男女恋愛問題は一旦おいておこう! これからは恋愛のない男女関係を見たい! 『息子の嫁』は、家族であり家族じゃない微妙な関係を描くマンガ。なんといっても、ちょっと不器用な優しさあふれるおっさんが、一番愛おしい。

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もう、疲れたんです。
男女の恋愛沙汰に。
いや恋愛マンガは大好きですよ! でもラブストーリーの面白さって、そこに至るまでの過程で悩んだり苦しむところでしょう? 元気なときはモリモリ読むよ。でも仕事をしてクタクタな時に読むのがしんどいのよ、おっさんだから。
ハーレムもの(たくさんの女の子にモテモテなストーリー)もいいね。だけどドタバタハイテンションはちょっとくたびれてしまう。
そのくらい心が疲弊することも、あるのよ。

こうなった時、無性に読みたくなるのは4つ。
「家族もの」(『サザエさん』『クッキングパパ』など)
「女の子or男の子のみの閉じた関係もの」(『ゆゆ式』『きんいろモザイク』など)
「孤独謳歌もの」(『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』など)
そして、「恋愛のない男女関係もの」。

『息子の嫁』(Kindle版)は、そういう疲れたぼくにドンピシャでした。
タイトルのとおり、息子のお嫁さんとの共同生活の話です。

主人公の村上縁は、女子高の高校教諭で、結構な年齢。そこそこの年齢の息子がいる、中年のおやじです。
クラスの女子から人気があるけれど、女子高生を相手にするのは面倒臭い。
テンションについていけず、女性として見ることはまずない。

そんな彼の息子の巽が、死にました。
10年近く会っていない息子。死んだあと住んでいたアパートに向かってみると、そこにいたのは幼い子供のような外見の少女。
彼女は言います。「巽さんの妻です」。

設定自体はものすごく重いです。
しかし、息子の嫁を自称する少女・桃があまりにもポンコツで、重い空気がありません。一応16歳なので結婚できる年齢ではある。けれど思考はまるで子供。
かつ、貧乏生活すぎて驚くほど世間知らず。お前は妖精かなにかか。

とてもかわいい子なので、主人公が若ければ異性として意識したでしょう。
しかし中年のおっさんだと、そういう意識の余地が皆無です。限りなく娘に近い。
加えて相手が「息子の嫁」となると、距離が極めて微妙。他人であり、他人じゃない。
親子でも友人でもない「恋愛の介在しない男女関係もの」が作り上げられています。

施設育ちで、生活力がなく、世間一般に馴染みきれず、学歴がない、息子の嫁の桃の言動がユニークなこの作品。
ご飯代に500円をもらっては「こんな贅沢をして大丈夫なんですか!!?」と言う。今までに一度も自動車に乗ったことがなくて興奮する。自分にお金を使って親切にされることに慣れてないため服を買ってもらう度に奈落みたいな顔になる。
一応いつも自立しようと気を使っているけれど、あまりにも生活力がなさすぎる。

それに対し、行くあてのない彼女を引き取らざるを得なくなった縁の、無口で無愛想な優しさが、「寡黙な日本男子」の理想像そのもの。
面倒臭がって目を合わせない割に、桃に気を使って、一番風呂をゆずるわ、家で生徒同然に勉強を教えてやるわ、料理はいつも準備してやるわ、服を色々買ってやるわ。
自立しようとする桃が危なっかしすぎる。だから無視しているように見せかけて、黙って気を使ってあげている。
これはどう考えても、二人の間で、間違いは起こらない。
ああ、ほっとする!

最初にあげた4種類のマンガジャンルのメインターゲットの一つは、おそらく社会人でしょう。
たくさんの恋愛物語は既に読んでいる。自分の身近な問題としても男女関係がある。そういう層。
家族ものや、同性の空間ものは、終わらない日常のほのぼのを、ちょっぴりセンチメンタルを混ぜて描くことが多く、仕事と人生に疲れた脳をトリップさせるドラッグ作用があります。
後者二つは、草食系男子を通り越して、性欲ゼロに近くなっていきます。
特に今作のように男やもめと少女の組み合わせは、「少女と暮らしたい」という理想を満たしつつ「面倒な恋愛がない」。少しファンタジー感を加え、優しさのリアリティを引き立ててやることで、究極の癒やしが得られます。

そして、読み終わった後気づくはず。
少女じゃなく、おじさんの方に癒やされている。
疲れている時こそ、実は「理想のオヤジ像」に優しくされたいことに気づかせてくれるマンガです。
もうちょっとアクションやSF分が欲しい場合は、今井哲也『アリスと蔵六』もオススメします。
(たまごまご)

忍 『息子の嫁』(Kindle版)