【田代 昌之】ビットコイン暴落で「巨額損失」が続出…!「暗号資産錬金術」の逆回転が直撃した上場企業の悲惨な事態
「買えば上がる」の逆回転
上場企業によるビットコイン保有ブームが、いま大きな転換点を迎えている。
前編では、ネイルサロンFASTNAILを展開する「コンヴァノ」が、一時は約4340億円規模となる2万1000BTCの保有構想を掲げながら、その後計画を見直し、最終的には暗号資産の原則売却へと方針転換した経緯を紹介した。
(前編はこちら『ネイルサロンまで「ビットコイン」に飛びついた…!約40社の上場企業が採用した「暗号資産×株価上昇モデル」の危うい正体』)
背景にあったのは、ビットコインを保有することで株式市場の注目を集め、株価上昇を資金調達につなげ、さらにビットコインを買い増していく「Digital Asset Treasury」(以下、DATモデル)の広がりだった。
ビットコイン価格が上昇し、株価も上がっている間、この仕組みは非常にうまく回る。ところが、相場が反転すると景色は一変する。
実際、日本の上場企業では評価損を計上する企業や、業績予想を修正する企業、保有していたビットコインを売却して損失を確定する企業まで出始めた。
なぜこれほど短期間で状況が変わったのか。まずは、企業がビットコイン購入資金をどこから調達していたのかを見ていこう。
株を発行し、そのカネでビットコインを買う
日本企業のDATモデルを考えるうえで、存在感を示してきたのが、エボリューション・ファイナンシャル・グループが運営するEVO FUNDである。
中小型上場企業による第三者割当増資などを見ている投資家なら、この名前を目にしたことがあるかもしれない。
ホテル事業からビットコイン・トレジャリー企業へと転換した「メタプラネット」は、EVO FUNDを割当先とする新株予約権などを活用して大規模な資金を調達し、その資金をビットコイン購入へ振り向けることで、短期間に保有量を増やしてきた。現在も東京でホテルを保有する一方、ビットコイン・トレジャリー事業を中核に据えている。
暗号資産戦略を掲げるほかの上場企業でも、EVO FUNDを割当先とする新株予約権などによる資金調達が確認されている。
ここで重要なのは、ビットコインを大量に購入したことだけではない。
株式や新株予約権を発行して資金を集めれば、当然、発行済み株式数が増える可能性がある。
つまり、既存株主の持ち分が薄まる「希薄化」が起こり得る。
仮に会社が100億円分のビットコインを新たに買ったとしても、そのために大量の新株を発行していたなら、「会社のビットコインが100億円増えた」という事実だけを見て、「株主の価値も100億円増えた」とは言えない。
保有資産がどれだけ増えたのかと同時に、株式数がどれだけ増えたのかを見る必要がある。
この「資本市場から資金を集め、その資金でビットコインを買う」という仕組みこそ、DATモデルの強さであると同時に、弱点でもある。
ついに「巨額損失」が相次ぎ始めた
実際、暗号資産価格の下落によって業績を大きく揺らす企業も出てきた。
アンバサダーマーケティングなどを手がける「CRAVIA」(旧アジャイルメディア・ネットワーク)は、ロスカットルールに基づき、保有していたビットコインを全量売却して売却損を計上した。同社は、企業の商品やサービスのファンを活用したマーケティング支援を主力としてきた会社である。
求人広告などを祖業として、AIデータセンター事業などを手がける「イオレ」では2026年2月、保有するビットコインについて2025年12月末時点の時価評価との差額として約1.83億円の暗号資産評価損を計上し、通期業績予想を大幅に修正した。同社は現在、暗号資産金融事業にも展開している。
同社はその後も暗号資産関連事業を継続しており、6月には暗号資産業界で経験を持つ天羽健介氏を専務取締役に迎え、7月にはCBOに任命するなど事業体制を強化している。
AIインフラやAIゲームなどを手がける「クオンタムソリューションズ」は2026年4月、主にイーサリアムやビットコインなどについて16.7億円の暗号資産評価損を計上した。同社は2023年以降、AIを中心とする事業構造への転換を進めている。
経営・ITコンサルティングを手がける「Def consulting」も2026年3月期に約16.9億円の暗号資産評価損を計上している。同社は、戦略、業務、テクノロジー領域のコンサルティングを展開してきた会社だ。
ただし、ここは区別して考える必要がある。
