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将棋のプロ棋士が英知を懸けてコンピュータ将棋ソフトと戦う、それが「将棋電王戦」である。

第1回は2012年1月、引退した往年の大棋士、故・米長邦雄永世棋聖が対戦するも敗北。そして、2013年4月に行われた第2回には、トップクラスのプロ棋士を含む5人の現役プロが参戦。人類対コンピュータの頭脳戦は、将棋ファンの垣根を超え、社会現象と呼ばれるまでに大きな注目を集めたが、結果はプロ棋士側から見て「1勝3敗1引き分け」と完敗。

プロ棋士の存在意義が問われる結果に、次回の開催が危ぶまれる声もあがっていたが、主催のドワンゴと日本将棋連盟は21日、「第3回将棋電王戦」の開催を発表した。第2回大会から変更となったルールも発表されたが、それがどのような影響を与えるのかに注目しながら、記者発表会の模様をレポートする。

○プロ棋士側は勝たなければいけない戦いに臨む

記者発表会の冒頭は「第3回 将棋電王戦」のPVが上映された。「第2回 将棋電王戦」のPVはそのクオリティの高さから大きな話題となっていたが、今回も第2回に勝るとも劣らないさすがの完成度。昨日から早速話題となっているが、まだの方はニコニコ動画で公開されているので、ぜひご覧いただきたい。

PV終了後に登場したのは、谷川浩司日本将棋連盟会長、川上量生ドワンゴ会長、片上大輔日本将棋連盟理事の3人。冒頭のあいさつの中で谷川会長は「今回は勝たなければいけない戦い、万全の態勢を整えて臨みたい」と語った。

○第3回将棋電王戦出場棋士、屋敷伸之九段が登場

3人のあいさつ終了後にシークレットゲストとして登場したのは「第3回将棋電王戦」に出場する5人のプロ棋士のうちのひとり、屋敷伸之九段である。

屋敷九段はタイトル3期の実績を誇り、現在も順位戦A級に在籍するトップクラスの棋士のひとり。将棋界の最年少タイトルホルダー(18歳6カ月)の記録を持つ天才肌の棋士でもある。第2回大会の大将を務めた三浦弘行九段(当時八段)とは甲乙つけがたい実力の持ち主だが、実績としてはタイトル1期の三浦九段を上回っている。屋敷九段の出場経緯については、自ら手を挙げたとのことで、谷川会長は「プレッシャーに強いタイプで期待している」と語った。

筆者は「第2回将棋電王戦」出場者が決定した時期に、屋敷九段に「もし出場の依頼が来ていたら受けていましたか」と聞いてみたことがある。対して屋敷九段は「むしろ依頼が来ないかなと期待していたんですよ。コンピュータに勝てるとしたら今しかないと思いますし」と笑って答えてくれた。笑い話ではあるが、当時からソフトとの戦いに熱意を持っていたことがうかがえる。

他4人の出場者について谷川会長は「ほぼ内定している状況で、できるだけ速やかに発表したい。メンバーは、屋敷九段と同年代の棋士から、生きのいい若手もいる」と語っている。

○新ルール(1) 統一ハードウェアの使用

屋敷九段の紹介に続いて今大会の決定事項およびルールが発表された。開催日程は2014年3月〜4月、対戦方式は5対5の団体戦形式で、ここまでは前回と同様である。

続いて今大会からの新ルールであるが、まず、出場ソフトは主催者が用意する統一のハードウェア(ハイスペックPC・GALLERIA)を使用する。このルールについて川上会長は「電王戦は将棋ソフトの開発者とプロ棋士の戦いであり、人間対人間の戦いであるということを前回の大会で実感しました。そこをはっきりさせるために、共通のハードを使用することでプログラムの優劣を競う戦いにしたいというのが新ルールの趣旨です」と語った。

