない。食の安全・安心を脅かす大問題だ。 自民党・小泉進次郎農林部会長は「絶対にしてはいけない裏切り」といち早くコメント。永田町では「農協を目の敵にする奥原正明農林水産省事務次官が裏で操っている」などという陰謀論まで飛び出した。

しかし、今、ダイヤモンド誌の記事の内容に重大な疑惑が生じている。わざわざ中国産の米を混ぜる動機が、販売者にはないというのだ。

「女性自身(2月21日発売号)」は、「いま中国米は1キロ249円ほど。でも1キロ260円で滋賀県産こしひかりが買えるんです。わざわざ(安くない)中国米を買って混ぜるなんて、そんなリスクを犯す理由がありません」という京山の担当者のコメントを報じている。

今回、ダイヤモンド社に「1割程度しか安くない中国産米を意図的に混入した動機について、どう考えているか」と問い合わせたところ、同社総務局からの回答は「『1割程度しか安くない』とは何を比較してのことなのか不明です。中国産米といってもさまざまな価格があり、一概には言えないと思料します」というものだった。

この言い分をどう考えるのか、JA京都の担当者に直接聞いた。

「中国産米はそもそも日本ではほとんど流通していません。米には、『長粒種』、『中粒種』『短粒種』の3つがあり、細長いタイ米は長粒種で、日本の米は短粒種です。農林水産省のHPにも記載されていますが、現在、中国から入ってきているのは中粒種で、中国産の短粒種の米は、3年間輸入していません。また、3年前には(問題となった)京山が『精米』の状態で、中国産の短粒種を輸入した実績があります」

以上の点を踏まえるとすれば、3つの可能性があることになる。

(1)3年前に輸入した「精米」の中国産米をどこかで保存しておき、このタイミングで、混入した。
(2)JA京都、もしくは京山が、密輸入している。
(3)ダイヤモンド誌の誤報。

このうち(1)と(2)の可能性に対し、JA京都の担当者は、こう指摘する。

「ダイヤモンド誌が検査を依頼した日だけでも数十トンの『短粒種の中国産米』が必要になります。どう考えても話の筋道にムリがあると思うのです。なぜ、ダイヤモンド誌はそのような簡単な事実確認すらしてくれなかったのか、残念です。電話一本でもすぐにわかる話なのです」

■同じ研究所の検査で、今度はすべてシロ

一方、ダイヤモンド誌の鼻息は荒い。現在、同誌では記者(正社員)を募集しており、ウェブサイトでは同記事を担当した記者と深澤献編集長らの座談会が掲載されている(4月27日現在。 http://diamond.jp/articles/-/123691 )。深澤編集長が「今年2月の農業特集(17年2月18日号「儲かる農業 2017」)で取り上げたコメの産地疑惑問題は、国会でも議論されるほど様々な反響を呼んだね」と話を振ると、担当記者は「産地偽装を暴く調査報道には、一定のリスクも覚悟しなければいけませんが、それでもゴーサインを出してもらえました。これも面白いネタ至上主義のなせる技です」と答えている。

しかし、この「調査報道」に対し、専門家は首をかしげる。同誌が行ったのは同位体の構成比を調べる「同位体検査」で、産地検査に一般的な「DNA検査」ではなかったからだ。

「ダイヤモンド誌の記事内に掲載された検査の模様とされる写真には、背広を着た男性と思しき人が2人写っていますが、なぜ、白衣を着ていないのか。いちいち突っ込み始めたらきりがありませんが、不思議な写真です」(農作物の検査に詳しい農政関係者)

これについても問い合わせたところ、ダイヤモンド社は、「DNA検査は実施しています。同位体検査結果を含めて、記事全体に、当然ながら自信を持っています」と回答した。この回答に前述の農政関係者は驚きを隠さない。

「なぜ、同位体検査の内容だけを記事にしたのか。もし、一般的なDNA検査をすれば、新潟県産の米は、すごく特徴的な結果が出ることが知られており、記事の信憑性も高まったはず。もし、2つの検査で違った結果が出ているにも関わらず、どちらかをあえて掲載していないのだとすれば、大きな問題に発展する可能性がある」

JA京都は「記事は悪質な捏造」と言わんばかりに徹底抗戦の構えだ。記事掲載直後から特設ホームページを設けて徹底的に反論。さまざまな第三者機関に米を持ち込んで調査し、ことごとく「白」とする結果を得ているという。4月21日には、ダイヤモンド誌が検査を依頼した同位体研究所にて、弁護士立会いのもと、同一銘柄、同一精米日の米を開封し、検査を実施。「10粒検査にて10粒が国産」とする検査結果も公表している。残るは、いまだに公表されていない農林水産省の調査結果を待つばかりだ。

