乗務員から客に話しかけないことで「静かな車内空間を提供する」とうたった車両を、京都のタクシー会社が試験導入しました。

知っていることを話されるよりも……

 おもに京都市内で営業している都タクシー(京都市南区)が、2017年3月下旬から「サイレンス車両」を試験運行しています。


京都市内の四条通を走るタクシーのイメージ(画像:photolibrary)。

 乗降時のあいさつやルート案内、緊急時の対応以外は、乗務員から客に声がけをしないというもので、その旨を助手席ヘッドレストの裏に掲示しています。

 都タクシーによると「乗務員からのお声がけを控えさせていただき、より快適に過ごしていただくための車内空間を創造することを目的とした試験的サービス」で、全国で初の試みだといいます。

「乗務員が話す観光地の案内や街の情報、あるいは世間話に花が咲くこともあったかもしれませんが、それをいまのお客様が本当に求めているのかと、ほかのタクシーに乗ったときに感じたことがきっかけです。地元のお客様でしたら地元のことはご存じでしょうが、話す乗務員に『黙ってくれ』とはなかなか言えないと思います。静かに送ってほしいというニーズもあると思い、どちらが本当に快適な車内空間なのかを探るうえで試験導入しました」(都タクシー

 都タクシーではこれまで乗務員に対し、客との会話について特に指導することはなかったといいます。むしろ観光地の京都で営業していることもあり、「京都検定」合格者など豊富な知識を有する乗務員もいるとのこと。「観光案内を喜んでいただけるお客様ももちろんいらっしゃいますし、特にお年寄りは会話を楽しむ方も多いです。時と場合に応じて対応する必要があります」とも話します。

「サイレンス車両」は現在、おもに京都市域を中心に昼5台、夜5台ほど運行しています。利用者からは「いい取り組みだ」「これも時代の流れなのかもしれない」といった声があるそうです。

タクシー乗務員の「会話」 その実態

 ほかのタクシー会社では、乗務員から客に話しかけることに対して何か指導をしているのでしょうか。神奈川、東京、埼玉でタクシー事業を展開する三和交通(横浜市港北区)は以下のように話します。

「もちろんその場の裁量にはなりますが、基本的には、乗務員からお客様に話しかけないよう指導しています。特に、宗教や野球の話など、主観が入るような話題はトラブルのもとになるため避けるよう伝えています」(三和交通)

 やはり三和交通でも、「乗務員に話しかけられて寝られなかった」といった声があるそうです。一方で、静かすぎることで逆に「怖い感じだった」という声も。「お客様が不愉快にならないよう、臨機応変に対応する必要がある」といいます。

 都タクシーの「サイレンス車両」については、「選択肢をつくるという点で面白い取り組みだと思います。特に若い人にはいいかもしれません。しかし、当社は地域密着で営業しており、長年ご用命いただいているお客様が大勢いらっしゃいます。そうしたお客様には愛想のよい対応が重要と考えています」と話します。

 タクシーの車内環境に対するニーズは、世代はもちろん、時間や場所によっても異なってくるのかもしれません。そのなかで快適な姿を探るべく導入された「サイレンス車両」について、都タクシーは「もう少し台数を増やし、よりデータを集めることも検討する」といいます。

【写真】「サイレンス車両」の車内掲示


「乗務員からのお声がけを控え、静かな車内を提供する試みをおこなっております」という案内が車内に掲示されている(画像:都タクシー)。