第2回大会では、次鋒のponanzaと大将のGPS将棋が、複数台のハードウェアを接続して並列的にプログラムの処理を行う「クラスタ」と呼ばれる技術を採用して好結果を残していたが、新ルールでは不可となる。ソフト側にとっては武器のひとつを奪われたとも言えるが、どれだけハイスペックなハードを用意できるか、というハードウェア勝負の形になるのは、ソフト開発者も本意ではないと思われるため、妥当なルール改正と言えそうだ。

○新ルール(2) 練習対局環境の提供

続いて「プロ棋士側には本番と同じソフトおよびハードで事前に練習対局できる環境が提供される」という新ルールが発表された。前回大会では、ソフトを提供するかどうかは開発者の意思に任されており、提供したとしても本番までに改良を加えるのは自由であったため、こちらもプロ棋士側に優位となるルール変更である。

このルールについては、統一ハードウェアのルールよりも、開発者側にとって大きな問題となるかもしれない。通常コンピュータープログラムは、同じ条件で同じデータを入力すれば、常に同じ解答を導き出す。だが、それでは事前の研究でプロ側にソフトに確実に勝てる手順を見つけられてしまう可能性が高い。そのため今大会に出場するソフトには、できるだけ広い序盤戦術を用意することや、計算で最善手と判断した指し手以外の手をランダムに採用するような工夫が求められることになるだろう。

○新ルール(3) 出場ソフトは「将棋電王トーナメント」で選出

第2回大会では、世界コンピュータ将棋選手権で上位に入賞したソフトに出場権が与えられていたが、今大会では、2013年11月にドワンゴ主催で行われる「将棋電王トーナメント」で1位から5位に入賞したソフトに出場権が与えられることとなった。

1のソフトには「電王」の称号が与えられ、同時に1位から5位までに総額500万円の賞金も用意されるとのことで、ソフト開発者にとっては大きな目標となることだろう。ただし、「第3回 将棋電王戦」には、トーナメント出場時のソフト、およびハードでの出場となるため、ソフト開発者側は対ソフト戦と対プロ棋士戦の両方に対応したプログラムの開発が求められることになる。

以上が記者発表された今大会のルールの概要である。

なお、持ち時間については現時点では確定していないものの「前回大会の4時間を基本として詰めていく」と谷川会長は語っている。

○記念イベント「電王戦タッグマッチ」が8月31日に開催

続いて「第3回将棋電王戦」の開催決定を記念するイベント「電王戦タッグマッチ」の企画発表が行われた。

「電王戦タッグマッチ」は「第2回 将棋電王戦」に出場した5人のプロ棋士が、対戦したソフトとタッグを組んでトーナメント形式で対戦する。プロ棋士は、ソフトが示した指し手を参考にできるほか、実際の局面よりも数手進んだ仮の局面をソフトに考えさせることも可能となっており、いかにソフトを使いこなせるかが重要になることだろう。電王戦開催の立役者となった故米長邦雄永世棋聖が残した「コンピュータとの共存共栄」という言葉を実現する好企画と言えるかもしれない。

なお、当日のイベントの模様はニコニコ生放送で完全生中継されるほか、解説には森内俊之名人が登場する。

○「第3回将棋電王戦」プロ棋士の勝算は

記者発表会の最後に質疑応答が行われたが、筆者は担当理事の片上大輔六段に今大会の勝敗予想をたずねてみた。

これについて片上六段は「出場棋士やソフトが確定していないので予想は難しいですが……」と言いながらも「第2回の経験を生かせば棋士が勝ち越せるのではないか。また、そうなるようにしっかり準備をしなければいけない」と力強く語ってくれた。

少し無茶な質問を片上六段にたずねたのには理由がある。「第2回将棋電王戦」が行われている間や閉幕後に、20代から30歳前後の若手棋士たちを中心に、電王戦対局の詳しい検討が行われていたのだが、片上六段は若手棋士のリーダー格として検討の輪に加わっていたのだ。

その片上六段が「勝算あり」と言うからには、多くの若手棋士たちも同じように考えていると見ていいだろう。「第3回将棋電王戦」は、プロ棋士たちのリベンジに大いに期待できそうである。

(宮本橘)