撮影:石川純

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11月1日から30日までの1か月間、東京・池袋で「フェスティバル/トーキョー14」(F/T14)が行われている。2009年から始まった国際舞台芸術祭だ。演劇やダンス、映像などさまざまな作品を池袋で見ることができるこのイベントは、今年で7回目の開催となる。
今年のキャッチコピーは「境界線上で、あそぶ」。

11月9日に上演されたのは「羅生門|藪の中」。黒澤明の映画で有名な「羅生門」を舞台化したものだ。「羅生門」は、芥川龍之介の有名な短編「羅生門」の舞台設定を借りて「藪の中」を脚色した作品。

ガイドブックにはこうある。
〈「真実」はどこにあるのか。パレスチナ+日本で探す芥川文学の「核」〉
〈紛争が日常化したパレスチナでの現実を、マスメディアが伝える画一的な情報を超えて、強烈なユーモアとアイロニーに昇華する〉
なんだか難しそうでビビっていたが、会場の池袋・あうるすぽっとに訪れているのは意外にも若い人が多い。
パンフレットと一緒にもらったチラシには、パレスチナの現状がまとめてある。でも〈『羅生門|藪の中』本編の内容とは直接関係ありませんが、ドラマトゥルクの長島が、見聞きした範囲で紹介します〉の但し書き付き。えっ、直接関係ないの? どっちなの?

とまどっているうちに、ひげをはやした男性の役者が出てきた。芝居がはじまったのだ。
出演者は全員パレスチナ人。
喋る言葉はアラビア語や英語で、後ろに日本語の字幕が表示される。
なんと、自己紹介からスタート。
といっても、長いものではない(字幕も出ない)。英語で名前を言うだけ。ときおりカタコトの日本語(「コンニチハ」みたいなやつ)を交えて、客席からも笑いが起こる。

幕があくと、雰囲気はガラッと変わる。赤と青と緑の小さな球が連なって、すだれみたいな舞台美術。つかみづらい奥行きの中で展開されるダンス、そして「羅生門|藪の中」の物語。

結論から言えば、もらったチラシにあったとおり、確かに今回の「羅生門|藪の中」本編とパレスチナ問題とは直接関係はなかった。
舞台は京都の山科だし、登場人物の名前は「多襄丸」「女」「男」だ。

死体の捨て場所として有名な「羅生門」に訪れた客人が、二人の男にとある事件のあらましを語る。男が一人藪の中で死んだ。そこにいたのは、罪人の多襄丸と、死んだ男と、その妻の三人。
なぜ男は死んだのか? さまざまな証言が交わされるが、どれも食い違う……。

ストーリーも、かなり小説の「藪の中」に近い。
でも、確かにこれはパレスチナ問題について訴えかけている作品だ。

詳しく知らない方のためにパレスチナ問題をざっくりと紹介したい。ユダヤ人が一九四八年にイスラエルを建国する際に、もともと住んでいたパレスチナ人を追放し、多くの難民が生まれてしまった。留まったパレスチナ人も、二つの地区に分断されており、実質占領状態にある……これがパレスチナ問題だ。
といっても、私はイスラエルのこともパレスチナのことも、何が起こっているのかも詳しく知らない。これは私だけではなく、多くの人がそうだろう。

真実はいったいなんなのか? そもそも真実なんて存在しているんだろうか?
舞台「羅生門|藪の中」では、「パレスチナ」という言葉は一言も出てこない。でも、どうしても頭の中で結びつく。
もらったパンフレットには、キャストのプロフィールが書いてある。そこには「占領下エルサレム出身」「難民キャンプ出身」といった文字が並んでいる。

アーティスティック・ディレクターはアルカサバ・シアター(パレスチナ)の芸術監督ジョージ・イブラヒム。
ジョージはこの舞台について、「あなたに見えたもの、それが答えだ」と言っている。

「羅生門|藪の中」は、フィールドの異なるジャンルの若手が抜擢されている。
演出は坂田ゆかり、美術は目(荒神明香・南川憲二・増井宏文)、ドラマトゥルク(リサーチ、作品制作)は長島確。目は舞台美術をやるのが初めてなのだそう。
今年のF/T14は、そういった若手のアーティストによる作品が多く、また、舞台美術家といったこれまで表舞台で紹介されることのあまりなかったアーティストを前面に出してコラボレーションしているものも。その題材は、古典名作に挑むものや、完全新作などもある。いくつか紹介しよう。

・「春の祭典」
白神ももこ(演出・振付)×毛利悠子(美術)×宮内康乃(音楽)
公演中〜11/16 東京芸術劇場

・「桜の園」
ミクニヤナイハラプロジェクト 矢内原美邦(作・演出)
公演中〜11/17 にしすがも創造舎

・「動物紳士」
森川弘和(振付・出演)×杉山至(美術・衣装デザイン)
11/15〜19、21〜24 シアターグリーン

帰り際、F/T14の広報さんとお話できた。予想以上の若い客層に、喜んでいる様子だった。
「まだ嗜好のかたまってない若い脳に、刺激をいっぱい与えてほしい!」
池袋にいって、がーんとショックをうけてこよう。(青柳美帆子)