世界が注目する最高水準の自衛隊・掃海部隊、トランプ大統領が派遣を求めたら高市首相は断れるのか?

2025年10月の首脳会談では蜜月を演出した高市首相とトランプ大統領。写真は米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(写真:共同通信社)
(木俣 正剛:元「週刊文春」・月刊「文藝春秋」編集長)
イランの出方次第で高市構想は完全に崩壊
3月12日、イラン革命防衛隊(IRGC、正式には「イスラム革命防衛隊」)の司令官顧問のアリ・ファダビ氏が「米国とイスラエルはアメリカ経済と世界経済を破壊する長期的な消耗戦に巻き込まれる可能性を考慮しなければならない」と語ったことで、中東情勢は、世界各国に大混乱を巻き起こしています。
長期戦とは、実質的に「イラン・ホルムズ海峡封鎖」を意味しています。米国・イスラエル同盟の一方的勝利という見方は一変し、世界的経済危機の可能性に世界がパニック状態に陥りました。
日本でも高市首相が世界でもっとも早く、備蓄石油の放出を宣言しましたが、実際にドライバーが燃費やガソリン価格を投稿するコミュニティサイト「e燃費」によると、3月12日時点でのガソリンの平均価格(レギュラー)は151円、翌日の13日は153円。備蓄石油の放出があっても値上げは始まり、海峡封鎖が本格的になれば、最大250円程度まで値上がりするのではないかと、予測されています。
また、為替も、原油高は日本経済に悪影響を与えるのが必至なので、短期的には円安に流れる可能性が高くなりました。
円安が続き、輸入コストが高くなることは、高市内閣の根幹である、物価を下げ、円安も是正するという経済政策を吹き飛ばす可能性があるということです。
「責任ある」と枕詞はついてはいますが、高市政権の積極財政によって、国債の大量発行という現実は変わりません。これでは、物価は下がらず、円安構造も変わるわけはないという多くの経済専門の警告は的中しつつあり、高市構想はイランの出方次第では完全に崩壊しかねません。
イランを追い込んだトランプ政権の失敗
ホルムズ海峡封鎖は、原油だけではなく、多くの経済的影響を世界に与えます。LNG(液化天然ガス)は、カタールが一大生産国で広く発電に使われるため、発電燃料不足が原因で電力制限がおきる可能性があります。石油化学製品も中東産が多く、ナフサ、エチレン、プラスチック材料の不足は自動車、家電、包装業界などを直撃します。
ペルシャ湾岸にはアンモニアや尿素などの輸出拠点があるため、ホルムズ海峡が長期封鎖になると、世界的な食料価格の上昇や食料不足につながります。また、安価な天然ガス電力を使ったアルミ精錬の巨大拠点でもあり、自動車、航空機、建材に不可欠な材料が不足することになります。
原材料だけではありません。船舶保険料が急騰し、輸送費が大幅上昇します。資源の多くを輸入に頼る日本には、死活問題となるのです。
影響は日本だけではありません。日本はオイルショックの教訓から原油備蓄をかなり備えていますが、インド(原油の85%が輸入・多くが中東)の国家備蓄は数週間程度。パキスタンもインドと同様、備蓄が足りず、外貨も不足しています。バングラデシュも似たり寄ったりで、電力の燃料輸入比率が高く、LNGが不足、外貨も十分ではありません。この3カ国は、工業が停止する可能性さえあるという識者もいます。
韓国も、原油輸入はほぼ100%で中東依存が高く、中国でさえも原油輸入の40〜50%が中東からです。ただし中国の備蓄は規模が大きく、ロシアとのパイプラインもあるので、すぐに経済崩壊にはつながりません。
もちろん、海峡を封鎖すれば、イランの製品も輸出できません。だからこそ、今まで、イランは本格的な封鎖を実施してきませんでした。ここまで、イランを追い込んだのはトランプ政権の失敗でしょう。
日本が避けて通れない「もうひとつの問題」とは…
「無条件降伏」を突きつけ、イランの体制転覆をねらった空爆作戦でしたが、実際には、ハメネイ師ら幹部40人を殺害するという戦果をあげたものの、体制転覆となるようなイラン国民の動きは起こりませんでした。
