6月27日(土)TOHOシネマズ新宿ほか
全国ロードショー

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自身の集大成という「ラブ&ピース」をつくった園子温監督。いつか見ていろと鬱屈した思いを抱える主人公は、園監督の分身のようなもの。この役を、長谷川博己がリミッターを全力で振り切って演じている。近年、園監督作品に出演する俳優は、圧倒的に魂を揺さぶる波動を出す。長谷川をはじめ、綾野剛、鈴木亮平、染谷将太、二階堂ふみ、満島ひかり、吉高由里子……若い俳優たちの潜在能力はどうやったら引き出せるのか、その方法を知りたい。
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あそこまでへんな人じゃないです


──さて、自身を投影した「ラブ&ピース」の主役に長谷川博己さんを起用したわけは。
園 「地獄でなぜ悪い」(14年)をいっしょにやったので、もう1本やるのが自然な流れだったという感じでしょうか。

──鬱屈しまくった鈴木にはかなりご自身が投影されているんですか。
園 ん〜〜、まあ、あそこまでへんな人じゃないです(笑)。

──長谷川さんがそうとうエキセントリックな芝居をしています。
園「地獄でなぜ悪い」で既にかなりへんな感じになっていて、ぼくとやるときはへんな感じっていうのが、彼のなかで確立されたんでしょう。「ラブピー」もそうだけど、「地獄〜」以降、CMなどでも、おれと組んだときのような芝居をするようになりましたからね、彼は。綾野剛くんも、新しいCMを見たら、「スワン」的な芝居していた気がするなあ。だんだんと、いままで窮屈に思っていたイケメン芝居から抜け出しているんじゃないかな。イケメン芝居しかさせてもらっていない俳優がうちで解放されるっていう。いま、ぼくの映画はそういう場所になっている(笑)。

──演技道場みたいな。
園 解放区になっていますね。

──解放区、いいですね。演劇だと、かつて、つかこうへいさんのところにいくと解放されるとか、いまだと蜷川幸雄さんのところもそうですよね。俳優を解放させる方法論があるんですか。
園 いろいろあって……時期にもよるんだけど、いじめて追い込んだときもありました。昔、吉高由里子を相当いじめた覚えがありますが、それとは逆に、いまは、“オーガニックスタイル”というか、動物と仲良くなるときのように、自由にしていい空間に解き放つんです。彼らはおそるおそる「わんわん」と吠えて、怒られないと安心して駆け回るっていう。それが“オーガニックスタイル”です。

──スタイルを変えたきっかけはありますか?
園 映画のつくり方と同じで、演出も、いつも同じことをやっていると飽きるので、それはもうどんどん変えていきますね。

──これからも変わっていくと。
園 そうですね、これからは混合で。いや、でもいま、元に戻りつつあるかもしれない。「みんな!エスパーだよ!」では、コントにもかかわらず、新人のヒロインを相当厳しくいじめました。

何かをしでかしたいって思いは強い


──女のひとのことはいじめるんですか?
園 いや、そんなことはないです。男もいじめます。

──固定化しないことは、もともと性分なんですか。それとも自分に課しているんですか?
園 かつては、ひとつのところに留まっちゃ駄目だと自分に課していたけれど、それが次第に習慣化されて、いまではもう自然にそうなっています。

──いろいろなやり方で、たくさんの作品を撮っていて、かつ本も出していて、ものすごくパワフルです。
園 だって「ラブ&ピース」にもあったように、25年間も活躍する期間がない年月を過ごしていたんですよ。ぼくが活躍といえるような活躍をするようになったのは、「愛のむきだし」以降なので、40歳後半くらいです。へたすれば「冷たい熱帯魚」以降ですよ。それまで何もできなかったので。

──そんなことは。
園 いやいや、そんなことはあります。だから、ほんとうに何かをしでかしたいって思いは強いですよ。まさに「ラブ&ピース」の主人公のようです。とにかく、いまのうちにやれるものをやろうという思いは強いですね。

