ただし負けはしたけれども、岡山湯郷も時間帯によっては互角に渡り合うシーンもあった。
その時間をもっと延ばしていくことができれば、他チームがINACに土をつけることも、決して不可能なことではないだろう。

そして僕がこの日つくづく感じたのが、

「試合」も、「チーム」も、「選手」も、育てるのは「観客」なのだということである。

18年前にJリーグが誕生したとき、スタンドの観客数は数百人から数万人へと一瞬にして膨れ上がった。
しかしもちろん、選手たちの実力が急に向上したというわけではない。

それまでの積み重ねの中で磨いた技を頼りに彼らはプロになり、その後は厳しい批判にもさらされながら、世代交代を繰り返しつつ徐々に成長を遂げてきた日本のサッカー。

そしてそこには常に、スタジアムに来てはお金を落とし、そしてスタンドから選手たちの一挙手一投足に注目する「ファンの目」があった。

その「目の存在」こそが、アマチュアとプロの最大の違いだったはのではないかと僕は思う。
この日に見られた岡山湯郷の高パフォーマンスも、2万人の「目」の存在と決して無関係ではないだろう。

そしていま、女子サッカーにもそんな「変革の時」が訪れようとしている。

もちろん観客が増えたとはいっても一時的なもので、このペースがいつまでも続くことがないのは皆よく分かっている。

しかし18年前を知る人ならば、同時にこの変化が、簡単には元に戻らないことも知っているだろう。

ブームが去ればなでしこ人気も落ち着くだろうけれども、少なくともワールドカップ前と同じ状態に戻ることは、よっぽどのことがない限りは無いはずだ。

特に代表チームはお客を呼べる優良コンテンツに成長しつつある。
なでしこジャパンが来年のオリンピック出場を逃したり(逃す可能性も少なからずあるけれども…)、本大会で惨敗したりしなければ、代表は少なくとも数年は安定した人気を維持するだろう。

そうして代表メンバーの露出が確保されれば、当然多少なりともリーグにも恩恵が生まれる。
今のように万単位の観客動員をキープするのは難しくても、INACクラスであれば有料入場者数で3,000人前後かそれ以上を維持することは現実的な目標になってくるのではないだろうか。
そしてゆくゆくはINACと同レベルの資金力・戦力・人気を持ったチームが生まれてくるようになれば(個人的には浦和とベレーザに期待しているんだけれども)、リーグもさらに活性化することだろう。

しかしいずれにしても、それを実現させるには「ファンの力」が不可欠だ。

なでしこリーグに観客が集まり、なでしこジャパンが視聴率を稼げばメディアが注目する。
メディアへの露出が増えればスポンサーがつく。
スポンサーがつけばクラブやリーグに資金が集まって、選手たちの環境・待遇も改善される。
それがリーグ・代表の強化につながれば、そこからさらに人気が上がっていって、女子サッカーは「正のスパイラル」に乗っていく。

この構図を、紆余曲折を経ながらも実現させてきたのが男子サッカーだった。
そしていま、女子サッカーもいよいよその後を追うチャンスを手にしている。

このブームをモノにできるかどうかで、女子サッカーの未来は180度変わると言っても言い過ぎではないだろう。
同時に女子サッカーファンにとっては、いまこそが「自分がサッカー界を支えていること」を実感できる『勝負の時』なのではないだろうか。

ひとりひとりの力は微々たるものだけれども、それが集まれば大きなパワーを生む。

僕は今シーズン、可能な限り女子サッカーの会場に足を運ぼうと思っている。

そしてこの日にユニバーに集まった21,236人が、まさに女子サッカーが持つポテンシャル、
その潜在的な「パワー」の現れなのだと、僕は思った。

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