スーパーなどで売られる豆腐などの公正な取引を促す指針を、農水省がまとめた。日持ちがしない特性から、特売の対象になりやすいなど課題があったためだ。製造業者が適正な利益を得られるよう、取引に問題があれば是正し、原材料を提供する農家の所得確保にもつなげていく。政府は一連の農政改革で、小売りの安売り競争にも焦点を当てた。食品製造業で初となる指針が策定されたことで、他の食品業に議論が広がる可能性がある。

地位乱用を問題視 農家の所得確保にも


 農水省が業界の要望を受け、豆腐や油揚げの取引について実態調査を行ったところ、小売店が優越的地位を乱用し、関連法案に抵触する恐れのあるケースが一部、確認された。指針策定に乗り出し、問題があった具体的な取引例を挙げ、11の対応方法を示した。

 「セールを行う小売店から一方的に取引価格引き下げを通知された」とした事例では、原価や物流費を基に値決めをして、合意内容を書面で取り交わすとする。「小売業者からプライベートブランド(PB)商品の販売を打ち切られ、包装フィルム代が支払われない」ケースでは、事前協議で費用を小売業者が負担することを契約書に明記するよう例示する。

 同省はこうした指針の周知に向けて、5月以降に事業者を対象とした説明会を開いていく。改善がみられない場合、設置した「かけこみ寺相談窓口」で、匿名の相談も受け付ける。

 豆腐業界では事業者の高齢化に加え、小売店の不当廉売などによって廃業が相次ぎ、事業者数はピークだった1960年の5万から、現在7500に減った。危機感を強め、衆参の国会議員でつくる「日本の豆腐文化を守る議員連盟」などに働き掛けるなど、小売業との取引是正を要望していた。今回の指針策定について、全国豆腐連合会は「小売り側の改善や、仕入れ・販売価格の適正化につなげてほしい」と期待を寄せる。

他品目に波及へ 牛乳・乳製品も調査


 豆腐業界の一連の動きは今後、他の食品業界にも影響を及ぼしそうだ。同省は豆腐類と同じく納入頻度が高く、不公正な取引が発生しやすい牛乳・乳製品の調査も既に進めており、問題があれば年内に指針を策定していく方針だ。

 もやし生産者でつくる工業組合もやし生産者協会も3月に、納品価格より安く特売する小売りを引き合いに適正価格での取引を要望する声明を公表しており、「今回の指針について関心を寄せている」と言う。

 日本食品関連産業労働組合総連合会の調べによると、小売業との取引で優越的地位の乱用を受けた経験がある食品関連企業の担当者が6割に上り、問題ある取引が常態化しているという。

 乱用行為があった取引先は、食品スーパーが53%と最多で、総合スーパー(11%)やドラッグストア(8%)を大きく上回る。労務提供やリベートに関する問題などが挙がった。同連合は「食品産業が低価格競争などの課題を抱える中、フードバリューチェーン全体で取り組む必要がある」と訴える。

 政府は農業競争力強化プログラムで、生産者が有利な条件で安定取引できるよう流通業界の見直しを課題に挙げた。スーパーなどが安売り競争している状況を改めるとし、不公正取引への監視を徹底するとしている。

生産、製造、販売 適正価格確認を


食品製造・小売りの取引実務に詳しいコンサルタントの近藤智氏の話

 豆腐やもやしなど、比較的事業規模が小さく価格交渉力の弱い製造業で、問題となる取引が発生しやすい。放置すれば原料の買いたたきなど、生産側の経営圧迫を招く。生産、製造、販売の3者が取引の計画性を十分に共有し、適正な価格を確認していくべきだ。

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