「初午の日」シーズンには、惣菜売り場にこんなポスターが貼ってあるはずです。

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2月といえば、何を食べます? まず、何と言ってもチョコを食べたい。……いやいや、日本人は豆か恵方巻きでしょう!
……いやいや、いやいや。私は、いなり寿司を食べたいね。

と言っても、なんのこっちゃわからない人が多いと思います。ぶっちゃけ、浸透していない。まず皆さん、「初午の日(はつうまのひ)」って御存知ですか? これは、農業や商工業の守護神として広く崇敬されている「稲荷神(いなりしん)」が降りてきた日のこと。
ちなみに、稲荷神の使いは「狐」。「狐」の好物といえば「油揚げ」。というわけで、初午の日に「油揚げ」や「いなり寿司」等をいただくよう言い伝えられているという。

そんな大切な日が、もう間近なんです! 何しろ毎年2月の最初の午の日こそが「初午の日」であり、今年は新暦で言うところの2月9日、旧暦で言うところの3月17日がその日なのだ。
しかし、何度も言うが浸透してない。原因は、いくつか考えられる。まず、節分が近すぎる。強大なライバルだ。
そして、もう一つ。例えば「節分の日」って、2月3日と決められてるじゃないですか。でも、「初午の日」は違うのです。毎年、アッチコッチ行ってしまう。新暦だと、来年は2月4日だし、再来年は2月11日。そして、難儀だったのは去年。なんと、2月3日だった! 「節分の日」と、丸かぶり!! アチャー……。

しかし、この状況にもめげず浸透させていきたい。そんなハードな取り組みに勤しんでいるのは、こちら。
「初午の日にいなりを食べようという動きは数年前から起こっており、いなりメーカーから小売店に働きかけをしているようです。また“3大稲荷神社”である伏見神社の地域でもイベントを開催するなど、町おこしとしても普及し始めております」
お答えいただいたのは、「日本惣菜協会」の担当者。同協会では日本の食文化の継承を目的に、今年から「初午に稲荷を食べて福招く」を旗頭とした普及活動をスタートさせている。

では、どんな普及活動を展開しているのか? 
「惣菜専門店、コンビニ、スーパー、デパ地下など惣菜を扱う企業にイベントへの参加を呼び掛けています。また共通POPを作成し、統一感を持って販売イベントを実施することで広く普及することを期待しています」(担当者)
中食業界が一体となって、日本古来の伝統食の伝承や地域惣菜の普及を売り場から働きかける。そんな活動が展開されるようだ。

そして注目したいのは、いなり寿司のバリエーション。実はあるんです、様々なタイプのいなりが!
まず松田食品工業は、関西のいなり寿司(関東と比較して約3分の1の大きさ)を取り扱う。いっぱい、食べられそうじゃないですか? だからこそ「願い事の数だけ、いなり寿司を食べよう」と呼びかけているらしいのです。なるほど、たくさん食べなくちゃいけないな……。

そして、もう一つ。「みすずコーポレーション」は、その名も“変わりいなり”なるいなり寿司を展開させます。
ちょっと、画像をご覧ください。カラフルでしょ? 見た目があまりにも新境地なのだが、味の方もスペシャルだ。「梅」、「かりん」、「りんご」、「抹茶」、「しょうが」、「ゆず」、「黒糖」、「ぶどう」、「一味」、「あんず」、「塩」、「味噌」、「桜(桜餅)」といったバリエーションのいなりが堪能できるらしい。
「2010年頃、沖縄産黒糖を使った『黒糖いなり』の製造を始めたのが“変わりいなり”のスタートになります。それからは、高知県産ゆず果汁を使った『ゆずいなり』など原材料の産地にこだわるフレーバーを使用したアイテムが増えていきました」(同社・担当者)
いや「しょうが」とか「一味」辺りは、まだ想像がつく。しかし「りんご」や「ぶどう」なんて、これいかに!?

もう、ここまで来ると論より証拠です。実際に同社へお伺いし、この“変わりいなり”たちを食べに行ってきました!
しかし、何から食べていいかわからない。だって、どれも出来上がりの想像がつかないブツばかりで……。ええい、ままよ。特に予想のつきにくい「ぶどう」(紫色のいなり)から、敢えて行かせていただきます。パクッ! ……ぶどうだ。笑っちゃうくらい、ぶどう。“ぶどう風味”とか“ぶどうテイスト”なんかじゃなく、完全にぶどう。でも、イケちゃうんです。ありゃー、こんないなり初めて!

この驚きは、「かりん」や「りんご」の時も同様だった。まず「かりん」は、口に入れた瞬間に柑橘系の香りが広がる。フルーティ。お子さんとか、絶対好きな味のはず。
「りんご」には実際に長野県産りんごが使われており、おやつ感覚でイケてしまう。シャリも、りんごの味がするし!
「開発は、本当に大変でした……。特に果物系の『りんご』や『ぶどう』の出来上がりを想像すると、『それ、食えんのか?』っていう(笑)」(担当者)
何が大変だったって、あげとシャリの組み合わせのハードルが高い。しかし「若者や子供さんにも認められなければ」という思いを胸に、頑張った。結果、いなり寿司の新たな境地を見事に開拓していると思う。

他も、文句なしに良かったです! 生産量日本一の西尾産抹茶を活用した「抹茶いなり」は濃厚で、女性人気獲得は必至。「黒糖いなり」はあげの甘さが上手く活かされており、さとうきびとのマッチングが絶妙。「桜」は、あげだけ食べても桜餅を食べてる錯覚に陥るほどのクオリティ。花見をしながら食べてみたい、そんな再現性と完成度を誇っていた。
「『見た目がきれい』、『ちゃんとりんごの味がして、酢飯にも意外と合う』といったお声を、今までにいただいております」(担当者)
ここで、一つ注意点を。これらは、家庭では作れません。だって、ご飯を作るにも大変な苦労が伴いますよ? 「ぶどういなり」のシャリなんて、明らかに作るのは難しい。でも「初午の日」シーズンに合わせ街の惣菜コーナーで広く展開されるので、皆さん楽しみにしていてください。

偉そうに語って来ましたが、私も日本にこのような文化があるとは全く知りませんでした。完全なる初耳。
しかし、これは日本の伝統である。食を通じ、受け継いでいきたいのです。何せ、商工業の神様が降りてきてくださるんですよ? 忘れちゃいけない日です。
(寺西ジャジューカ)