ハメネイ師の直属部隊・革命防衛隊は、ヒトラーのナチスドイツでいえばSS(親衛隊)のような存在です。もし、無条件降伏となれば、全員戦犯になりかねないため、降伏や停戦には簡単に応じられないという心理を読めなかった、トランプ大統領の「やり過ぎ」だったのです。
このままでは、オイルショック以上のパニックが起き、恐怖が恐怖を呼び、「原油価格高騰→輸入代金増加→通貨下落→燃料不安→社会不安」という形で社会が崩壊していく国が出てきかねません。それこそ大恐慌になったあと、世界大戦になるといった展開さえ予想できます。
大げさに言っているように聞こえるかもしれませんが、最悪の事態を想定するのが、国際政治の要諦です。本当に大惨事がおこりかねないのです。
国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、原油価格が100〜150ドル/バレル圏に高止まりするショックが続く場合、先進国の年間実質GDP成長率はおおむね0.5〜1.0ポイント程度押し下げ、世界全体でも0.3〜0.8ポイントの下押し圧力になり得るといいます。
世界経済の混乱に加えて、日本には、もうひとつ避けて通れない問題があり得ます。
現在、世界の軍事関係者から、日本が熱い視線を投げかけられているのです。
第二次大戦の経験から対機雷戦部隊を充実させてきた日本
実は,日本は世界でもっとも強力な対機雷戦部隊があります。第二次大戦で、米軍による機雷封鎖で大損害を受けた経験から、掃海艇には力を入れ、世界でもトップクラスの掃海艇をもっています。

海上自衛隊の掃海艇「いずしま」。自衛隊・資料。撮影は2024年11月11日(写真:共同通信社)
現在では磁性を帯びないFRP(繊維強化プラスチック)製の、大型、小型や掃海艇母艦など、いろんな情勢に備えた掃海艇を、常時活動できる数として12隻を保有しています。
イランによるホルムズ海峡での機雷敷設が懸念される事態になり、能力の高い日本の掃海艇の派遣を求めてくる可能性が出てきたのです。
米海軍も、現在は無人掃海艇とヘリコプターの使用で、かなり高度な掃海能力をもつようになりました。しかし、掃海艇は8隻しかもっていません。他にも、湾岸には英国とフランスが、海軍基地を置き、それぞれ掃海能力をもった部隊を展開させています。
中国は、イランとの友好関係を利用して,中国船籍の船だけは通行させてほしいと交渉しましたが、当然のごとく断られたそうです。機雷は敵味方を問わず、攻撃してしまう自爆兵器ですから、中国とそんな約束をしたら,実際には海峡に機雷をまいていないことがわかってしまうからです。
海峡封鎖に使用される武器は機雷だけはありません。小型で浅い海面に潜れる小型潜水艦が多数あり、また小型高速艇が何十隻もあって、大群で襲ってくることもありえます。
他にも、特攻艇のようなボート、漁船を模した機雷を夜半にばらまく船など、小型で無武装に近い掃海艇がイランの妨害なしに、海峡の機雷除去をできないように何重もの準備がなされているのです。
日米首脳会談で高市首相に“圧力”も
前述のように、米艦隊の掃海能力だけでは、封鎖を完全に突破するのは難しいのが現実です。現状は航空優勢を利用して、昼間はイラン艦船や小型潜水艦による機雷敷設を防ぎ、夜はヘリコプターや哨戒機の暗視能力の高さを利用して、漁船などに偽装した民間船による機雷敷設を防ごうとしていますが、十分ではありません。
海峡封鎖は、実際になにもせずとも、封鎖するといった瞬間、その恐怖で物流が止まるおそろしい作戦です。イスラエルは、現在もイラン政権の転覆に執念を燃やしていますが、米軍は、もはや海峡封鎖阻止の方が優先事項になりつつあります。世界恐慌を防ぐことが重要な課題となっているのです。なぜなら、大不況が米国のせいだと言われかねず、トランプ政権の中間選挙にまで影響を与えかねないからです。
となると、湾岸戦争やイラク戦争のときのように多国籍海軍を編成し、小国のタンカーも護る形の護衛艦隊をつくるのがベストの方法です。それも、イランが機雷を敷設する前になるべく早く厳しい監視が必要なのです。
そして、ここに高市首相および日本に、重要な圧力がかかる可能性があります。
高市首相は、19日に訪米します。前回はトランプ大統領と友好裡に会談を終わらせましたが、今回米軍は、日本に掃海艇の派遣を求めてくる可能性が高いと思われます。いや、すでに在日米軍等から、要請がきている可能性もあります。
