「イマココカラ」キュアフローラ、熱唱!
(C)2015 映画プリキュアオールスターズSC製作委員会

写真拡大 (全4枚)

3月14日から公開中の「映画プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪」プロデューサーのギャルマト・ボグダンさんインタビュー後編。映画のメインテーマ「イマココカラ」創作秘話からうかがっていきます(前編はこちら)。

ギャルマト・ボグダン(ボグダン) 今回のメインテーマ「イマココカラ」、たぶん私のプロデューサーエネルギーを100としたら、80くらいはこの曲に使っちゃった。

──80! どの辺りにプロデューサー体力を使ったんでしょうか。

ボグダン 「イマココカラ」がかかるのは、歴代のOPとEDが10曲流れたあと。あんまりプリキュアらしい曲だと、ただの「11個目のオープニング」になってしまう。悩んで悩んで、作詞家の青木久美子さんと作曲家の高取ヒデアキさんと何度も打ち合わせを重ねて、「プリキュアでミュージカルをやるならこういう感じ」みたいなものを作っていこうとしました。

──すごくミュージカルっぽかったです。

ボグダン ピンチのときに、キュアフローラがまず歌い出して、あとはみんながどんどん重ねていって大合唱……というイメージは最初からありました。どん底、暗めなところから始まるけれど、どこかでがーっと変身して、開くような曲。ソロパートを担当した声優さんもプロの歌手じゃないから難しかったと思いますが、成功したと思います。

──最初から大きく変わった部分や、苦労した部分は?

ボグダン プロデューサーとして大変だった部分は……みなさん有名な先生たちじゃないですか。その人達に「もうちょっとやり直してください!」「あとちょっと粘ってください!」と伝えるのはエネルギーがいりました(笑)。でも、その熱に全力で応えてくれました。用意してくださった仮歌も、初代OP「DANZEN!ふたりはプリキュア」などを歌った五條真由美さんが歌ってくれたんですよ!

──す、す、すごい! 「イマココカラ」のメッセージは最初から変わらなかったんですか?

ボグダン いや、なかったんですよ。最初は別の、英語っぽい言葉を入れてました。でも青木さんが「イマココカラ」という言葉をピンポイントで入れてくださって。本当にあの言葉が出た瞬間に、絵がすべて見えてきたんですよ。青木さんは本当に天才だと思いました。映画のテーマが、青木さんの言葉でできちゃった。

──あの曲のあの歌詞から、映画ができた。

ボグダン いろんなものの「イマココカラ」ですよね。プリキュアの11年目、新しいスタートを「イマココカラ」、「Go! プリンセスプリキュア」も始まったばかりで「イマココカラ」……いろんなものが「イマココカラ」。しかも、ちょっと背伸びしてプリキュアたちの活躍を見ている子供たちも「イマココカラ」。いろんなものがこの言葉にすべて詰まっているんです。

──「イマココカラ」がプロデューサーパワーの80%。残りの20%はどこに……?

ボグダン EDですね。もともとEDでやってたような目玉を、真ん中に「イマココカラ」として持ってきた。実は……「じゃあEDをどうしようか?」ってことまで考えてなかったんですよね(笑)。

──「あれ? EDがないや!」みたいな感じですか!?

ボグダン 曲に関しては、最初からタイアップを考えてました。中でプリキュアたちが歌っているので、EDは歌手に歌ってもらう。でも、映像についてはしっかり考えていなかったんですよ。スタッフロールだけ流れるのもいいかもしれないけど、今まであんなにすごいEDがあって期待もあるだろうし……と頭を悩ませた結果、実写というアイデアが出てきました。

──今回のEDは、モーニング娘。'15の「イマココカラ」のMVと、全国5都市の子供たちのダンス映像が流れました。プリキュアシリーズ初めての実写EDでしたね。

ボグダン 1週間で全国を回って。札幌の雪まつりから、東京、名古屋、大阪、博多まで行きました。子供たちを募集したら、いっぱい来てくれた。いやー、子供たちはかわいかった! 一生懸命だし。

──みんな思った以上にちゃんとダンスしていてビックリしたんですが、あれはその場で覚えていたんですか?

ボグダン 募集する前に、着ぐるみのダンス動画を出したんですよ。真島茂樹先生振付のダンスが、すごくわかりやすいのもあって、「覚えて来てね」って言ったら、みんな一生懸命練習してきてくれた。子供たちを見るとやりがいを感じますね。普段現場に立ち寄れないスタッフも今回子供たちに直接会えたので、そういう意味でも楽しかったです。

──撮影で大変だったことはありましたか?

ボグダン 大変とはちょっとズレるんですが、子供たちが「もう一回やりたい!」って何度も言ってた。こっちが「もういいでしょ〜!?」と思うくらい(笑)。あと撮ったのはまだ寒い時期だったんですが、みんなどうしても着てきたプリキュアの服を見せたい。

──寒い!

ボグダン 大阪は雪が降っていたくらいの寒さでしたが、コートのチャックを開けて「下に着てるよ!」ってアピールしてました。風邪引いたら大変なので、1テイクごとに後ろで控えてるお母さんたちに「服着させてあげてくださーい!」って言ってました。

──ちなみに、モーニング娘。'15さんを起用した経緯はどのようなものですか?

