新設された国際大会で見せた確かな爪痕…「ラグビー日本代表」来年のW杯に向けての“現在地”
新たな国際大会が幕を開けた
大舞台で強豪国を倒して、世界中を驚かせてきたラグビー日本代表はこの夏、新しい国際大会に挑んだ。
その名は『ネーションズチャンピオンシップ』。伝統と実力が認められた12チームによる国際大会だ。それぞれ「北半球」「南半球」の2組に分かれ、7、11月に異なるグループの6チームと対戦。最終週には、違う組の同じ順位の者同士でぶつかる。大会前の世界ランクが12位だった日本代表は「南半球」に割り振られ、7月4日から「北半球」の強豪3つと順にぶつかった。
「チームとして成長する試合になる……あ、僕の悪いくせ。これを言うのを、そろそろやめようかなと思います。ワールドカップに向けて積み上げるのも大事ですが、勝ちにこだわらないと質のいい成長はない」
開幕前にこう宣言したのはリーチ マイケル。ワールドカップ4度出場の37歳だ。’23年のワールドカップ・フランス大会を予選プール敗退で終えてから、約9年ぶりに復職したエディー・ジョーンズヘッドコーチ(66)のもと、日本代表は’27年のオーストラリア大会での上位入りを狙っている。
メンバーの大幅な若返り、実力者の召集辞退、度重なるスタッフやコーチの交代という問題に直面しながら、代表チームは結束していった。最初の2シーズンはやや黒星を先行させながらもチームの下地を作り込んできた。ここからはワールドカップ本番へ自信を醸成すべく、自分たちらしく勝つことをリーチは目論んでいた。
しかし、7月の3連戦の結果は1勝2敗だった。
初戦で、世界ランク10位のイタリア代表を27-10で下したものの、東京からオーストラリアで移動して挑んだ同3位のアイルランド代表戦は20-36で落とした。再び日本へ戻り、東京・国立競技場に5万人超の観客を集めて同4位のフランス代表とぶつかったが、15-42で屈した。軽微な反則でペナルティーキックを与え、向こうが自由にプレーを選べる状態で自陣ゴール前に入られ、そのまま力で押し切られることが多かった。
ジョーンズヘッドコーチは言う。
「相手へのプレッシャーを(自分たちから)抜いてしまうところがある」
アキレス腱も浮き彫りになった。特に際立ったのは、高い弾道のキックの捕り合いだ。
主な捕球役のウイングに長身選手の少ない日本代表にとって、これはかねての検討課題だった。昨年は別のポジションの選手が捕球に回るなどしてなんとか対策していたが、今季は再びウイングが対処する形に変更。すると試合を重ねるごとに上空で競り負けたり、こぼれ球を拾われたりする機会が増えた。それがフランス代表戦の敗因の一つとなった。
この件を指摘されたジョーンズヘッドコーチは「成長はしている」と強調するなか、ウイングで身長167cmと小柄な石田吉平(26)は自身にベクトルを向けた。
「『身長が低いので、もう終わり』となったらそれまで。自分でしっかり工夫しながら、空中戦に向き合っていきたいです」
「攻守」それぞれにも課題
他の課題も露見した。攻めのバリエーションと、フランス代表戦で与えた6トライ中5本のきっかけとなったモール(立ったボール保持者を軸にした塊)への守りなどがそれだ。まずは7月25日からスタートした11日間の網走合宿で鍛え直し、8月の対オーストラリア代表との2連戦でその成果を発揮したい。
グラウンド内外で苦労が絶えない様子だが、ここまで伸びてきたのも確かだ。イタリア代表戦の前半17分、フランス代表戦の前半15分のトライシーンは、それぞれ状況こそ違うもののチームの目指す動きが見えた意味では共通した。
前者では、ボールを持たない選手がパスの回る方角へ大きく回り込んで数的優位を作った。後者では、キックを蹴られた後方へ迅速に戻った選手が鋭く攻め返したことが起点となった。ジョーンズヘッドコーチは『超速ラグビー』という題目を唱え、万事に素早い動き出しを促す。いまではこのコンセプトが浸透してきたうえ、基本方針を踏まえたうえでの即興性も見られるようになってきた。スクラムハーフの齋藤直人(28)は言う。
「練習でも、決まり事があるなかでもスペースが見えればそこを攻めるシーンは多くなってきたかなと」
世界の上位国に見劣りしない
前向きな点は他にもある。競技力を左右する分水嶺の一つであり、かつ体格の大きさが肝要なぶつかり合いにおいて、いまのジャパンは上位国に見劣りしない。
衝突の多いフォワード第2、3列が充実しているのだ。特にニュージーランドの強豪『ハリケーンズ』で活躍したロックのワーナー・ディアンズ(24)、10年前に来日して力をつけたフランカーのベン・ガンター(28)は、高低のタックルで何度も走者を跳ね返した。他にも遅れて代表資格を取得したり、一時の休息を経て戦列に戻ったりした海外出身勢がこのポジション群の選手層を厚くしている。
ギャリー・ゴールドアシスタントコーチの唱えるシステムと相まって、7月の3連戦では、本調子ではなかったものの近年力をつけていたイタリア代表を10点に抑えた。主に途中出場で奮闘のリーチは、不動の先発だった過去とは違った思いでいる。
「リザーブに入ったら勢いをつけないといけない。そのために(体重を)増やそうかなと」
他の位置では、’24年以降の主軸が着実にキャリアアップする。下部組織で戦い方を理解した伊藤龍之介(21)は、明大4年にしてこのほど3戦連続で司令塔を務めた。テストマッチ経験の浅いメンバーが圧倒され続けた’24年と比べれば、底力はついたといえる。ガンターはしきりに言う。
「長年やってきたシニアのグループにフレッシュなエナジーをもたらしてくれる若手がミックス。いいチームができている。(今後は)確立したものを見せていきます」
フランス代表戦時に帯同した35名のほか、故障で戦列を離れている面々が、33名とされるワールドカップ登録枠争いを激化させる。ジョーンズは、この夏いっぱいでスコッドの8割程度を固めるつもりだ。本番までの1年強を有効活用する。
「興奮する試合をする自信がある」
振り返れば’15年、ジョーンズヘッドコーチのもとワールドカップ・イングランド大会で3勝を挙げた。早朝から3部練習は当たり前という過酷なキャンプを乗り越えての快挙。歴史的な勝利を飾った南アフリカ代表戦に至っては、チーム総出での対戦相手の分析、試合当日のレフリーの直前合宿への召集と、あらゆる策を講じて臨んだ。
続く’19年の同日本大会では、初めて決勝トーナメントに進んだ。団結力を示す「ONE TEAM」というスローガンを流行語とするまでの間、海外リーグへの日本チーム派遣、身体的負荷はイングランド大会前以上といわれるハードな合宿を経ていた。
どんな強者も撃破できると信じ、その実現のために地道な積み上げを行う。それが、ここ10年ほどのラグビー日本代表のファイティングスタイルだ。
’27年へアップデートを図る今夏、複数のポジションをこなすティエナン・コストリー(26)が流ちょうな日本語で応援を呼び掛けた。
「ポジティブなところも多いし、見えないところでのみんなの努力はすごい。これからのジャパンを楽しみにしてほしいです。どんどん成長して、来年には’19年のような興奮する試合をする自信があります」