また、ダイヤモンド誌は記事内でJA京都中央会の中川泰宏会長について、「守旧派」と一方的に断じている。中川会長は元衆議院議員。2005年の総選挙では、京都を地盤にしてきた野中広務元官房長官が対立候補を強力に推すなかで、一歩も引かず徹底的な抗争を繰り広げた。京都では「絶対に敵に回したくない男」として知られており、「難しい同和問題もハレーションを意に介せず諸問題にズバズバ切り込んでいった」(自民党京都府連関係者)という豪腕だ。

会長就任後は、京野菜の食事会をベルサイユ宮殿「ヘラクレスの間」で開くなど、改革派のJA会長として辣腕を振るってきた。発想力と実行力を武器に、京野菜のブランド拡大に果たした役割は高く評価されている。一方、京野菜ブランドの品質基準については「取り扱う農作物に対する厳しすぎる基準に根をあげた業者も、実際、複数いる」(JA京都関係者)というほどで、その厳しさは「(中川泰宏氏の名前を音読みした)タイコー規格」と呼ばれるほど恐れられている。

■早急にすべての事実を公開するべき

中川会長やJA京都は、ダイヤモンド誌が断じるような「守旧派」なのか。興味深い話がある。それは、JAグループ全体では、安倍政権が推進した「TPP」について反対をしていたが、JA京都は前述の京野菜ブランドの輸出など積極的な農業生産をしており、「TPPに反対しない立場」(JA京都担当者)にあったという事実だ。

ダイヤモンド社に対し、「中川泰宏氏を、記事内で、農協改革の『守旧派』と一方的に断じていますが、その根拠はありますか」と問い合わせたところ、「さまざまな取材を基にして、記者が『守旧派』と評価したものです」という回答だった。

JAグループにあって、TPPに反対せず、積極的に京野菜ブランドを世界に輸出しようとする中川氏を「守旧派」と断じる根拠を、ダイヤモンド誌は「さまざまな取材」などという言葉で濁さずに、明らかにすべきではないだろうか。

今回のダイヤモンド誌の記事により、京山の米は多くの店で販売自粛を余儀なくされた。返品や取引停止が相次ぎ、損害は「80億円あった売上は半減、利益損失は10億円になる可能性がある」(JA京都担当者)という。

記事が出た直後の2月15日、ダイヤモンド社に対し、JA京都は損害賠償として3300万円、京山は1100万円を求める民事訴訟を京都地裁に起こしている。4月14日に第1回の裁判が行われたが、JA京都は「ダイヤモンド社からは誰も裁判に出席せず、同社の態度は極めて不誠実なものでありました」とのプレスリリースを出している。

欠席の理由について、ダイヤモンド社に問い合わせたところ、「民事訴訟の初回口頭弁論では、被告代理人弁護士が欠席することは認められております。特に奇異なこととは考えません」と回答があった。

今後、さらなる巨額の賠償訴訟に発展することも予想される。JA京都関係者は「100%勝訴できる」と徹底追求の構えだ。

ダイヤモンド社は、一連の回答について、「これ以上の詳細な質問にはお答えできかねます。すでに訴訟が進行中である点、ご理解を賜われれば幸甚です」と書き添えていた。しかし、現在進行形で損害が広がり、困窮しているのは、JA京都と京山ではないか。

同記事の担当記者は、自社サイトの座談会で「週刊ダイヤモンド編集部のいいところは『面白いネタ至上主義』が徹底していることです」として、「今まで誰もやらなかった独自性のあるネタだったこともあり、雑誌の販売も好調でした」と満足気に振り返っている。

これに対し、記者を知る関係者の見方は冷ややかだ。

「DNA検査の実施など、事実を小出しにするのは示談を有利に進めようとする訴訟戦略なのかもしれません。しかし、記事の内容に自信をもっているのならば、今すぐすべてをオープンにするべきです。事実の解明が遅れて打撃を受けるのは、農業従事者なのですから。ダイヤモンド誌が徹底しているという『面白いネタ至上主義』が、社会正義の枠内での話であると信じたい」(記者を知る農業関係の新聞記者)

事実はどこにあるのか。早急な解明が待たれる。

※ダイヤモンド社の回答は、すべて「株式会社ダイヤモンド社 総務局部長(法務担当)」名義で、2017年4月26日付。

(文=プレジデント編集部)