──溜め込んできたものをいま、いっきに。
園 そうですね。

──「ラブ&ピース」では、その鬱屈が、平和、恋愛、仕事、人生と、見るひとのあらゆるコンプレックスに突き刺さります。この普遍性は、園さんの長い年月の思いの積み重ねなんですかね?
園 そういうことなんでしょうねえ……。

──その時期があってよかったと思います?
園 いや、それは要らないです(笑)。あってよかったといえばそうですが、当時は堪え難かった。まあ、いまはその経験も受け入れていますけれど。とはいえ、最近出した詩集のタイトルは「受け入れない」なんです(笑)。

──ハハハ。受け入れないんですか。
園 受け入れたくないんだけれど、受け入れることによって力を得るっていうことです。だから、「堪え難い体験よ、ありがとう」とまでは言う気はありません。なぜなら、あのころぼくは死にかけていましたから。

──多忙ないま、お体は丈夫なんですか。
園 人間ドックで診てもらっても何も問題はなかったです。

──1日の睡眠時間は。
園 2時間。超能力です。ぼくのオーラは黄金色という珍しいものなんですよ。

やっぱりゴジラ


──へえ! さて、「ラブ&ピース」もそうですし、「希望の国」や「ヒミズ」など、いまの日本の状況を突きつけた作品も多いですが、今後もこういったテーマは続きますか。

園 もちろん、そういう映画も仕上げてあります。これからも、極端から極端な面をいきます。
──振り幅広くするなかで一番大事にしているものは何ですか。

園 それは、映画ですよ。

──そうなんですね。では、最後に「ラブ&ピース」の怪獣にちなみ、一番好きな怪獣はなんですか?
園 やっぱりゴジラ。あのビジュアルにしびれました。最初、人類の敵だったときから、次第に人類の味方のヒューマン怪獣になってからも関係なく、ずっと好きでした。子供にとっては、敵とか味方とか、大人の思惑なんて、関係なかったんですよね。
(木俣冬)

その・しおん
1961年12月18日、愛知県生まれ。十代のときから詩人として頭角を表し、
1987年、「男の花道」でPFFグランプリを受賞。90年、PFFスカラシップ作品「自転車吐息」は、ベルリン国際映画祭正式招待作品となる。それから18 年の時を経て、2008年「愛のむきだし」でベルリン国際映画祭カリガリ賞・国際批評連盟賞受賞、11年「冷たい熱帯魚」は、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門正式出品、「地獄でなぜ悪い」ではトロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門観客賞受賞など、国内外で高い評価を得る。そのほかの監督作品に、「恋の罪」「ヒミズ」「希望の国」「TOKYO TRIBE」「新宿スワン」など。「リアル鬼ごっこ」が7月公開、「みんな!エスパーだよ!」が9月公開予定。ほか、「ひそひそ星」が公開を控える。テレビドラマの演出、詩集、絵本執筆など多彩に活動している。

ラブ&ピース
監督、脚本 園子温
出演 長谷川博己 麻生久美子 西田敏行ほか
特技監督 田口清隆
主題歌 RC サクセション「スローバラード」

2015年夏、東京。鈴木良一(長谷川博己)はロックミュージシャンを目指していたが挫折し、楽器の部品会社でサラリーマンとしてうだつのあがらない日々を送っていた。同僚の寺島裕子(麻生久美子)への密かな想いもままならないなか、ミドリガメのピカドンと出会ったことによって、鈴木の人生が一変する。
やがてロックスターとして人気を博す鈴木。彼を見守る裕子。鈴木を慕い続けるピカドン。そして、地下でひっそり暮らしている謎の老人(西田敏行)と世間から捨てられたおもちゃたち。彼らの憎しみや愛や夢、様々な想いが膨れ上がったとき、東京にとんでもないことが……。

6月27日(土)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開
公式サイト
配給:アスミック・エース
(C)「ラブ&ピース」製作委員会