1994年に語った自らの「アイドル哲学」を、2012年の高橋由美子さんが振り返る

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「20世紀最後のアイドル」と呼ばれ、1990年代の週プレで最も多くの表紙を飾ってくれたひとりでもある高橋由美子さん。94年、20歳のときに語った彼女のこの言葉は、“アイドル冬の時代”といわれた当時、強烈なインパクトを与えた。

「いくつになっても、みんながアイドルって呼んでくれるのならアイドルですから」

この発言から18年。現在は“日本一チケットが取れない劇団”「劇団☆新感線」などから、多数のオファーが舞い込む舞台女優として活躍中の彼女に、あえて聞く「今でも、この発言のときの気持ちのままですか?」

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―20歳のときのご発言ですが、今、お読みになってどんな印象ですか?

高橋 「おまえ、よく言った!」と(笑)。今も、別に(アイドルと)言わなくなったわけではなくて、誰からも聞かれなくなったんで言っていないだけなんですが(笑)。私自身は別に今も変わっていませんしね。

―ライバルを聞かれて「強いて挙げるとすればミッキーマウスかな?」ともおっしゃってますね。

高橋 そんなつまらないことも言っていましたねえ(笑)。

―いやいや、「アイドル冬の時代」に、アイドルの牙城を孤軍奮闘状態で守っていた当時の高橋さんとしては完璧すぎる答えです。あの頃は、高橋さんと同世代の女のコでも「アイドル」と呼ばれるのをイヤがって、「アイドルじゃないです、女優です」とか「ミュージシャンです」とか言うコが多かったですもんね。

高橋 でも私は別に「女優です」って言い切るまで成長もしていないし、アーティストというほど歌がうまいわけでもないと思っていましたから。だったら両方でやっていくアイドルが私の中では一番ベストかなと思い、そこでトップになってやろうというところはありました。

―そんな時代にあまりにも堂々とアイドルとおっしゃるので、腹がすわった人なのか、あるいはぼんやりした人なのか、どっちだろうって思ってました(笑)。高橋さんの雰囲気ってどちらにも取れるんですよ。

高橋 なるほどね(笑)。童顔なのでそういう(ぼんやりした)イメージのほうが強かったですよね。それがけっこうきついことを言うので周りはびっくりしていたと思いますけど。



―え、そんなきつい感じだったんですか?

高橋 昔、ライブビデオを出したときに特典でメイキング映像をつけたんです。ライブ会場に入るまで、リハーサルからすべてをカメラで追っているんですが、それが自分でもドン引きするほど怖くて。「今の聞こえてる?」とか「ダメでしょ、それじゃ」って。言い方もきついし(笑)。



―本人が引くぐらいだと、ファンはもっと驚いたと思いますよ。

高橋 中途半端なものはイヤだったし、お金をもらっている以上はそれなりのものを見せなきゃいけない、それが商売でしょってスタッフに言ったり。そんな生意気な10代、20代前半でしたね(笑)。

―そういった思いはいつ頃から?

高橋 この世界に入ってからですね。私は実家が理容室なんですが、「親と違う商売」を始めたことが、私はこれからひとりで生きていくんだと決めた瞬間でした。商売をしてお金をもらうということを子供の頃からずっと見ていたので、イヤだというだけで済まされることはないし、イヤな理由をきちんと明確に相手に伝えられないんだったらやらなきゃいけないという感じでしたね。

―あの笑顔の裏にはそんな強い自覚があったんですか。そもそも「20世紀最後のアイドル」というキャッチフレーズは、高橋さんの事務所がつけたものではなかったんですよね。

高橋 そうなんです。ドラマの主演をやったときにプロデューサーの方がつけてくださって、気づいたらそう呼ばれるようになっていて。

―このキャッチフレーズに対し、当時はどんな感じでしたか?

高橋 特に「そんなことないです」というつもりもなく。「でも、あと数年で21世紀来ちゃいますよね」とは正直思っていました(笑)。ちょっと化石チックな雰囲気かな、でもまあ、役職みたいなものかなと。

―そして21世紀になり、「20世紀最後」のアイドルは舞台女優として着実にキャリアを重ねています。

高橋 「脱アイドル」とかいっても、じゃあ、「アイドル」は着ていた衣のように「脱ぐ」ものなのかって。じゃあ、「正統派女優」って(肩書も)なんだろうって思ってしまって。実は以前、あるインタビューのとき、女優として使いやすくなるから「脱アイドル宣言」しましょうとも提案されたんですが、 ちょっと私はカッコ悪いと思って、イヤですと言ったんです。そんなことを言わなくても、そのうち自然に「アイドル」と言われなくなるしって。そしてやっぱり誰も言わなくなりました(笑)。

―意思と行動は自分で決めるけれども、呼ばれ方やイメージは周りが決めるものだと。あまりに潔い、本当に「プロフェッショナル」ですね。

高橋 どんどん時代は新しいものに変わっていくのだから、そういう意味でも、自分から何か取り違えられそうな意見は言わないことにしようとは思っていましたね。



■「だから、生意気だったと思いますよ」

―実は、18歳のときの週プレの別のインタビューで、すでに「舞台を中心にやっていきたい」と語ってらっしゃったんですよね。

高橋 そうですね。ただ当時の事務所的には、できればテレビとか映画をメインでやって、時間があったら舞台をやるという方針で。最初は私も従っていたんですが、そうすると舞台と縁遠くなっちゃうんですね。それが自分ではイヤで、1年に1回は定期的に舞台をやらせていただきたかったので、それを条件に事務所に提示したりしていました。

