ミニ四駆をただのおもちゃだと思うな、モータースポーツで、全力でやる遊びだ。『二ツ星駆動力学研究所』はミニ四駆にかける大人たちの大人げない情熱の日々を描いたエッセイ。滑稽ながらも全力で遊ぶ情熱がビシビシ伝わってくる。

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林健太郎『二ツ星駆動力学研究所』は、今が第三次ブームにあたるらしい、ミニ四駆制作を描いた作品。
ミニ四駆ブームといえば、第一次が『ダッシュ四駆郎』、第二次が『爆走兄弟レッツ&ゴー』……だと思う。
いやごめん、そんなにぼくはミニ四駆詳しくないです。アバンテなんとかを買って組み立てて終了したくらいでして……。
最近になって、ぼくと同世代の友人が、大人の技術力で改造したミニ四駆があまりに神々しかったのね、オーラというか。じゃあ今からミニ四駆の勉強してみようかな、このエッセイマンガ役に立つかな、と思って買ったのがこの作品。

正直に言います。出てくるネタそのものは、全然初心者向けじゃない!
マスダンパーの効率がどうのとかローハイトワイドスポンジタイヤのセッティングとか言われても、ちぃともわからん。
一応説明はこまめに入っています。
とはいえ専門用語多すぎるよー、これミニ四駆玄人向きすぎなんじゃないのかー!?とか、最初は思いました。

でも、全くミニ四駆を知らない人こそ引き込まれるよこれ。ソースはぼく。
大の大人が、お金や技術力や時間を惜しげもなく投入し、本気になって遊びつくす様子が、どうしようもなく魅力的なのです。

実際に作者が経験したミニ四駆作成を描いた本作の中には、社会人しか出てきません。
例えば、ミニ四駆チーム「二ツ星駆動力学研究所」の所長オンダワラ氏。とある会社の社長で、自分の事務所にコースを常設しています。もちろん仕事ではないよ。趣味だよ。
ここに夜な夜な(社会人ですから)集まって、みんなで速さとカッコよさを極めるべく、ミニ四駆を作ります。
お金はあるからね、パーツの大人買いをして、中から一つだけ、一番いいのを選ぶ……なんてこともできる。贅沢! だが速さのためだ!
レースの際は、多少……かなり大人げないノリで戦う。そのくらい本気ってことです。

本気すぎる大人たちから、さりげなく出るセリフが実にかっこいい。

「女の子口説くより、楽しいこと知ってるオトナがね、ホントのオトナなんだよ」
トランスフォーマー大好き女性、エリさんのセリフ。まだ21歳。どんな人生送ってきたんだろう。
基本男ばかりのミニ四駆チームで、女性はエリさんとオシカちゃんの二人だけ。でもどのメンバーも女性だからと意識は全くせず、一緒に全力で遊ぶのみ。
オトナだねえ。

「否定されても怒らねえのはな、本気で作ってねえ証拠だ。本気で語ってねえ証拠だ」
所長の親友にして幼なじみ、通称工場長の言葉。
工場長と所長はいつも言い争いどころか噛み付きそうな喧嘩ばかりしています。
冗談ではない本気の喧嘩。それは彼らの「全力の遊び」の一つです。

「好きなように作ったらいいんじゃないですか? 楽しんでいる人に文句言う人なんていませんよ?」
ミニ四駆経験の浅い、女性所員(ほんとは所長のところのOL)オシカちゃんの言葉。
みんながどんなにすごかろうと、腰が引けたりする必要はない。
気持ちが楽になる名言。

「会う言い訳があるって素敵だなってさ。たとえそれがミニ四駆でも、おかげで一緒にいられるんだから。でもいつかミニ四駆やらなくなってもこうしていられるのかな……」
「……その時は……別の「言い訳」がきっと出来てますよ。ずっとそうでしたから」
エリさんとオシカちゃんの会話。本気すぎてぎゃーぎゃーやっている面子を、比較的冷静に見ている二人は、なぜ夜な夜なミニ四駆作りをしているのかに対してこう考えています。
本気で遊ぶ、ということは、本気で仲間をつくる、ということだ。

「遊ぶ時は全力で遊べ! 楽しんでねえヤツが……楽しいもん作れるわけがねぇからな」
名言の宝庫、オンダワラ所長。一言一言がマジでかっこいい。
まあ半分は、言い訳やわがままなんですが。
最も子供っぽく、勝つためなら手段を選ばない所長の信念がこの一言。
全力って意外と大人は出せなくなっているもの。
子供時代夢中になったあの感覚、忘れてはいないか。

最初はあんまりにも無茶苦茶で自分勝手だった面々にヒいていた作者も、いつの間にか気づいたら巻き込まれ、惹かれてしまって、マンガにするほどになっていきます。
大人の本気は、一言では語り尽くせないほど、面白くて、たまにセンチメンタルで、熱い。
なによりこれだけ一つの遊びに夢中になれること、仲間がいること自体が、一番羨ましい。

林健太郎『二ツ星駆動力学研究所』1
『二ツ星駆動力学研究所』2

(たまごまご)