映画「アイドルの涙 DOCUMENTRY of SKE48」
SKE48の結成から現在まで約6年半におよぶ軌跡をたどったドキュメンタリー。2月27日(金)公開。卒業したメンバーのその後にも迫るなど濃密な内容ながら、盛りこめ切れなかったエピソードも結構あり、名古屋での先行上映で舞台挨拶に立ったメンバーからは早くも続編を石原真監督に要望する声もあがっていた。
なお今後も5月に乃木坂46、8月にNMB48、11月にHKT48と関連グループのドキュメンタリー映画の公開が予定されている。
(画像は映画の前売券)

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SKE48のドキュメンタリー映画「アイドルの涙 DOCUMENTRY of SKE48」が本日、2月27日から全国の劇場で公開されます。

あらかじめ断っておくと、SKE48ファン、それも初期から応援してる人であれば、この記事を読む前にまず映画館へ見に行ってください。ネタバレとかいう以前に、少しでも前情報を入れてしまうときっと楽しみが減ってしまうはずなので。

内容について心配することはありません。何しろ監督は、NHKで前田敦子の卒業特番や「AKB48 SHOW!」など48グループ関連の数々の番組を手がけ、ファンからの信頼も篤い石原真プロデューサーです。どの場面も私たちファンの心をつかんで離しません。SKE48の歴史に残るあの場面もこの場面もちゃんと入っています。また、インタビューには現役メンバーだけでなく卒業生もたくさん出てきます。私が見に行った名古屋での先行上映では、ある卒業生がスクリーンに登場したとき劇場が一瞬どよめきました。そのほか話には聞いていたけど実際に見るのは初めてという映像も結構あって、ファンならば驚くことも多いはずです。そして見終わったあと、このグループを推してきてよかった! と心の底から思うことでしょう。

そんなわけでこの映画はファン必見の内容になっているのですが、ここはぜひファンでない人にも見てほしい。以下、そういう人たちのためにちょっと紹介してみます。

SKE48は2008年に名古屋・栄の専用劇場を拠点に、AKB48の初の姉妹グループとして誕生しました。映画の前半では、結成時のメンバー(1期生)に対する振付師の牧野アンナによる厳しいレッスンの様子が大きくとりあげられています。その厳しさの裏には、先行するAKB48に対しどうにかして独自色を打ち出さなくてはならないという事情がありました。SKE48のお披露目は日比谷野音でのAKB48のコンサート。雨の降りしきるなか彼女たちが披露したのは、AKB48の劇場公演曲である「PARTYがはじまるよ」でした。その力強いダンスは、「あんなハードな『PARTYがはじまるよ』は見たことがない」とその場に居合わせた人たちに言わしめることになります。

お披露目のあとも厳しいレッスンは続きます。とりわけ1期生によって結成されたチームSの初のオリジナル公演「制服の芽」の開始直前のレッスンは壮絶をきわめました。このとき、セットリスト中の一曲「ピノキオ軍」のダンスに牧野はなかなかOKを出しません。とくに出だしの松井玲奈の掛け声が決まらず、ついに彼女は体の不調を訴え倒れ込んでしまいます。それでもほかのメンバーが松井に手を差し伸べる雰囲気ではとてもなく、レッスンは中断することなく続けられました。

じつはこのときの様子を記録した映像の一部は、以前にもシングルCDの特典DVDに収録されており、ファンのあいだでは賛否両論を呼びました。今回の映画では牧野と松井本人の証言とあわせてこの映像が初めてノーカットで公開され、レッスン場での一部始終をより正確に把握することができます。

このように厳しいレッスンを潜り抜けてきた1期生だけに、あるとき劇場公演で起こったトラブルにも見事な対処を見せます。面白いのは、その3年後、当時加入したばかりだった5期生も同様のトラブルに見舞われ、まったく同じようにそれを切り抜けたことです。この二つの場面からは(いずれも今回が初公開の秘蔵映像です)、SKE48の精神みたいなものが1期生から後輩へ脈々と継承されていることがうかがえます。

「継承」はSKE48を語るうえで欠かせないテーマだといえます。その一方で、ほかの姉妹グループとくらべてSKE48ほどメンバーの入れ替わりの激しいグループもないというのもまた事実です。年末から春先にかけてのいままさにこの時期には、いつの頃からか卒業発表があいつぐようになりました。今年も4月までに9人(姉妹グループとの兼任メンバーも入れれば10人)の卒業が決まっています。

SKE48の場合、ベテランばかりか次世代を担うことを期待されたメンバーの卒業も目立ちます。なぜ彼女たちは卒業を決めたのか。映画ではその謎を解く鍵として、学業と芸能活動の両立という問題が大きくクローズアップされています。

メンバーの卒業発表があるたびに、ファンからはSKE48がこのまま終わってしまうのではないかと心配する声が上がります。でも実際には、これまで多くの主力メンバーが卒業しながら、SKE48はいまなおちゃんと続いている。若手のなかにも主力を担うメンバーも出てきました。昨年12月発売のシングルで、5期生の宮前杏実と6期生の北川綾巴(りょうは)が松井珠理奈・松井玲奈以外のメンバーでは初めてセンターに選ばれたことは象徴的なできごとでした(その発表の様子は映画の冒頭にも出てきます)。

いわゆる次世代メンバー以外にも、須田亜香里のように握手会はじめファン対応に力を入れることで48グループの選抜総選挙の上位常連にまでのしあがったメンバーもいます。須田は映画のなかで自分のノートにひそかに貼っているある物を公開し、その強い野心をあらためて感じさせました。もちろん追うメンバーがいれば追われるメンバーもいる。インタビューでは、あるメンバーが追われる立場からその心中を涙ながらに吐露しています。

私も含め、自分の応援するメンバー(推しメン)がすでに卒業しているファンには、ときどき寂しさを覚えることもないではありません。この映画でも、2012年にSKE48が初めて単独出場した紅白歌合戦の舞台裏など、あまりに感慨深くて涙なしでは見られない場面もたくさんありました。しかしグループ自体は、結成以来のスピリットを受け継ぎつつ、いまなおメンバー同士が熾烈な競争を展開しながら日々変わり続けているのです。私はこの映画を見て、いつまでも過去にこだわっていてはいけないとようやく踏ん切りがつきました。

まあ一般の人には、こんなフクザツでめんどくさいファン心理などどうでもいいでしょう。ただ、名古屋にこんなふうに頑張っている女の子たちがいるのだと少しでも多くの人に知ってもらいたい。それを伝えるだけの力をこの映画は持っていると、自信をもっておすすめします。
(近藤正高)