ホンダSシリーズの生き証人(前編) 始まりは本田宗一郎の「スポーツカーをやってみろ」 元祖誕生へ
ホンダSシリーズ誕生前夜
ホンダツインカムクラブは、RSC(現HRCの前身)の元エンジニアで『ホンダSシリーズ』の開発者でもあった木村昌夫さんの講演会を、昨年11月30日に開催した。ここではまず、ホンダ・スポーツカーの元祖であるSシリーズの系譜を簡単にたどっておこう。
【画像】始まりは本田宗一郎の「スポーツカーをやってみろ」!ホンダ・スポーツカーの元祖『Sシリーズ』 全26枚
1958年9月、ホンダは白子工場内にあった本田技術研究所に第3研究課を発足させ、4輪車開発に着手した。

1962年に登場したホンダ・スポーツ360。 本田技研工業
その第3研究課には、飛行機や3輪車などの開発経験を持つ者もおり、当初は7名でスタート。その責任者はF1の初代監督である中村良夫(以下文中敬称略)で、同じく開発者のひとりとして後年RSCでモータースポーツ車両の開発に尽力した木村昌夫が所属していた。
ある日、本田宗一郎から「スポーツカーをやってみろ」という指示が飛んだ。そこで急きょ2シーターの試作車に取り掛かり、1959年秋に完成。時を同じくして、今度は副社長の藤澤武夫から「トラックをやったらどうか」との提案があり、軽トラックの試作車の開発もスタート。
本田宗一郎が『スポーツカー』といったのは、『既存のメーカーと競合するよりも新しい需要を開拓することが重要』、そして、『日本の自動車産業を国際的に通用させるためには、2輪車と同様にレース活動による技術の早期育成が必要』との判断からだった。
一方の藤澤武夫は、当時の社会情勢や市場状況から、『4輪車の需要は乗用車よりも商用車である』こと、『ホンダの場合は2輪車販売店を販路として生かすことができる』と分析しての提案だった。
本田宗一郎が真っ赤な『スポーツ360』で登場
1962年6月、建設途中の鈴鹿サーキットで開かれた『第11回ホンダ会総会』で、本田宗一郎は開発責任者の中村良夫を助手席に乗せ、真っ赤な『スポーツ360』で登場した。
同年10月の第9回全日本自動車ショーには、『スポーツ360』と『スポーツ500』、『T360』を出展。この『スポーツ500』が、のちに市販化される『ホンダS500』のベースである。

建設途中の鈴鹿サーキットで、本田宗一郎は真っ赤なスポーツ360で登場した。 本田技研工業
なお、スポーツ360のステアリングを民間で初めて握ったのは、カーグラフィックの初代編集長、小林彰太郎だった。その時の感想は、「ピーキーで乗るのが大変」というものだったそうだ。
結果として、特振法(特定産業振興臨時措置法案)が廃案になったことなどからスポーツ360は市販されなかったが、スポーツ500はボディサイズとエンジンの排気量をアップして、1963年10月にS500として市場に投入されたのである。
グランプリエンジンのミニチュア
このS500は、2輪の世界グランプリで頂点を極めたレーシングテクノロジーを投入し、当時の量産車では世界的に見ても希有なDOHCエンジンを搭載。
しかも、4気筒の各気筒に1個のCVキャブレターを奢り、等長エキゾーストマニホールドを採用するとともに、アルミ製エンジンブロック、クランクシャフトの支持を高回転対応のために高価なニードルローラーベアリングにするなどによって、最高出力44ps/8000rpm、リッター当たり約83psを達成。

S500のエンジンは『まるでグランプリエンジンのミニチュア』と注目を集めた。 本田技研工業
この超高回転型エンジンは、『まるでグランプリエンジンのミニチュアのようだ』と世界中から注目を集めた。
続けて1964年3月に『S600』が発売。S500の低速トルクがやや細く、スタート時の扱いが繊細だったのは事実であるが、『さらなる高性能』をめざすスポーツカーとしての少し早い正常進化といえる。
531ccから606ccへの排気量アップ以外は基本的にS500を継承し、最高出力57ps/8500rpm、最高速度は約145km/hを誇り、倍以上の排気量を持つクルマと同等の速度であった。
その性能の高さと価格からモータースポーツユーザーの心をも捉え、日本をはじめ世界各国のサーキットで活躍を果たした。
S600から約2年後、『S800』、『S800クーペ』登場
S600の登場から約2年後の1966年1月、791ccまでエンジン排気量を拡大した『S800』、『S800クーペ』が登場。
ボンネットに『こぶ(パワーバルジ)』があるのが特徴で、これは当時先進技術であったインジェクション(燃料噴射装置)を装備すべく、ボンネットとエンジンのクリアランスを確保するために設けられたものだった。

1966年1月、791ccまで排気量を拡大した『S800』、『S800クーペ』が登場。 本田技研工業
しかし、インジェクションの開発は難しく、結果として見送られ、従来通りキャブレターを装備したが、このこぶだけは残った。
S800の最高出力は、70ps/8000rpm。4速MTはフルシンクロ化され、最高速度は約160km/hを誇る。当然ながらサーキットでも活躍し、さまざまなレースでパフォーマンスの高さを証明し、世界各国で人気を博したのである。
*ホンダSシリーズの生き証人(中編)に続きます。
