吉田美和歌詩集『LOVE』『LIFE』/新潮社(写真は『LOVE』)
本書の刊行を記念した「あなたのお気に入りの歌詩を投稿しよう!!」という企画が12月末まで行われている。送られてきたメールは、ドリームズ・カム・トゥルー公式サイトのFacebookページで紹介されている。
http://dreamscometrue.com/news/2014/10/22/7569

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これは詠み人知らずになっても、節がなくなっても現代まで詠み継がれている『万葉集』に匹敵する可能性を秘めていると思ったんです。

今年でデビュー25周年を迎えた、ドリームズ・カム・トゥルー。8月にはアルバム『ATTACK25』が発売され、オリコン週間アルバムチャートで1位を獲得している。
そんな今なお人気・実力ともにトップを走るグループのボーカリスト、吉田美和の書いてきた「歌詩」をまとめた歌詩集『LOVE』と『LIFE』が2冊同時刊行された。

元々はツアー会場で限定版として、セットで販売されていた本書。監修はメンバーの中村正人。構成・編集を書評家でライターの「トヨザキ社長」こと豊崎由美が担当している…ってなんで?石原慎太郎からも、小説世界のダメ男からも遠く離れた存在のドリカムとトヨザキ社長が、どうして結びついたのか?
巻末には、監修者・構成者ふたりによる特別対談が2冊ともに収録されている。そこで、意外な組み合わせの経緯も明かされている。

中村:そもそもは吉田が社長の大ファンで、ファンクラブ会報誌で前のアルバム『LOVE CENTRAL』の歌詩評に始まり、読書座談会、それから書評連載をお願いするようになりました。そうした、文字や言葉や小説で吉田とつながった社長に、どうしても中心になってもらいたかった。(『LOVE』特別対談「未来に手渡す現代の『万葉集』」より)

本の中身をみていくと、曲が発表された年や収録作・売上枚数といった情報もなければ、吉田美和本人による解説などもない。歌詩を過去の名曲として懐かしむのではなく、あくまで「今、ここ」にある詩として読んで欲しい。そんな意図が感じられる、「出典知らず」の構成なのだ。

『LOVE』は、恋愛にまつわる歌詩が発表された年代もバラバラに並べられている。とはいえ、ある曲が別の曲の返歌と読めたり、続編と読めたりと、読み手の解釈で一つ一つの曲をつなげていくこともできる。
その中で語り手は〈あなた〉に対して、顔や声や仕草すべてを〈すき〉と全肯定し〈こんなすきで どうしよう〉(「DARLIN’」)と思うほど一途だったり、〈抱き合って 雲突き破って 今夜の月まで飛んでいこう〉(「しあわせなからだ」)とぶっ飛んだ提案をしたり、〈NUDEの夜が更けたら あなたを襲いに行く〉(「NUDEの夜」)なんて肉食系だったりと、好きを表現する方法がとにかく多彩でユニーク。

『LIFE』の方は、ほぼ年代順に並べられている。だからといって、ドリカムに関する予備知識は必要ない。25年の歴史は、歌詩の内容の変化からも読みとっていくことができる。
一方で、思いを寄せる人との別れの時に、さびしさと未練を最小限の言葉で表明する〈そっか〉の繰り返し(「またね」)や、結婚の日のうれしい慌しさを描く〈チェックして あとで書き込む! futarinokadode.com 時間だ!いきなりどっと混む〉(「今日この佳き日」)のような言葉遊びも目を引く。吉田美和のストーリーテラーとしての魅力とテクニックも堪能できる。

歌詩を読んで改めて感じるのが、どの曲も単なるラブソングや応援ソングとは、一味も二味も違うということ。耳心地のいい言葉の羅列ではなく、登場人物の前に進もうとする姿が、聴き手・読み手を励ましてくれる。そしてそこには、論理という背骨がしっかりと通っている。

「決戦は金曜日」(『LIFE』収録)で、〈わたし〉は男性にどうやら告白しようとしている。気の多い〈わたし〉は、それまで逡巡していた。でも、〈あなたといる時の 自分が一番好き〉という結論が、一路彼の元へと彼女を向かわせる。
わかる。恋人と一緒に歩いている時、周りに何を見せびらかしたいかって、彼女じゃなくて彼女と付き合っている自分だもの。経験ないけど。
言っていることが正しいか正しくないかは、関係ない。その曲でその人なりの論理によって、動いたり考えたりする様が時に痛快だし、時に意味深でもある。

そんな一筋縄ではいかない歌詩の数々を前に、読者もお行儀よくする必要はない。自分を歌詩の世界に投影してみたり、語り手が主役の連続ドラマとして視聴者気分で読んでみたり、どう読むかは自由だ。

試しに、同じ文字を扱う書き手として読んでみると、襟を正される。
似たようなモチーフでも個性の違う話を描き分け、難しい言葉を使わずに読者の興味を引きつける。『万葉集』を目指していなくても文章を書く上で必要な要素が、吉田美和の歌詩には揃っている。
一つでも欠けてしまえば、詠み人知らずとなる遥か以前に、書いたものは読み捨てられてしまうに違いない。自分ができているかというと…ドリカムの曲聴いて、元気出そっ。
(藤井 勉)