政権交代実現の大きな原動力となった民主党のマニフェスト。年金・医療について“国民に約束”したページには、こう書かれている。
 「高齢化社会の不安を解消する第一歩は、国への信頼を取り戻すことです。『消えた年金』被害を補償するとともに、国民全員が受け取れる年金制度を確立。十分な医療・介護サービスを提供し、ひとつの生命を大切にします」

 さらに「『消えた年金』『消された年金』問題の解決に、2年間、集中的に取り組みます」とある。
 その約束の2年が経過した今年7月、問題の解決どころか、当時の菅直人政権の閣議で「社会保障と税の一体改革案」が了解(決定ではない)され、年金支給の開始年齢を引き上げることが盛り込まれた。引き継いだ野田佳彦首相は“財務省公認”と揶揄されようとも、加えて増税のゴリ押しまで進めようとしている。
 われわれ庶民は怒りを通り越し、凍りつきそうになる心を何とか暖めようと必死だ。

 そして10月、大騒ぎになった支給年齢引き上げ問題は、同月26日の小宮山洋子厚労相による「来年の通常国会には関連法案を提出しない方針」という答弁で、ひとまずは沈静化した。だが、庶民を愚弄する厚労相の発言で、この問題が引っ込んだと思うのは大間違い。厚労官僚は、「引き上げへの布石は打てた」とほくそ笑んでいるからだ。
 そういえば民主党は、月額7万円の「最低保証年金」の実現などもマニフェストに掲げていた。やはりこれも何も実行しないばかりか、近頃はミスター年金・長妻昭元厚労相のご尊顔さえ拝見できなくなった。同じく「年金通帳」なるものについても、莫大なコストと銀行業界からの猛反発で、あっさりと断念。結局「インターネット上で見られるようにします」=公約違反ではない、という態度である。

 支給年齢の引き上げは年金財政の改善が目的だというが、2004年に年金制度を改正した際、政府は「100年安心」と大ミエを切ったはずだ。自民党から民主党に政権が移ったとはいえ、それがたった7年で年齢引き上げとは、厚労省は大ウソをついたことになる。
 「当時の『100年安心』は、厚生年金保険料の上限を固定すると共に、現役世代との所得代替率をほぼ50%以上に保って、向こう100年、積立金がマイナスにならないという、おおよその見通しを述べたものです。しかし、年金支給の物価スライドを年率0.9%ほど不足させて行う『マクロスライド方式』が、その後のデフレで一度も機能しなかったことや、積立金の運用がうまく行かなかったことなどから、綻びがはっきりした。遠くない時期に、間違いなく年金積立金は溶けてなくなります。積立金枯渇論は若者にも広がっており、これが未払いなどにつながっているのです」(年金問題に詳しい社会保険労務士)

 現実に、昨年度の国民年金保険料の納付率は、59%と過去最低を記録している。これを当時の細川律夫厚労相は「ゆゆしき問題」と怒り狂い、厚労省と日本年金機構に、今年度からの未納者への督促や強制徴収、差し押さえを指示した。未納者には、高飛車な文言が並ぶ催告状が送られてくるようになったのだ。
 その内容は《滞納処分が開始されると、年14.6%の延滞金が課せられるほか財産が差し押さえられる場合があります…》と、こんな具合だ。

 かつての商工ローン事件にみる「腎臓売って借金返さんかい!」並みの恫喝である。滞納2カ月で電話やハガキを送付、無視すると督促状を送り、最後は預貯金や不動産を差し押さえる。商工ローンやサラ金なら死ねば追ってこないが、国は死んでも追ってくる…。
 「差し押さえの件数がここ2年間、約3000件と5年前の4分の1にまで落ち込んでいるため、厚労省は国税庁に強制徴収のサポートを依頼している。とにかく減った積立金を少しでも増やそうとするのが狙いです」(厚労省担当記者)

 実際に催促を受けたという都内の自営業者が、その様子を語った。
 「国民年金を自動引き落としからクレジットカード払いに切り替えた際、うっかり1カ月分を未納してしまいました。するとすぐ納付書が送られてきて、期限が平成25年6月30日になっているので放置していたら、たった半年の間に電話2回、納付書の再送付1回、督促ハガキが1回…。通知代だってわれわれの年金から出ているわけでしょう。こんなムダ遣いはやめた方がいいと思いますけど」

 よほど切羽詰まっているのだろう。積立金は独立行政法人が管理運用しているが、'07、'08年度に計15兆円の運用損を計上している。なくなることがわかっていて、将来もらえないような年金を、一体誰が積み立てるだろうか。