キリン一番搾り(左が日本製、右がドイツ製)

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海外でも日本のビールは売られており現地の他社工場を使ってライセンス生産されているブランドも多い。現地生産の場合、同じ銘柄とはいえ水や原料など製造環境を日本と全く同じにすることは不可能だ。ビール会社によれば、日本製と海外製で地域に合わせて風味を変えるようなことはしていないというが、一方で製造環境の違いによる味の変化はあるのだろうか。

そこで「日本製の日本のビール」と「欧州製の日本のビール」の味を比べてみた。今回、比較対象にしたのは「キリン一番搾り」「アサヒスーパードライ」という2銘柄。テイスティングの仕方は、缶ビールをシャンパン用のフルートグラスに注ぎ試す形をとった。

最初に味見したのはキリン一番搾り(欧州名:KIRIN ICHIBAN)。この銘柄はドイツ南部の町フライジングにあるバイヘンシュテファン醸造所で造られている。ここはビールの祭典オクトーバーフェストが開かれるミュンヘン郊外にあり、世界最古のビール醸造所として有名だ。欧州でもロシアの場合は、モスクワ・ブリューイング・カンパニー社で製造されたものが流通しているが、今回はドイツ製を使用した。

色は日本製、ドイツ製とほぼ変わらないが、日本製はホップの香りがやや強い。味は、日本製は苦みが強く余韻が長い。一方でドイツ製は甘くまろやかで余韻は短い。ドイツ製は日本のビールにドイツ南部の特徴が控えめに顔を出すような感じだが、両者に特別大きな違いがあるわけではない。

次はアサヒスーパードライ。欧州における同ブランドは英シェパード・ニーム社、チェコ・スタロップラーメン社、露バルチカ社の3社と提携し生産されている。今回はチェコ製と比べた。チェコはピルスナー・タイプのビールが生まれた国。日本のビールの多くはこのピルスナーという種類だ。

こちらはグラスへ注いだ時に大きな違いが出た。チェコ製は泡立ちが少ない一方で、日本製は泡立ちがよかった。色は変わらない。香りは少しチェコ製が強い気もするが、ほぼ同じ。味は日本製がより辛口で、苦く鋭さがある。チェコ製は日本製に比べれば甘い。日本製は味に広がりがあるのに対し、チェコ製は日本製より後味がすっきりしていた。

結果、キリンとアサヒの両銘柄とも、日本製と欧州製で大きな差があるわけではないが、製造されている国の特徴は端々に感じられる。同じ銘柄の中にも微細な風土の違いは反映されるようだ。
(加藤亨延)