皿に盛られた雷鳥。

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今フランスはジビエの季節。ジビエとは野生の鳥獣肉のこと。秋になると狩猟された野生動物の肉を扱った料理がレストランのメニューを飾る。なぜなら、秋は冬に備えて野生動物が食物をたくさんとるため肉質が良くなっているからだ。

フランスで食される代表的なジビエといえばキジ、シカ、ウサギなど。なかには日本では珍しい動物もある。その一つが雷鳥。日本で雷鳥は天然記念物に指定されているので、こっそり食べない限り(こっそりもダメです)捕まってしまう。中国の四川省では闇でパンダを食べることができるという噂を聞いたことがあるが、それに準じたことをフランスではできるというのか! 一体どんな食感なのだろう……食べてきた。

訪れたのはジビエ料理で有名なパリ市内のレストラン。「ジビエやってます」の張り紙には今扱っている野生動物のリストが書いてあった。本日入荷しているのはシカと雷鳥。早速、前菜に鴨のテリーヌ、メインに雷鳥と、味を比べるため普通の鳥(鴨)も注文して、鳥づくしで料理が運ばれるのを待った。

まず鴨がテーブルに並んだ。肉に癖はない。添えられたバゲッドを手でちぎりながら、繊細な味を舌で確かめつつテリーヌの食感を楽しんでいく。この後運ばれてくるメインの前座を務めるべく、前菜にぴったりの一品だ。合わせて頼んだ白ワインも進む。至福の一時。

鴨を食べ終え前菜の余韻に浸るなか、いよいよメインの雷鳥がやってきた。効果的に焦げ目がついた焼き加減に食欲がそそられる。 もっとも大きな部位には扇のように切れ目が入れられていた。肉質は硬いのだろうか? ナイフを肉へ差し込むと、思ったとおりの感触。ナイフで切った一片を口へ運んだ。

独特な風味が舌を襲う。どこかで食べたことある味……そう、レバーだ。そして野性味あふれる締まった食感 。今まで雷鳥を食べたことないし、それがどういう味覚的イメージを持つのか的確に想像したことはないが、味は「雷鳥」としての寸分違わないものだった。 おいしいと思うけれど好みが分かれる味だろう。皿には栗のペーストが添えられており、味に飽きた場合は、また雷鳥の肉の癖が強すぎると感じた場合は、これが良いクッションになってくれる。雷鳥と栗……テーブルの向こうには、眼下に紅葉が進んだ麓を従えた山岳地帯が広がる。平原の鴨から高山の雷鳥へと続く道。サーブされた赤ワインが絶妙のマリアージュをみせる。これぞジビエの極み。

ところで雷鳥(フランス語でGrouse)はどこで獲られたものなのだろうか。レストランに聞くと主な産地は英スコットランドとのこと。日本の雷鳥とは種類が違うため、厳密には天然記念物を食べているわけではない。さらにジビエにも種類があり、本来は狩猟した野生動物を指すが、捕らえてから餌付けしたものや、育ててから野に放ったものもジビエと見なされる、また広い意味で牛、豚、鳥、羊、馬など家畜以外の畜産品で飼育されたものを指す。

ジビエは遠いフランスの食文化かと思われがちだが、日本でもジビエに積極的に取り組んでいる地方がある。長野県や和歌山県では、県内で急増し農林業被害対策として駆除したニホンジカやイノシシを、ジビエとして広める取り組みを県内のレストランとともに進めているのだ。 じつは日本でも身近になりつつあるジビエ。一度ご賞味あれ。
(加藤亨延)