12日の国会答弁では掃海艇を出さないと明言した高市首相ですが、トランプの前で、きっぱり断れるのでしょうか。
封鎖は、かなり長期間続き、世界経済にも打撃を与え始めている時期の訪米です。長期間続く船舶護衛と、掃海には、能力のある艦艇が何隻あっても足りないくらいです。断れば,「日本の安保ただ乗り論」がトランプ側から出てくるのは目に見えています。
もちろん、日本には、憲法上の問題も、集団安全保障に関する取り決めもあり、高市首相一人では答えは出せないでしょう。このままでは、ほどなくインドなどの原油備蓄のない国が悲鳴をあげ始めます。その段階で、掃海艇派遣を断ると「自分勝手」と言われかねません。これは台湾有事にも影響する問題でもあるからです。
今後、起こり得るマラッカ海峡封鎖も視野に真剣な議論を
たとえば、国連安保理の決議があれば、かなり、参加のハードルは低くなります。また、参加するにしても、無人掃海艇や無人探査機を使用した、偵察任務,後方支援、技術支援なら、ハードルはさらに低くなります。
国連決議の可能性は常任理事国にロシアと中国の拒否権が生じる可能性がありますが、国連総会決議で代替して、強行することは可能です。
1990年発生の湾岸戦争後、ペルシャ湾での掃海に従事した自衛官に、当時私が統括していた週刊文春の記者がインタビューしたことがあります。掃海艇は小型であるため、インド洋の荒波を越えてゆくのが大変で、冷房なども完備しておらず、地獄のような作業だったそうです。しかも、小型ゆえに速度が遅く、イランに到着するまで3週間以上の時間がかかっています。
現在は、その教訓をもとに、大型の掃海艦が多数建造され、速度も増しています。また掃海母艦や強襲揚陸艇などに、無人掃海艇をのせて技術要員とともに、早期に到着できるようになりました。あるいは、現地の様子次第で参加できるよう、今から出発して、ペルシャ湾付近で待機する手もあります。
いずれにせよ、現状では戦闘行為と一体化する掃海活動は認められていないので、世界大恐慌を前提にした掃海艇派遣を今から国会で議論しておくことが必要でしょう。
筆者は、高市政権下での憲法改正も、自衛隊の海外派兵も、是認していませんが、今回の海峡封鎖の護衛と掃海の問題は、今後、起こり得るマラッカ海峡封鎖(対中国戦には、もっとも有効と思われています)のモデルケースと考えて活発に議論すべきです。
そして、この機会を通じて、直接利害を共有するインド海軍だけでなく、高市政権と対立したまま、打つ手がない中国海軍にも多国籍海軍への参加を呼びかけ、国連安保理での決議にも賛成を呼びかけるなど、関係修復のチャンスとすべきではないでしょうか。
これは、初めて日本が国際的に主体的な活動を行うチャンスでもあるのです。
最後に、わが国では30年間封印されていた、掃海艇の国際法違反の派遣例が存在することを紹介しておきましょう。
朝鮮戦争で機雷除去に参加していた海上保安庁の掃海艇
朝鮮戦争当時、まだ独立もしていなかった日本の海上保安庁の掃海艇が、交戦国でもない北朝鮮が敷設した機雷を除去するため、多数参加させられたという事実です。
まだ独立していない日本でしたが、連合軍の敷設した大量の機雷を除去する活動に参加したことのある元海軍兵士がいました。彼らは、突如招集をかけられ、身分の補償も、戦死した場合の補償もないままに、米軍に協力し大量の機雷除去に成功。米軍から感謝されました。
私は当時の隊員にインタビューする機会をえましたが、北朝鮮軍に捕まったら、日本人と名乗ることも許されず、帰国してからも秘密を護ることを誓わされたと話していたことを思い出します。国際法とは、それくらい軍事的に優位な国が勝手に扱えるものでもあるのです。
本来、ホルムズ海峡は、国際法上はイランの領海ですが、公海扱いで軍艦も民間船も自由に航行できるはずです。ただし、イランは関連条約に参加していないため、封鎖作戦を実行できます。
海峡封鎖で高市首相が公約している物価問題の解決は事実上、吹っ飛びました。この上、掃海艇派遣を拒否すると、国内タカ派の支持まで失いかねません。それとも、別の方法で世界平和に寄与できる自衛隊の運用法を確立できるか。高市首相の本当の外交手腕が問われています。
筆者:木俣 正剛
