「できれば養ってあげたいと思っているんです」オーナー美容師妻 ミハルさん 32歳
■盤石、没落……妻たちの違いを検証
高度成長、バブルからバブル崩壊、ITバブルから不況、デフレ、リーマンショック、そしてアベノミクス……変動する景気は時に天翔る龍のうねりのようだ。そして龍のうねりが激しくなるほど、その背に掴まり切れず振り落とされる人が増える。一方、うねる龍の背をうまく乗りこなし続ける人たちの秘密、そして違いは何か……。
巷では専業主婦への風当たりがますます強く、遂には「専業主婦は、獲物をがっちりと掴みゆっくりと夫の社会的リソースと稼ぎを吸い尽くす『タガメ女』。そして夫は知らず知らずに吸い尽くされ、ひからびて死んでいく『カエル男』」と、日本の標準サラリーマン家庭を一刀両断にする本まで現れた。
果たしてセレブ妻は“タガメ女”なのか。
リーマンショック以降も、盤石で幸福なセレブ妻を取材した。オーナー美容師の妻、浮き沈みの激しいスポーツ界からは野球選手の妻、そして自身も経営者である40代美魔女系の経営コンサルタント妻。3人とも、女性でも見惚れてしまうほどの美女。さらに内面もすばらしい女性たちだった。
夫のサロンで取材させてもらった笑顔も仕草も「可愛い」女性。それがミハルさんだ。しかも言うことも可愛い。
「サプライズって、あまりないんですが、今年の誕生日に初めて彼が予約してくれて、イチゴ狩りに行ったんです」
セレブ妻とイチゴ?
いまひとつイメージとは違うが、それまでの旅行は全部ミハルさんが手配していたので、初めての彼からのサプライズは本当に嬉しかったのだという。
「もし俺が失敗したらどうする?」と冗談のように夫に聞かれたことがある。
「でも、それに対して、そうなったらどうしようっていう感じはまったくなかったんです。働く機会があるなら私も働きたい。これまで私を養ってくれた分、もし機会があるなら私が養ってあげたいぐらいに思っているんです」
この覚悟がセレブ妻なのだといつも思う。今までインタビューした妻たちも「リスクを取る」覚悟があった。「夫が失敗しても、一緒にリヤカー引いてでもやっていける」と言い切る人もいた。経営者の妻たるもの、リスクを取る覚悟は必須。どんなにたおやかな外見でも、それが彼女たちの共通項だ。
基盤にあるのは「夫への深い尊敬と愛情」。最初は尊敬が勝っていたという。
大学生の頃、街でサロンモデル(美容院のヘアスタイルモデル)としてスカウトされたのが初めての出会いだった。最初は「オーナーとモデル」。夫は15歳も年上で、雑誌で頻繁に顔を見るような人気美容師として活躍していた。
サロンモデルを3年務めた後告白され、2年付き合ってプロポーズされた。
「真剣に仕事をしている姿を最初は尊敬し、それから愛情に変わっていったんです。プロポーズされたとき、『お店のスタッフは家族同然。ちょっと若いけれど、相撲部屋の女将さんのような存在になってほしい』と言われました。でも逆にそれが嬉しかった。大好きなみんなと家族の一員になれるから」
結婚当時はエステ業界で働いていたが、仕事が終わる時間が遅く、彼を6、7時間待たせてしまうこともあった。
「今はとりあえず俺のサポートをしてほしい」
頼み込まれ、半年悩んだ末仕事を辞めた。今は朝から晩まで彼が優先だ。
とにかく忙しい彼の健康には気を使う。朝から野菜スープ、野菜のグリルなど野菜中心のメニュー。
「納豆とか、健康に気を使った食事、それも野菜だけは無農薬を取り寄せて、それを毎朝出すようにしています」
結婚前、まったく料理ができなかったミハルさん。肉好きの彼に初めて出した料理が、唐揚げにハンバーグ。でも、さりげなく言われた。
「君の料理はすごくおいしかったんだけれど、やっぱり体のことも考えてほしい。お肉は好きでもバランスよく野菜も必要でしょう。料理も仕事もストーリーが大事なんだよ」
それから料理本を買い込み、独学で学び、知り合いのシェフに料理を習いと猛勉強。今では月1回スタッフを家に招いて、お店のような料理が出せるようになった。
夫婦のルールは朝晩一緒にお風呂に入ること。「目は口ほどにものを言わない」というのが夫の口癖で、お風呂で会話をたくさんするようにしている。
「すごく忙しいので、朝お風呂に一緒に入りながらさり気なく嫌なことなどを聞いたり、他愛ない話をするだけなんですが、彼はスッキリするみたい」
トップでオーナーの彼が、誰にも言えなかったことを言える存在がミハルさんだ。
「私の存在は奥さんであり、彼女であり、家族なんですけれど、『親友のような存在でいてくれるのがすごく嬉しい』って言ってくれました」
夜遅い夫のために食事はもちろん、アロマを炊いてリラックスできるようにしたり、立ち仕事の夫の体をいたわるマッサージもする。
「でも彼は束縛するタイプじゃないんです。年上ですが、今まで知っている人の中で一番発想も新しい。仕事でも家庭でも、『〜しちゃ駄目』と言われることはひとつもなく、『全部やってみたらいいじゃん。駄目だったらまた考えたらいいよ』という発想なんです」
家計は通帳ごと渡されているが、「ちょっとでも高い買い物は絶対に彼に相談します。洋服は『若い子の感覚が知りたい』って必ず一緒に買い物に行きます。私はブランド物には興味がないけれど、彼が買ってくれたものは大切にしています」。
今はスタッフの子たちの相談役でもある。深刻そうなら、こっそりと彼に伝え、対処できるようにしている。
「もう何をおいても、やはり優先順位は彼が一番なんです」
(ジャーナリスト 白河桃子=文 澁谷高晴=撮影)