ポルトガル対スペイン。ドイツ対イタリア。準決勝2試合はいずれも中5日対中3日の対戦だ。つまり、スペイン、イタリアはポルトガル、ドイツに比べて2日も短いことになる。さらに、準決勝の2試合目の勝者は、W杯と違い3位決定戦がないので、中2日で決勝を戦うことになる。もしイタリアが決勝に進めば、準々決勝からの試合間隔はそれぞれ中3日と中2日。これを不利といわずして何と言おう。

 想起するのは88年の欧州選手権だ。この大会は、決勝(オランダ対ソ連)で、ファンバステンがサッカー史に残るスーパーゴールを叩き込んだ大会として知られるが、僕の中では、チームとしては優勝したオランダより、準優勝のソ連の方が印象に残っている。ソ連とオランダは、グループリーグの初戦でも対戦したが、この時のソ連は、明らかにオランダを上回っていた。

 そして僕をそれ以上に驚かせたのは、準決勝のイタリア戦だった。ネッカースタジアム(シュツットガルト)で繰り広げられた、雨中の一戦である。それまで観戦したチームの中で、ソ連は最高のサッカーをした。イタリアのサッカーも、好感度の高いサッカーをしていたが、ソ連はそのイタリアを完膚無きまでに粉砕した。

 決勝戦の下馬評は、ソ連有利の声の方が大きかったほどだ。しかし、オランダが中3日で決勝を迎えたのに対しソ連は2日。準決勝がナイターで、決勝が昼間だったのでソ連の試合間隔は実質、丸2日なかった。当時のソ連はメンバーの大半がウクライナ人。いま僕がいるところが、ウクライナ第2の都市ドネツクなので、当時のソ連に対する思いは、より感慨深いものになる。

 そこで今回のイタリアだ。日程の不利を克服して優勝することができるか。これでイタリアが優勝したら、拍手喝采ものといいたくなるが、正直、それはかなり難しいと僕は思う。日程の不利がなくても難しい。少なくとも、88年の時のような好感度は抱けずにいる。

 今大会の最初の試合で、スペインと引き分けたとき、プランデッリの采配を多くの人が持ち上げた。3―5―2を敷きながら、決して守備的にはみえないサッカーで、イタリアは強敵スペインに対して互角以上に渡り合った。

 だが、前にも述べたように、こうなった原因はイタリアのサッカーが鋭かったからというより、スペインに問題があったと僕は見る。スペインの布陣は、0トップ気味で構える3トップの両翼が、閉じてしまっていたので、4―3―3というより4―3―2―1。4―(1―2)―2―1といってもいいほどだった。これに3―5―2(ほぼ中盤フラット)をマッチアップさせれば、両サイドの枚数は両軍とも各1人になる。

 イタリアはウイングハーフ、スペインはサイドバックが、これに該当するサイドアタッカーになるが、それぞれの基本ポジションはイタリアの方が高い。この差が、そのまま試合に反映されたと見る。もっとも終盤、イタリアの両ウイングハーフは疲れた。終盤はウイングバックと化した。サイドの長いエリアを1人でカバーするのはかなり重労働。時間の経過とともに、その位置が低くなるのは当然の帰結だ。

 準々決勝のイングランド戦では、4―4―2(中盤フラット)の相手に対して、イタリアは4―3―2―1で臨んだ。サイドの枚数はイタリア1人に対してイングランド2人。PK戦にまでもつれ込んでしまった理由だ。

 イタリアは個人の技量でイングランドに勝っていた。それだけを比較すれば、イタリアが2―0、1―0で勝ってもおかしくないが、試合はもつれた。ボール支配率でも上回り、ゲームをコントロールしていたかにみえたが、展開力という点ではイングランドが上だった。その結果イタリアは、危ないシーンをイングランドに作られた。戦いぶりは、押している割に危なっかしかった。

 真ん中に固まるイタリアのサッカーを見て想起したのは、日本代表のサッカーだ。最近では、最終予選前に行われたウズベキスタン戦。少し前に遡れば、ジーコジャパン時代のサッカーになる。サイドをうまく使ってくるチームには脆さを露呈したそのサッカーと、いまのイタリアのサッカーはかなり似ている。

 準決勝で対戦するドイツは、ピッチをワイドに使うサッカーだ。両サイドに各2人を配し、外をグイグイついてくる。サイドアタックといえば隣国オランダのお家芸だが、いまのドイツはオランダ以上。イタリアにとっては最もやりにくい相手と言える。準々決勝と同じ戦いをすると結果は見えている。プランデッリはイタリアでは策士と言われるが、欧州レベルではどうなのか。思い切った作戦を立てて臨まない限り、ドイツには勝てないと僕は思う。