『朝日新聞』2007年12月28日付

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 2007年10月30日の夜、埼玉県川口市のアパートに何者かが押し入り、そこに住む会社員の渡辺沙織さん(26=当時)を殺害して現金やキャッシュカードを奪うという事件が発生しました。

 犯人逮捕前、このカードを使って現金を引き出す男の画像が広くテレビニュース等で報道されていますが、何やら可愛らしいニットキャップをかぶり、水色のジップアップの上着の襟元を上げ、口元を隠していて、目はギラギラしており、いかにも異様な感じだったのでご記憶の方も多いと思います。

 渡辺さんは自室でカーディガンで後ろ手に縛られ、顔にストッキングが巻かれた状態で亡くなっていました。

 同年12月4日の夜、渡辺さんの住んでいたアパートの別の部屋に住む女性、Aさんを暴行するなどして、逮捕されたのは、当時同市に住んでいた自称配管工・清田龍也受刑者(39=当時)。のちの調べで渡辺さんへの犯行を認めたため、強盗殺人でも逮捕されました。

金を奪っただけではなく身体まで…

 一審は2008年、さいたま地裁で開かれています。何度か公判を傍聴しましたが、清田が犯した罪はこれだけではないですし、上記2件の犯行もひどいものでした。清田は渡辺さんの事件を含め5件の罪に問われていました。すべて埼玉県内での犯行で、カネと女目的です。

埼玉県南部のアパートに住む女性(22=当時)の部屋に窓から侵入し、女性に暴行した上現金約1000円を奪った川口市のアパートに住む女性(19=当時)の部屋にベランダから侵入し、現金約1万2000円やキャッシュカード複数枚を奪った川口市の女性の家に玄関から侵入、女性にナイフを突きつけ金を要求したが抵抗にあい逃走埼玉県南部のアパートに住む女性(28=当時)の部屋にベランダから侵入し、女性に暴行を加え、現金約1000円とキャッシュカードを奪い、ATMから約95万円を引き出した

 冒頭陳述などによれば清田はパチンコ屋の寮に妻子と住んでいましたがギャンブル癖がありパチンコのために隠れて借金をするようになったといいます。パチ屋の常連から「鳶職の方が儲かる」といわれ鳶に転職しましたが、清田によれば「職場は遊び好きの人間が多く賭博にのめり込んでしまいました」だそうです。

 さらに借金は膨らみ、これをパチンコで返すしかない、とさらにギャンブルに手を出しまくることに。結局妻子にも愛想をつかされ独り身になった清田はネカフェ難民のような生活をしていたそうで、闇金の返済もあったことから一連の犯行に手を染めたとのことでした。

 身勝手かつ考えなしの行動にびっくりしてしまいます。ギャンブルの借金をギャンブルで返すってカイジぐらいにしかできません。

 こうして昼間は無施錠で女性が一人暮らししているような家を物色し、タイミングを見て犯行を重ねていたそうです。しかし、起訴されているうちの数件は部屋に住む女性へ暴行まで加えているのですから、金だけが目的だったのかは甚だ疑わしいです。カネを奪っただけでなく体まで、とは強欲にも程があります。

 しかも渡辺さんの犯行時には避妊道具を持参していたことも明らかになっております。大きく報じられたATMでの現金引き出し時の服装は渡辺さんのもので、身元がバレないようにとの変装だとのことでした。

 検察側の被告人質問では渡辺さん殺害の様子をこのようにたどたどしく語っています。

「ナイフを突きつけて何と言いましたか?」
「『静かにしろ、騒ぐと殺すぞ』……」
「『うつ伏せになれ』とは?」
「あ、その後……『騒ぐと殺すぞ』というと、うなずいたので、うつ伏せになれと言いました」
「怖い思いをさせたの分かる?」
「分かります……」
「両手、ストッキングで縛ったんですよね」
「はい、彼女が履いていたやつで……」
「脱がせたんですか?」
「ハイ、でも上手く脱がせられなかったです。彼女は強姦されると思ったようですが、抵抗していたんで……素直に、という感じではなかったです」

 こうして金品を奪うため部屋を物色していたところ、渡辺さんが逃げ出したため、激しく殴り、殺害したとのことでした。

「遺体の鑑定によると、左右の目に擦過傷など、色々傷があるんですが、これ、あなたが全部やったんですか?」
「はい。首を絞める事と、暴力……交互にやってました」
「静かにさせたい思い?」
「そうです」
「渡辺さんは静かになったの?」
「いえ、ずっと助けを求めていました」

 殺害後、渡辺さんを再びベッドへ移動させ、玄関ドアを開けて様子を見ます。通路に血が落ちていたので拭き、その後トイレで用を足して、ベランダを開けて様子を見ました。

「どんな気持ち?」
「きちんと、言葉にするの、難しい……」
「あなた、混乱してる割に、冷静な行動とってますよね」
「ハイ」
「亡くなってることをどうやって確認しましたか?」
「最初は息をしてるか確認……肺の動きとか、確認……その後、陰部や肛門触りました……」
「陰部や肛門を触ったのはなぜですか?これで死亡を確認しようとしたんですか?」
「動いてほしかったっていう気持ちが強くて……」
「陰部やお尻、どうやって触ったんですか?」
「指を入れて……(聞き取れず)下着をカッターで切った……それをずらしたりとか」
「で、肛門なり陰部に指を入れたというわけ?」
「ハイ」

 死亡の確認のためお尻に指を入れる? 何を言ってるんでしょうか。

 清田には死刑が求刑されましたが無期懲役が言い渡され、いったんは控訴しましたが取り下げ、これが確定しています(2008年12月22日付)。この裁判は裁判員制度施行前夜に行われており、裁判官だけで裁かれておりますが、もし裁判員裁判であれば、無期懲役ではすんでいないような気がします。

著者プロフィール

ライター

高橋ユキ

福岡県生まれ。2005年、女性4人の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。著作『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)などを発表。近著に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)