(※写真はイメージです/PIXTA)

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「遺産は全部あげるから」という母や兄姉の言葉を信じ、介護で心身とお金を削り続けた次女・里美さん。しかし、限界を迎えて母を特養に入所させた日、何もしてこなかった兄姉の態度は一変します。 きょうだい間の亀裂を招く「介護トラブル」の実態と回避策とは?

「お袋のことよろしくな」…母の面倒を託された下の娘

「私の考えが甘すぎたんです……」

里美さん(52歳)は、強い後悔と徒労感に襲われていました。

里美さんは実家から車で20分ほどの場所に住み、2人の子どもを育てながらパート勤務を継続。父が亡くなってからは、実家で一人暮らしをする86歳の母を心配し、週末ごとに買い物や掃除などの世話に通っていました。

きょうだいは3人。兄と姉は県外に出て家庭を築いており、距離を理由に母の見守りは自然と近くに住む里美さんが担うようになっていました。

母も近くで支えてくれる里美さんを頼りにし、「いつもありがとう。私が死んだら、実家もわずかな貯金も、全部里美に多く残すからね」と口にしていました。

兄と姉もまた、口を揃えてこう言っていたのです。

「実家もお金も全部譲るから、お袋のことよろしくな」
「遠くて何もできなくてごめんね。里美がいてくれて本当に助かる!」

里美さん自身、昔子どもを母に預けた恩もあり、「できる限りのことはしよう」と思っていましたし、実家の不動産や預貯金を合わせれば1,500万円ほどになると聞いていたため、受け入れていた部分もありました。

しかし、それはあくまで、買い物の手伝いや病院の付き添い程度のサポートをしていた当時の考え。本格的な介護の現実は、想像をはるかに絶するものだったのです。

猛暑の夏に兄が見せた「あまりの身勝手さ」

3年前、83歳だった母が玄関先で転倒し、大腿骨を骨折。ここから介護生活が始まりました。退院後、母は伝い歩きしかできなくなり、料理や洗濯などの家事も一人では不可能な状態に。

病院の勧めで要介護認定を受けると「要介護2」と判定されたものの、母はデイサービスや訪問介護を「他人に世話されたくない」と拒否。食事の準備や洗濯といった家事に加え、入浴や排泄の介助まで、すべての負担が里美さんにのしかかりました。

里美さんはパートの時間を大幅に削り、週の半分以上を実家で過ごすようになりました。夫・子どもたちの世話は後回しになり、負担は想像をはるかに超えた重さになっていきます。

そんな中、猛暑が続く夏の日に耐えかねた里美さんは、県外の兄に電話をかけました。

「お兄ちゃん、私、本当に大変なの。夏休み中の1週間だけでも、実家に帰ってくるか、お兄ちゃんの家で預かってくれない?」

しかし、兄の返答は冷淡なものでした。

「うちの奥さんは、そういうのダメなんだ。お袋も環境が変わるのは嫌がるだろ。無理だよ」

“無理”を繰り返して電話を切ると、その後里美さんが送ったLINEにも「なんとか頼む」の一点張り。姉にも助けを求めましたが、やはり「夫が嫌がる」と、あっさりと拒絶されたのでした。

兄・姉からの「衝撃的な言葉」

母は86歳になり、要介護度は3になりました。母の年金は月10万円ほどで、医療費や日用品代の補填で、里美さんの立て替え費用も膨らむ一方でした。

「これ以上、私が見てあげることはできない」

里美さんは、夫や兄姉とも話し合い、空きが出た特別養護老人ホーム(特養)へ入所させる決断をします。しかし入所当日、施設の一室で、母は涙をこぼしながら、こう呟いたのです。

「私を捨てる気なの? 家に帰りたい……」

里美さんが罪悪感で立ち尽くした、その時。横から兄と姉の冷ややかな声が飛んできました。

「お袋がこんなに嫌がってるのに、見捨てて放り込むなんて……ちょっと酷いんじゃないか」
「途中で介護を投げだしたのね。だったら、遺産を全部渡すこともできなくなるわ」

3年間、自分の生活もパート収入も削り、持ち出しで母を支え続けてきた里美さん。それなのに、何もしてこなかった兄姉が、遺産を均等に分けると言い出したのです。

遺産は原則、法定相続分に応じて分けることになります。ただし、相続人のなかに、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした人がいれば、「寄与分」が認められる可能性があります。きょうだい間の話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立て、解決を図ることになります。

母の介護が元で、まさかこんな事態に陥るとは――里美さんは項垂れます。

「そもそも、母を施設に入れることには同意してたんですよ。それなのに、『母をないがしろにした』『楽をするために施設に入れた』と言い張って、遺産を受け取ろうとしているんです。……私がしてきた苦労って、一体何だったのでしょうか?」

「親の介護」の実態と、家族崩壊を防ぐためにしておくべきこと

親の介護問題は、ある日突然勃発するもの。下記のデータにある通り、年齢が上がるにつれて要介護リスクは急増し、85歳を超えると半数以上が支援を必要とします。つまり、誰もが介護の当事者になり得るのです。

【年齢別/要支援・要介護認定者の割合】

40〜64歳:0.4%
65〜69歳:2.9%
70〜74歳:5.8%
75〜79歳:11.8%
80〜84歳:26.7%
85歳以上:60.2%

(出典:生命保険文化センター資料 / 厚生労働省「介護給付費等実態統計月報」・総務省「人口推計月報」2025年9月データより)

ただ、いざ親に介護が必要になっても、「介護の負担はきょうだい平等に」というのは現実的に難しく、多くの場合、近くに住む子どもや頼みやすい特定の身内に負担が偏りがち。そうした不公平から、不満や金銭トラブルが鬱積していくことも少なくありません。

では、こうした身内のトラブルを防ぎ、1人に負担を集中させないためのポイント はどこにあるのでしょうか。

まず、金銭的な話については、口約束を過信せず、公正証書遺言などを残すこと。「介護を任せる代わりに、遺産は多く渡す」といった口頭の約束は、いざ相続が始まると簡単に翻されることがあります。必要に応じて、親が元気なうちに法的効力のある遺言書を作成してもらうことが重要です。

また、介護にかかった費用は記録して、親の口座から出すこと。自分のポケットマネーから立て替えると後で回収するのが難しくなりがちです。親の口座から直接出すか、領収書やノートを保管して定期的に清算・共有しましょう。

そして、1人だけに負担が集中しないよう、遠方のきょうだいにも必ず役割を持たせることが大切です。また、早期から公的な介護サービスなどを取り入れることも考えましょう。親が嫌がったとしても、それが結果的に共倒れを防ぐことにもつながります。

親の介護をどうするのか、そして介護費用をどう捻出するのか、親が亡くなった場合、遺産はどうするのか。きょうだい、家族であっても慎重に話し合う必要があります。突然やってくる介護に向けて、「もしそうなったらどうするか」を早くから話し合っておくことが大切です。