ジェイアール東海バスが、「ドクターイエロー」によく似た車両を製作。新幹線と同じく業務用の車両といいますが、目的は別で、一般的なバスとは異なる特殊な装備、能力を持っています。やはり出会えると幸せになれる、のでしょうか。

道路の「ドクターイエロー」?

 高速走行しながら線路を検査し、新幹線の安全・安定運行を支える「ドクターイエロー」。運行ダイヤが公表されておらず、その黄色い車体を見るのが難しいことから、出会えると幸せになれる「幸せの黄色い新幹線」ともいわれます。

 その「ドクターイエロー」を運行するJR東海グループで2017年1月、出会えると幸せになれる、かもしれない新たな黄色い車両の使用が開始されました。こちらに出会えるのは、線路ではなく道路。ジェイアール東海バス(名古屋市中川区)のバス車両で、黄色に青のライン、そしてグレーと、新幹線の「ドクターイエロー」とよく似た配色です。

ジェイアール東海バスが導入した、「ドクターイエロー」と似た配色を持つ車両。しかしその目的は……(写真出典:ジェイアール東海バス)。

 ジェイアール東海バスによるとこれは業務用の車両で、旅客を乗せて走行する予定はないとのこと。この点も「ドクターイエロー」と同様です。しかし、その目的は異なりました。

ドクターイエロー」の正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」。その名の通り電気や信号、軌道などを走行しながら検査します。それに対し、ジェイアール東海バスの黄色い車両は「乗務員訓練車」。その名の通り、乗務員の訓練が主な目的だそうです。

「ほかの車両とはまったく違う仕様になっています」(ジェイアール東海バス)

 乗務員の訓練にあたって、一般のバス車両に「教習車」などと掲示して行っている場合もありますが、訓練を主目的に製作されたこの黄色いバスは、一般のバス車両にない特殊な装備や能力が与えられています。

「黄色いバス」の特殊能力とは? そこには「ある目的」が

 ジェイアール東海バスが導入した黄色い乗務員訓練車、それが持つ独特な装備のひとつに「運転データ集録システム」が挙げられます。

「運転データ集録システム」のイメージ(画像出典:ジェイアール東海バス)。

 側方距離(左前、左中央、左後、右前、右後)、前方車間距離、クラッチのオンオフ、ブレーキのオンオフ、アクセル開度、ブレーキ開度、エンジン回転数、速度、ギア位置、燃料噴射量、燃費、前後の動揺、左右の動揺を記録するほか、乗務員が装着する帽子型ヘッドユニット「アイマークレコーダ」で運転時の視点もリアルタイムに記録。そうして「乗務員の運転行動を数値化」「視点の動きを見える化」することにより、乗務員個人の運転データを数値的に把握し、そこから得られた各種データを分析することで、さらなる事故防止、安全性向上に向け、感覚に頼りがちだった運転指導を、客観的な数値データに基づいたものにするといいます。

 また「サラウンドアイ」という機能では、車体の前後左右4か所に設置したカメラからの映像を合成し、車両を上から見た俯瞰映像をつくり出すことが可能。ミラーでは分からない車体周辺の死角が見えるほか、右左折時や狭い場所での車体動向も把握可能なため、車体感覚の向上が期待できるそうです。

 ジェイアール東海バスが、このような訓練専用の車両を所有するのは初めてとのこと。車内にはプロジェクタ付きのミーティングスペースもあり、集録データを再生しての教習なども行えます。

 なおこの訓練車は、貸し切り運行で使われていた2011年式の日野「セレガ」をベースに製作されました。全長11990mm、全幅2490mm、全高3500mmで、エンジン最高出力(ネット)は331kW(450PS)、トランスミッションは6速FFシフト(6速MT)、燃料タンク容量は460リットルです。

訓練以外にも役に立つ「黄色いバス」、どこで会える?

 ジェイアール東海バスが導入した黄色いバス、訓練以外でも役に立つといいます。車内に折りたたみ式の椅子とテーブル、簡易トイレ、非常用の食料と飲料水などを用意。災害時における「移動事務所」としての機能を設けたそうです。電源はバス本体、バスのトランクルーム内に搭載する発電機、地上設備からの入力という3系統があり、車外への電力供給もできます。

ジェイアール東海バス「乗務員訓練車」の車内見取り図(画像出典:ジェイアール東海バス)。

 このバスが走るのは、一般道や高速道路など、ジェイアール東海バスが指定した訓練コースなどとのこと。乗ることができず、運行時刻も発表されていないため新幹線の「ドクターイエロー」同様、出会えたら幸せになれる「幸せの黄色いバス」になるかもしれません。

 ちなみにジェイアール東海バスは、次の理由から乗務員訓練車を黄色くしたといいます。

「黄色は視認性に優れ、注意をうながす際に使用することが多く、バス事業者として最も重要である『安全』をアピールする意味で黄色をベース色としました」(ジェイアール東海バス)

 線路の保守工事などをになう鉄道車両は、夜間の作業時に目立つよう黄色に塗られていることが多く、新幹線の「ドクターイエロー」が黄色いのも、それがひとつの由来です。バスも新幹線も、その黄色は「安全」に関係していました。また線路の検査、乗務員の訓練とも、目指すところは同じ「安全」です。

【写真】空を飛ぶ「ドクターイエロー

新幹線車両の検査、整備を行うJR東海・浜松工場で、クレーンにつられ空を飛ぶ「ドクターイエロー」。検査方法変更でこの光景はもう見られない(2015年7月、恵 知仁撮影)。