『盤上の詰みと罰』松本渚/アクションコミックス
帯文「どうせ一カ月で記憶がリセットされるなら大好きな将棋のためだけに生きよう。」

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『月下の騎士』『3月のライオン』『ハチワンダイバー』『5五の龍』『聖―天才・羽生が恐れた男』
いやいや他にもたくさんある将棋マンガの傑作たち。
さらに、そこに新たな将棋マンガが参戦か。
いや、ちょっと違うタイプなんである。
『盤上の詰みと罰』(松本渚/アクションコミックス)。
1巻が出た。
将棋監修は戸辺誠六段。
主人公は霧島都。明るくまっすぐな少女。女流棋士、15歳で六冠達成。
って設定だけならストレートな天才美少女将棋マンガなのだが……。

17歳のとき誰かと対局し気を失ってしまう。
そして、1カ月毎に記憶が、その日まで戻ってしまうようになってしまったのだ。
「私いま日本全国将棋ひとり旅なうなんです!!
何をどれだけ積み上げても一カ月したら全部0になっちゃいますから…
だからもう大好きな将棋のためだけに生きようと思いまして
記憶がリセットされるまで毎日色んな人と対局する事にしたんです!」
なんという設定。
記憶がリセットされてしまうために、彼女は従来の将棋マンガの登場人物と違う運命を担わされる。
「…おぼえてないんです この数カ月間に出てきた新手も戦ったであろうタイトル戦も そのタイトル戦で負けた事も…」
「私を私たらしめてきた将棋を この頭を満たしてきた将棋を これから先ただ失っていくしかないんですよ…!!」
めきめきと強くなったりしない。
さらなる高みを目指してライバルたちと戦い続けるという構成になりようがないのだ。
だから、彼女はプロを引退し、ひとり将棋旅なう、なのである。
強くなることを目指し宣言するのは、主人公の霧島都ではなく、彼女が出会う人たちの側だけだ。
「ぼく もっと強くなるから 霧島さんが さびしくならないように すぐ思い出せるくらい強い棋士になるから…!!」
「将棋の世界で生きる人間として もっともっと強くなりたい」
彼女の目的は、倒れる前の最後の対局の相手を見つけること。
その人とまた対局すること……。

なぜ5年前の対局で倒れてしまったのか……。
相手は誰だったのか?
そして再戦するチャンスは?
という謎を軸に、彼女が将棋を通じて出会う人たちとのエピソードが描かれる。
良い憂さ晴らしとして将棋をやっている青年。
霧島都を目標にする小学生名人。
22歳で六冠達成の女流棋士。
大阪の元真剣師。
「17歳ってね最強なんですよ…特に女の子は」
霧島都について取材しているフリーライターの三和美幸が言う。
「恋愛に対してはどこまでも愚直で全てを投げてしまってもかまわない…そういう年齢なんですよ」
霧島都が、愚直で全てを投げ出してもかまわないと思えたものが将棋なのだ。
1巻は全6話。
巻末には戸辺誠六段による棋譜解説つき。
青春将棋マンガ『盤上の詰みと罰』(松本渚)オススメです。
(米光一成)