悔しい、悔しい…「元メガバンカー」が定年退職、退職金2,500万円を手にするも〈心許ない通帳残高〉。年金月24万円・65歳で駆け込んだハローワークでかいた大恥【FPが解説】
ひと昔前なら、定年を迎えるころには子どもは自立し、退職金はそのまま「老後の蓄え」に回すことができました。しかし、晩婚化が進んだ現代では、退職金の入金口座が、そのまま学資ローンや住宅ローンの返済にスルーパスされるケースが増えています。本記事では、田中一郎さん(仮名)の事例をとおして、老後に苦しむライフサイクルのねじれについて、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。
晩婚元メガバンカーの切実な家計事情
田中一郎さん(仮名/65歳)は、大手メガバンクで40年以上勤め上げた元銀行員です。銀行員時代での最高月収は70万円、50代以降は融資先企業へ出向し、総務・経理部門の部長として采配を振り、リタイアの日を迎えました。
結婚は40歳と遅めで、二人の子どもに恵まれましたが、教育費のピークと定年の時期がほぼ重なってしまったのです。大学進学に伴う学資ローンの返済、さらには住宅ローンの繰上げ返済を優先した結果、退職金2,500万円を含む通帳の残高はわずか300万円程度。これから始まる長いリタイア生活を送るには、心許ない数字でした。
自身の年金額は月24万円ですが、10歳年下の妻はパート勤務で月収約10万円。彼女が年金を受給するまでにはまだ10年あり、当面は田中さんが稼ぎ続けなければ家計が回りません。
「まだ自分が働かねば」と、田中さんは退職後にハローワークで職探しを始めます。
「そのご年齢ですと…」ハローワークで味わった現実
田中さんには、銀行員としての融資経験や企業での管理職の実務経験もあり、「これだけキャリアがあれば、きっとどこかの企業が採用してくれるだろう」と思っていました。しかし、そんな自信は、窓口での最初の一言で打ち砕かれました。
ハローワークで希望条件を伝えると、担当者は丁寧ながらも言葉を選びます。「管理職としての素晴らしい経験は承知しておりますが、企業側が求めているのは、もっと給与を抑えられる即戦力の若年層でして……」
閲覧できる求人の多くは40代まで。中小企業の事務職もあるにはありましたが、提示されたのはパート勤務で月収12〜13万円程度。田中さんの想定とは大きな隔たりがありました。「俺はもう社会から必要とされていないのか……?」現実とのギャップに、田中さんは自らの思い上がりを恥ずかしく思いました。
さらに追い打ちをかけたのが、ようやくこぎつけた面接での一幕です。
「御社の経理体制について、私の経験を活かした改善提案をさせていただきたい」そう語った田中さんでしたが、経営者側の対応は冷ややかなものでした。彼らが求めていたのは、ただ事務作業や雑務をしてくれる人。結果は不採用でした。
かつて融資の相談に乗り、経営アドバイスをしてきた立場。その自分が、以前なら改善要求をしてきたような企業からも選んでもらえない……。65歳という年齢の壁を、身をもって知ることになり、「悔しい、悔しい……」と一人ごちました。
教育費と定年が重なる世代のリスク
近年、晩婚化や再婚の増加により、40代・50代で子どもを授かる家庭も珍しくありません。その結果、教育費のピークと定年退職が重なるケースが増えています。
教育費と老後資金を同時に準備するのは容易ではありません。特に大学進学費用は1人あたり数百万円規模が必要になります。私立大学や下宿となれば、目安として1,000万円程度用意しなければならないでしょう。
まず重要なのは、早い段階で今後の収入・支出を具体的に見える化すること。住宅ローン、教育費、老後生活費のバランスを把握し、家計の見直しや必要な収入をどう確保するかを考えなければなりません。
そのうえで、自身のスキルを棚卸し、定年後も必要な収入を確保するために、再就職だけでなく、これまでの経験を活かしたフリーランスや顧問業など、柔軟な働き方を模索する選択肢もあります。パートで最低限の収入を稼ぎながらフリーランスで仕事をしてみてもいいでしょう。
自分が望む人生のために、どう収入を確保し、支出をコントロールするのか、早い段階で将来設計を考え、実現するための戦略を考えることが重要です。
人生100年時代、後悔しないための「将来設計」と「生存戦略」
総務省「労働力調査」によれば、65歳以上の就業者数は約900万人を超え、割合でみても25%前後と、上昇傾向にあります。人生100年時代、65歳で完全リタイアという選択は少数派になりつつあるのです。
一方で、シニア就労の現実は厳しいのも事実です。賃金水準は現役時代より大きく下がり、希望職種に就くことが難しい場合も少なくありません。現役のころの収入から大きく下がることが一般的です。
だからこそ、現役時代から老後資金を計画的に準備すること、特に教育資金とリタイア時期が近いような場合には早い段階での準備が不可欠です。収入だけでなく、社会とのつながりや生きがいを求めて働く人も増えました。生きがいを持って、十分な収入を確保できる道を早い段階で考えてみてはいかがでしょうか。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
