森瑤子が愛した「ヨロン丼」は味噌汁付きで800円。ガーリックと七味をきかせたサーディンに、スダチを搾っていただく。家でも真似したくなるおいしさ。1988年、与論島に別荘を建てた森瑤子は引越したばかりで食材がなく、たまたまあったオイルサーディンの缶詰から生まれたアイデアメニューとか。

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小説の中に登場する食べ物の描写というのは、どうしてあんなに魅惑的なのだろうか。私なんぞは根が食いしん坊なせいか、書店で新刊のページをぱらぱらとめくって美味しそうな描写があると即買いしてしまったり、読んだ後に同じものを食べたくなって作ることもしばしば。

そんな活字派グルメ(!?)にとって夢のような場所が、東京・目黒にある日本近代文学館内にこの秋、オープンしていた。その名も「BUNDAN(ブンダン)」という名のカフェである。
「内田百ケンの朝食セット(ホットミルクと英字ビスケットのセット」「村上春樹の朝食セット」にはじまり、「向田邦子のビーフストロガノフ」「宇野千代のそぼろカレー」「森瑤子のヨロン丼」(オイルサーディンを使った丼もの)、などファンならずとも気になるメニューがいっぱい。

ドリンクも「TERAYAMA(寺山)」「AKUTAGAWA(芥川)」「OUGAI(鴎外)」といった文豪の人生や作品からイメージを膨らませたオリジナルブレンドコーヒーのほか、「谷崎潤一郎の炭酸水(ペリエ)」「堀口大學のシャンパン」などなど、メニューの説明を読んでいるだけで文学の世界に引き込まれてしまう。コーヒー豆は袋入りのものが店内でも販売されているので、ここでしか買えない東京みやげとしても喜ばれそうだ。

プロデュースを手掛けたクリエイティブカンパニー「東京ピストル」スタッフの桜井さんにお話を伺ってみたところ、以前ここは「すみれ」という食堂だったのだが、来館者の減少によりクローズしたままになっていたのだとか。そこで、文学をキーワードにくつろげるサロン的な空間をつくろう!ということで立ち上がったのが「東京ピストル」の皆さんだった、というわけである。

10月2日のオープン以来、シニアから大学生カップルまで幅広い年代の人々が訪れているそう。近くには「日本民藝館」「旧前田侯爵邸」といつた趣きあるスポットが点在しているので、散歩の途中に立ち寄る人も多いという。

「従来の文壇バーというと、あくまで作家と編集者が集うところで、一般の人にはクローズドな場というイメージがあったと思います。BUNDANでは、一般の方にカフェという形態でもっと気軽に文学に親しんでもらえたら、という思いがありました」とのこと。

なお、カフェの棚を埋め尽くす2万冊の本はすべて閲覧可能だが、これはすべて「東京ピストル」代表である草なぎさんの蔵書だったものということでビックリ。よく見るとマンガなどもあり、本好きな友人の書棚を眺めているような親しみがわいてくる。
今後、月1ペースで新メニューも増えていく予定で、すでに「谷崎潤一郎のホットサンド」などが決定しているそう。個人的には、乙女系のカリスマ・森茉莉さんのメニューなどもぜひ登場を期待したいところ……。いつ訪れても新たな発見がある、東京の新名所となりそうだ。
(まめこ)