評価損が出たことだけをもって、「その会社の暗号資産戦略は失敗だった」と断定するのは早い。暗号資産価格が再び上昇すれば、評価額が戻る可能性もあるからだ。
一方で、ネイルサロンのコンヴァノのように当初計画そのものを大幅に見直し、原則売却まで進んだケースや、CRAVIAのように実際に売却して損失を確定したケースは、一時的な評価損とは意味が異なる。
ただ、共通しているのは、本来の事業とは別のところで起きた暗号資産価格の変動が、こうした企業の業績を大きく左右するようになったことだ。
「ビットコイン」と「自社株」のダブル暴落
DAT企業には、ビットコイン価格だけでなく、「自社株」というもう一つの相場がある。
その仕組みを理解するうえで重要なのが「mNAV」という考え方だ。簡単に言えば、企業が保有する暗号資産の価値に対して、株式市場がその会社をどれだけ高く評価しているかを見る指標である。
例えば、100億円分のビットコインを保有する会社の時価総額が300億円なら、市場は現在の保有資産だけでなく、「これからさらにビットコインを増やせる」という期待にも価値を付けていることになる。
この期待が高い間は、DATモデルはうまく回る。高い株価で資金を調達し、その資金でビットコインを買い増す。保有量が増えれば期待が高まり、さらに株価が上がる。
しかし、相場が反転すると、この仕組みは逆回転する。
ビットコイン価格が下落すれば、保有資産の価値が落ちる。それを嫌気して株価も下がれば、資金調達の条件は悪化する。安い株価で新株を大量に発行すれば、既存株主の持ち分も大きく希薄化する。
追加のビットコイン購入が難しくなれば、「この会社は今後も保有量を増やしていく」という期待も薄れ、さらに株価が下がる。
つまり、ビットコイン下落→資産価値低下→株価下落→資金調達悪化→追加購入困難→さらに株価下落という連鎖が起こり得るのだ。
しかも、暗号資産は買えば終わりの資産ではない。
上場企業が保有するなら、会計処理や監査法人への説明、内部統制、税務、適時開示に加え、秘密鍵やカストディ、送金権限、サイバー攻撃への対応まで必要になる。
私自身、上場企業で暗号資産を保有していた当時、監査法人との対話にはかなり苦労した。現在は暗号資産に詳しい専門家も増えたが、会計だけでなく、内部統制やセキュリティまで含めて対応できる人材は決して多くない。
昨日まで小売業やサービス業を営んでいた会社がビットコインを買ったからといって、翌日から数十億円の暗号資産を安全に管理できる会社になるわけではない。
「いくら買ったか」はニュースになる。しかし、「誰が、どのように管理するのか」は見落とされがちなのである。
結局、「その会社は何で稼ぐ会社なのか」
また、企業のビットコイン戦略を見る際に最も重要なのは、「何BTC持っているか」ではない。そのBTCを買うお金が、どこから来たのかである。
例えば、本業で毎年100億円のキャッシュを生み出す企業が、その一部をビットコインに振り向けるのであれば、相場が下落しても本業から資金が入ってくる。
しかし、本業が赤字の企業が、新株や新株予約権を発行して100億円を調達し、その資金でビットコインを購入しているのであれば事情は違う。
ビットコイン価格が下がれば資産価値が落ち、株価も下がる。そうなれば次の資金調達も難しくなる。
だから「100億円のビットコインを買った」という数字だけを見ても、その戦略が成功しているかどうかは判断できない。
本業で稼いだ資金なのか。借入金なのか。社債なのか。新株や新株予約権なのか。その結果、既存株主の持ち分はどれほど希薄化するのか。そして相場が下落しても、会社は持ちこたえられるのか。
見るべきは、これなのだ。
もちろん、暗号資産を保有すること自体が間違いなのではない。ビットコイン価格が再び大きく上昇すれば、現在保有を続けている企業への市場評価が変わる可能性もある。
ただ、今回の相場反転によって明らかになったのは、DAT戦略を財務戦略として成立させるには、想像以上に厳しい条件が必要だということである。
十分な財務基盤があり、継続的な資金調達が可能なのか。そして何より、本業そのものから利益とキャッシュを生み出せるのか。
突き詰めれば、最後に行き着くのは昔から変わらない問いである。
「その会社は、いったい何で稼ぐ会社なのか」--
そこが曖昧なままなら、ビットコインへの投資は企業価値を高める財務戦略ではなく、株主のお金を使った相場への賭けになりかねない。
さらに記事『「サナエトークン」のような“疑惑資産”は一掃される…!永田町大混乱のウラで始まる「暗号資産規制」の大転換』でも暗号資産のマーケットについて論じているので、ぜひ参考にしてほしい。
