2011年と2012年、その2年間で、アルベルト・ザッケローニが日本代表に落としてくれた最大の功績は、欧州のスタンダードを日本代表に持ち込んでくれた、という事ではないかと思う。就任当初は、一昔前のサッカーをやるのではないか、と危惧されていたところもあったと思いますが、しかし、実際にザックが日本代表に持ち込んだサッカーというのは、近年の欧州のサッカー界ではスタンダードとなっていながら、まだ日本のサッカー界ではスタンダードとはなっていなかった、コンパクトな守備ブロックを作る、というサッカーでした。

それは、加茂周、岡田武史、フィリップ・トルシエ、という流れの中で継承されていた、ゾーンプレス、という考え方からは1つ先に進んだ考え方で、簡単に言ってしまえば、いかにしてゾーンプレスの効果を高めるのか、もしくは、いかにして負担の少ないゾーンプレスをやるのか、という事を考えた結果として、コンパクトな守備ブロックを作れば、そういう事が実現できるようになる。つまり、選手間の距離が近い、ラインを中盤でも最前線でも作る、という事によって、ゾーンプレスの効果性と省エネ性を高める、という事。

本来の守備ブロックというのは、ゾーンプレスから進化してきているので、あくまでもDFラインは高く保つという事を前提としており、従って守備的な戦術ではないと言えると思います。しかし、実力的に劣るチームが実力的に勝るチームと対戦する場合には、どうしても守備の設定位置を低くしなければならなくなるので、そうなってくると必然的に守備ブロックの位置を低くして戦うチームというのが多くなってきますから、それによって、守備ブロックを作る戦い方=守備的な戦い方、というイメージが出来上がってしまったのかなと思います。

しかし、本来の守備ブロックの考え方というのは、それが「4−4」であろうと「4−3」であろうと「3−4」であろうと、その位置をなるべく高い位置に設定して、そこでのゾーンプレスを効かせて、あるいは、ラインコントロールを効かせて、ボールを奪ってから時間を費やさずに得点を奪う、という事を目的としていますから、従って、リトリート状態で作る守備ブロックというのは、本来の守備ブロックという考え方からは離れてしまうと言えると思います。つまり、守備ブロックとリトリートはイコールではない、という事ですね。

それから、もう1つ、守備ブロックという事を考える時に重要なのは、それはマンツーマンと相対するものではない、という事で、要するにそれがゾーンとマンツーマンの併用、という事になる訳ですが、モウリーニョのサッカーにおける強さの秘訣、モウリーニョのサッカーにおける守備の強さの秘訣、というのはそこに理由があって、そのゾーンとマンツーマンを併用させた守備というのを、現在最も上手くチームに落とせる監督というのがモウリーニョという監督である、そのように言えると個人的には思っています。

実際のところ、守備ブロックを作る、という事は、形だけそうするという事はどの監督であってもできますし、また、ゾーンプレス、すなわち、ハイプレス、という事も、形だけそうするという事はどの監督であってもできるのですが、しかし、本当の意味での守備ブロックやハイプレスをチームに落とせる監督というのは少なくて、残念ながら日本人監督には、まだそのレベルの監督というのが存在していないかなと思います。もちろん、世界においても、そういうレベルの監督というのは少ないので、特に日本人監督だけが、という事ではありません。

従って、トルシエであってもイビチャ・オシムであっても、当然、ジーコはそうだった訳ですが、あまり守備ブロックという事を念頭に置いたサッカーというのはやっていなくて、1つの局面において数的優位を作る、という事は、岡田監督もやっていましたが、あくまでもそれは運動量に依存したものであったり、もしくは、数的優位の作り方として間違っていたものであったり、という事で、そこから守備ブロックを作るという方向性へは流れなかった事が、日本代表もしくは日本サッカーの問題点でもあったと思います。