【寺野典子コラム】内田篤人──初めての葛藤。
問題なのは内田のコンディションのことだけではない。
「監督は俺のことをまだ理解できていない」
指揮官との信頼関係が築けていないと実感している。コンディションを戻し、任務を遂行し、結果を残すことしか信頼は得られない。だからこそ、「時間が必要だ」という思いも強くなる。
昨季もレギュラーに定着したのは秋だった。
「慣れるまでには時間がかかる。お前のプレーはわかっているから、焦る必要はない」という当時監督を務めていたマガトの言葉に支えられ、無我夢中でガムシャラに日々を過ごし、結果ポジションを奪いとり、数々の実績を残した。
2012年のシャルケのカレンダーにも登場した内田。それは必要な選手として認められた証だ。
もちろん、クラブ首脳陣やサポーターと、指揮官の思いが同じというわけではない。
3年契約の内田にとって、契約を1年残した来夏にはシャルケからの契約延長も含めて、オファーを勝ち取らなければならない。そのためにも今季後半は昨季とは違う重要な時間だ。それは本人も自覚している。
「のんびりやりますよ」
口癖のように繰り返す言葉の奥に隠されているものも1年前とは違うはず。
「うまくいかないなりに、ごまかせるのも力だと思うので。そういうことは余裕がないと出来ないと思うし、それは、去年1年やってきたからできること」
余裕は有効な武器だが、時折、それがチャレンジの邪魔をしてしまったり、ネガティブに作用する場合もある。経験が慎重なプレーに繋がり、積極性を奪う可能性も高い。
いかに余裕を操っていくのか?
今の内田を見ているとふとそんなことを感じた。
「サッカー人生の中で、これもいい経験になると思うし、前向きですよ」
負傷離脱とはいえ、その期間は決して長いとは言えない。それでも“初めて”という壁が内田を苦しませているが、悲観や落胆しているわけではなさそうだ。
身体的なコンディションは時間が解決してくれる課題だ。大切なのは自身との闘いだ。それは今季序盤の香川と同様だ。しかし、香川と内田では性格が違うから、同じ方法で打開できるわけではない。内田には内田の突破術があるはずだ。それを模索する初めての葛藤の中に彼はいる。