―正直なところ、当時の読者もそこまで本気の発言だったとは思っていなかったんじゃないかなあ。でも実際は、そんな交渉まで自分で事務所としていたんですね。

高橋 だから生意気だったと思いますよ。もっといろいろ勉強したいとも思っていたので、「次を見すえて動きませんか」という話をして。

―生意気というか、すごくしっかり者というか。

高橋 サポートしてくれるスタッフもいて、そういう意味ではありがたかったです。私も言いたいことは全部言って。言いたいことを言うと、今度は逆に自分がほんとは何がしたいか明確に見えてくるんですよ。そして、自分がやりたいものが見えてくると、それに対する熱意をずっと熱弁できるんです。そうすると、相手が自分以上の熱意がないと折れる可能性が高いので、言い倒すみたいに寄り切る。そういう作戦を使っていました(笑)。

―高橋さんにとって、舞台の魅力ってどういうところですか?

高橋 もちろんフィクションなんだけど、舞台の上の2時間半とか3時間だけは、その空間がノンフィクションになる。それがすごく気持ちよくて、ほんとに魔法のかかった時間なんです。それに、舞台でその時間を生きているときと、普通に生活しているときのギャップが「ふたつの人生を生きている感じ」ですごく楽しいんですよね。

―「舞台の上の時間を生きる」ってどういう意味なんでしょうか。

高橋 ウソつかないということですかね。例えば、自分の人生の中でひとつも経験していないことをその役で演じなければいけなかったときってあるじゃないですか。

―芝居の登場人物って、映画やドラマ以上に、現実にはあり得ないキャラクターの場合が多いですしね。

高橋 そういう、経験したことがない「ウソ」も、自分の中で確実に埋めていく。その作業が私の中では「作品の登場人物の人生を生きる」ということだと思っています。そのきちんと対峙した結果が、お客さまにも伝わる。そんな思いでいつも舞台に立っています。

―偉そうな言い方ですが、以前は正直、「あのアイドルの高橋由美子が舞台に立っている」という印象も強かったんです。でも、今はキャストに高橋由美子の名前が入っていると、安心してお金を払って観に行けるという認識が広がっています。

高橋 ありがとうございます(笑)。



―そういう意味で、高橋さんは本当にステキなかたちで年を重ねられていますが、この道のりをご自身はどのように感じていますか?

高橋 ずっと上っているんですが、ゴールがまったく見えないんですよ。自分では常に動いていて、階段を上っているつもりなのに、全然上ってないみたいな。エスカレーターの下りをずっと上がっているみたいな。

―そうは見えませんけどねえ。

高橋 10年ぐらいあんまり変わっていなくて、「わぁ、私けっこう頑張っているのに周りは変わっていない!」と。たぶん年齢的にはあと4、5年こういう時期が続くんだろうってタカをくくっていこうとは思っているんですが。

―「こういう景色を見たい」ってイメージはありますか?

高橋 すごく抽象的ですが、私の中では、広がる海岸線のような。上から海岸線が360度見える、気持ちよくもあり、まだ上には何かがあるみたいな、そんなイメージですね。

―見晴らしがいい感じ?

高橋 そうですね、だから、余裕こいた人生を送りたいんですよ。「まあまあ、みんな頑張ってね」というような人生を送りたいんだと思うんです、たぶん(笑)。

―ジャンルを問わず、こういう年の取り方はステキだな、と憧れる女性っていらっしゃいますか。

高橋 樹木希林さんが好きなんです。よい意味でソツなくて、巧みで、でもかわいいっていう。生き方に対して頑張りすぎないというか。ちょいと諦めるというか、そういう生き方がしたいなと思うんですよね。

―そのなりたい状態に近づいている感じは?

高橋 まだまだです。自分がそこまでいけたって思わずに死んでいくんだろうなとも思ったりもして。だから、これからもずっと理想を追い続けるということですかね。

(取材・文/モリタタダシ[Homesize] 撮影/MACH ヘア&メイク/藤枝容子[bloom])

●高橋由美子(たかはし・ゆみこ)

1974年生まれ、埼玉県出身。89年、ドラマ『冬の旅・女ひとり』でデビュー。「アイドル冬の時代」といわれるなか「20世紀最後のアイドル」として、歌、ドラマ、グラビアなどで大活躍。主演ドラマ『南くんの恋人』(94年)では主題歌『友達でいいから』を歌い37万枚を売り上げ、ドラマとともにヒットとなる。CMやドラマなどで活躍する一方、近年は舞台にも精力的に出演。『モーツァルト!』(02年初演)、『レ・ミゼラブル』(03〜04年)といったミュージカルから、劇団☆新感線、阿佐ヶ谷スパイダース、野田秀樹作品、鴻上尚史作品など、そのジャンルは多岐にわたる。10月6日より放送のドラマ『ハイスクール歌劇団☆男組』(TBS系)に出演。舞台・SHINKANSEN☆RX『五右衛門ロック?』(12月〜13年2月 東京・東急シアターオーブ、大阪・オリックス劇場)に出演予定。