『ホドロフスキーのDUNE』6月14日より全国順次公開中。『リアリティのダンス』は7月12日より。

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『ホドロフスキーのDUNE』が上映スタートした!
気宇壮大な構想の果てに空中分解してしまった映画をめぐるドキュメンタリー作品だ。
主役アレハンドロ・ホドロフスキーは、『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』『サンタ・サングレ/聖なる血』といった熱狂崇拝映画を生み出した監督。
だから、ぼくなんぞが、なんか書く必要もないぐらいに熱のこもったテキストが、たくさんある。
「ホドロフスキー新聞」にもディープで熱いメッセージが集結しているので、ぜひ読んでみてほしい。

だが!
神聖化されすぎていて逆に近寄りがたく感じてる人。
怖気づかないで!
そういった人にもぜひ観てほしいのが『ホドロフスキーのDUNE』だからだ。
ホドロフスキー作品をいきなり観るのは衝撃が大きすぎるって思ってる人は、ファーストステップに最適なこのドキュメンタリーをぜひ観るべし。

っていうことで、映画を年に3本しか観ない人でも『ホドロフスキーのDUNE』を観るべき理由5つをドゥーンと紹介するよ。

1:ギーガーが出る!
映画『エイリアン』のエイリアンをデザインし、独特でヌメヌメでテラテラのグラフィックスで、それ以降の映画に、いや、映画どころかありとあらゆる表現に影響を与えたデザイナー、H・R・ギーガー!
『ホドロフスキーのDUNE』には、H・R・ギーガー本人が登場し、語っているのだ。
しかも、ギーガーさん本人が、素敵。ギーガー作品を観て、イメージする人物像にぴったりで、ギーガーギーガーって感じで動きしゃべるのだ。感動する。

2:魂の戦士を集める物語だ!
ホドロフスキー監督は、『DUNE』を製作するスタッフを集めるときにこう語る。
「この映画に携わる全ての人間は魂の戦士だ。最高の戦士を探す」
そして、次々に魂の戦士たちを集めるために突撃していくのだ。
サルバドール・ダリに、「映画に出てくれ!」と頼む。
ダリは返す。「愛人を姫役にしろ」
ホドロフスキー、OK。
ダリさらに。「燃えるキリンと象をだせ」
ホドロフスキー、まさかのOK。
ダリさらにさらに。「ハリウッドでギャラの一番高い俳優にしろ、撮影1時間10万ドルだ!」
魂と魂のぶつかり合いだ。
そんなに出せるわけがない。ホドロフスキーはどうやって、ダリを納得させ、出演快諾に持ち込むのか!?
他の魂の戦士たちも、豪華メンバー。
ミック・ジャガー。
ウド・キア。
オーソン・ウェルズ。
ピンク・フロイド。食べながら話を聞くメンバーに、ホドロフスキー「これは人類の歴史で最高に重要な作品だぞ、ビッグマック食べてる場合か、ふざけるな!」。
絵コンテ、キャラクターデザインは、フランスの国民的漫画家メビウス。
建造物デザインに、H・R・ギーガー。
宇宙船デザイン、クリス・フォス(めちゃくちゃファンキーでかっこいい宇宙船!)。
特殊効果は、「2001年宇宙の旅」のダグラス・トランブルと考えて会いに行くが、決裂。
「魂の戦士じゃない!」
そして、特殊効果は、「ダーク・スター」(衝撃のラスト!)のダン・オバノンだ。
魂の戦士が集結していくエピソードにワクワクするぞ。

3:ホドロフスキーさんがキュートすぎる!
監督のホドロフスキーが語るシーンがたくさんある。
無茶な人なんだ。
「90分にしよう」って言ってるのに、「この作品は12時間だ!」とか言っちゃうんだから。
ところが、その無茶を実現したくなるキュートさが監督にはある。
とくに、頓挫した『DUNE』が、その後デヴィッド・リンチ監督によって作品化されたときの語りは、落語のように笑えて、ちょっと泣ける。
「絶対みないもん! リンチ監督が、デューンを作ったら、そりゃ傑作だよ、傑作に違いないよ、観ない、そんなもの観たくないよ」といったノリでダダをこねつつも、魂の戦士たるもの観なくちゃいけないってんで、観に行ったら……。

4:『リアリティのダンス』の前日譚として。
ホドロフスキー監督の『リアリティのダンス』が7月12日に公開だ。
85歳、23年ぶりに新作を作ったきっかけが、このドキュメンタリー作品そのものなのだ。
そこにはプロデューサーと監督の、複雑で繊細な想いがあった。
熱く激しいドキュメンタリーで、唯一といっていい静かなシーン。男の友情に胸うたれる。
『リアリティのダンス』を観る前に、ぜひ観てほしい。

5:元気がでる!
すごいものを作ろうとし、すごいパワーを注ぎ込み、だが失敗してしまう。
それに巻き込まれた人、巻き込んだ人、関わった人、数々の証言やエピソードが畳み込まれている90分の映像は、われわれに何を与えるか?
勇気だ。
「失敗してもかまわない、それも一つの選択なのだ」
このドキュメンタリーを観ると元気がわいてくる。
おじけづいてやらないことが一番失敗だ。
全力でやり抜けば失敗など失敗ではない。
何をやろうと人生に何一つ失敗などないのだ。
そう実感する。
ホドロフスキーは語る。
「人生で何か近づいてきたら“イエス”と受け入れる。
離れていっても“イエス”だ。
『デューン』の中止も“イエス”だ。
失敗が何だ?
だから、どうした?
『デューン』はこの世界では夢だ。
でも夢は世界を変える」
夢は世界を変える。
(米光一成)