ボグダン モーニング娘。さんたちは、プリキュア世代の歌手なんですよね。彼女たちと話すと「子供の頃、キュアブラック派とキュアホワイト派に分かれてました!」「『ハートキャッチプリキュア!』大好きだった!」とかで盛り上がって。EDで着てる服装も、プリキュアを意識して作っているんですよね。

──確かに、プリキュアっぽかったです!

ボグダン でも色も、プリキュアとあまりバッティングしないように考えてくれているんですよ。みんなの熱意も伝わっていたし。

──以前Berryz工房さんとタイアップをしていたこともありましたよね。

ボグダン そうですね、そういう縁があったので頼みやすいということもありました。

──ちなみに、今回の来場者プレゼントは、ほぼ恒例になったミラクルライトではなく、ドレスアップキーでした。もう今回でミラクルライトはやめる、ということでしょうか?

ボグダン 「やめた」というわけではないですね。ドレスアップキーだったら、映画にも出てるし、家に帰ったらおもちゃとして使える。おもちゃが1個増えた、という感じのほうがいいかなと。ミラクルライトは現状では「当たり前のようについている」ものだったので、1回休んでみて、子供の反応を見て次に活かしたいと思います。

──今回の映画は、「ミュージカル」という点もそうですし、EDやミラクルライトなど、実験的な面が多いように思います。

ボグダン そうかもしれないです。当たり前のようにいろんなことをやっているよりは、1回ちょっと新しい目線を変えたものをやりたい、というのがあった。これまで「プリキュア」シリーズを追いかけてきたファンにとっては、今回の映画は賛否両論分かれると思います。

──プリキュアの変身シーン演出も今までにない感じで、かなり驚きでした。登場シーンのバックに映像が流れるという。

ボグダン ああいう形にすれば、全員分の変身シーンを入れることができる。私はあのシーンがすごく好きです。変身BGMがすごくいいし、テンポがいい。あのテンポが全編ずっと続くとよかったな、という反省点もありますね。

──これまでお話を伺っていて、ボグダンさんが「子供」に対してすごく考えてらっしゃると感じました。その思い入れは、ボグダンさんの子供時代を反映しているんでしょうか。

ボグダン うーん……私にはあんまり子供らしい子供時代というものがなかったから。逆に、自分にはなかったものを、子供たちにはやってほしいというのがある。私が生まれた頃には、社会主義のかなり制限された社会の中で生活をしていた。映画やアニメもプロパガンダが多くて。その中で唯一明るかったのが、たまに見せてくれる日本のアニメ。それもアメリカのアニメじゃないから見せてくれるという。子供として日本のアニメが見られるっていうのは、一番楽しい時期でした。あの楽しさは今でも覚えています。

──その楽しさを今の子供たちに送っている。

ボグダン まあ、今の子供はたくさん楽しみがあるから、「プリキュアを見て楽しんでほしい」とは簡単に一言では言えないですけど。でも私達も楽しく作っているし、楽しく見られるような感じを残したい。

──ボグダンさんの子供時代に、「女児向けアニメ」みたいなものはあったんでしょうか?

ボグダン そこまで性別に分かれたものはなかったですね。「アルプスの少女ハイジ」も「フランダースの犬」も、男女関係なく見ていた。男の子は「冒険」として見て、女の子は「感動」として見ていたかもしれないけど。でも最近の子ほど分かれてはいませんでした。

──やっぱりボグダンさんの中には、「子供向けアニメはこうであってほしい」といった思いやこだわりが強くありますか?

ボグダン ありますよ、たくさん。なければたぶんこの仕事をやらない。でも、いつも正しいかどうかはわからない。実はいつも迷っているけど、周りはみんな迷っていて決めないと進めないから、私は「そうだよ!」と言わないといけない。その立場は大変ですよね。アニメってチームワークなので、みんなそれぞれやりたいことがある中で、ある程度線をちゃんと引いて、こだわる部分や任せる部分を分けて作っていっています。

──「プリキュア」シリーズはチームワークの強さを感じます。

ボグダン チームワークはすごく大事です。そんな中で、青木さんの「イマココカラ」のようなすごい言葉だったりとか、絵描きさんの描いた素晴らしい絵だったり、ライターさんがいいセリフを書いたりとか、そういうチームを動かすものがあるのがいいですね。

──製作陣にボグダンさんが一番伝えていたメッセージはなんですか?

ボグダン プリキュアが40人いると、40人の出番を作らなきゃいけない。あとは歌とダンスの馴染み。子供の前には今3人のプリキュアがいるんですよ。変身前のプリキュアと、変身後のプリキュアと、CGのプリキュア。プリキュアは40人じゃなくて、40×3の120人いる(笑)。子供がそこのリアリティにぶつかると、映画に集中できなくなってしまう。子供がちゃんとわかってくれるようにしよう、と伝えていました。

──ボグダンさんは「ハートキャッチプリキュア!」の映画でパリにロケハンに行ったり、新しいことをどんどんしていくイメージがあります。

ボグダン あれはあとで怒られましたけど(笑)。でも、どんな現場でも、なにか1個楽しいこと、新しいことがあるといいですよね。こないだやっていた「暴れん坊力士!!松太郎」でも、「やっぱり松平健さんを口説かなきゃダメでしょう!」。それが「春のカーニバル♪」ではミュージカルだったんです。

(青柳美帆子)