“柄本兄弟”がNHKドラマで重宝される理由 『ばけばけ』『光る君へ』などで存在感放つ
兄の柄本佑、弟の柄本時生。NHKの大河ドラマや朝ドラを観ていると、ふと「あ、また柄本兄弟だ」と思う瞬間がある。中心に立つ役回りでなくとも、物語の要所で作品を支えている印象が強い。
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そもそも大河ドラマや朝ドラは、半年から1年という長い時間をかけて、視聴者の日常に染み込んでいく作品だ。瞬間芸よりも、じわじわと信頼を積み上げる芝居が効いてくる。柄本兄弟は、まさにそのタイプだろう。そんな存在感を放つ2人は、なぜこれほどまでにNHKドラマと相性がいいのだろうか。
2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』で、時生が演じる山橋才路は、山橋薬舗店主でありながらどこか胡散臭さがある。だが、決定的に悪人とも言い切れない、評価の定まらない人物だ。そうした中間色のキャラクターは、演じ方を間違えるとただ不気味という印象だけで終わってしまう。ところが時生は、感情を大げさに語らなくても、山橋の言葉の選び方や一瞬の間に、「この人は何かを抱えている」と感じさせてくれる。
この感覚は、時生が過去のNHK作品で担ってきた役割を振り返ると分かりやすい。朝ドラ『おひさま』(2011年度前期)で時生が演じたタケオは、ヒロイン・陽子(井上真央)の幼なじみで、いつも少し近い距離から彼女の人生を見守ってきた存在だ。いわゆる特別な才能を持った男ではないし、物語を大きく動かす中心人物でもない。だからこそ時生は、タケオをどこにでもいそうな青年で終わらせない工夫をしている。戦時下の息苦しさや不安を、長い説明や大げさな感情表現で語るのではなく、言葉を飲み込む間や表情の揺れで見せる。すると、陽子の明るさや前向きさが根性論に見えなくなる。周囲の人間も同じ時代を背負って生きている、と視聴者が自然に理解できるからだ。タケオがいることで、『おひさま』は町の人々がそれぞれの事情を抱えて暮らしている物語として成立していた部分が大きいだろう。
大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年)の万朝も同じだ。万朝は場面を軽くする役割を担う一方で、笑いだけに寄りかからない。おどけた言動の奥に、職業人としての矜持や、時代の空気に翻弄される人間の輪郭が残るからだ。つまり時生は、作品のテンポを整えながら、その人物が生きてきた時間を同時に感じさせることができる。『ばけばけ』の山橋も、まさにその延長線上にある。物語の答えを出す人ではないが、彼がいることで人物関係に陰影が生まれ、ドラマが単調にならない。時生は、ストーリーを動かすというより、作品の現実味を底上げする俳優だ。
■『光る君へ』藤原道長を立体的にした柄本佑の名芝居 一方、兄の佑は、より物語の核心に近い場所で存在感を発揮してきた。朝ドラ『あさが来た』(2015年度後期)で演じた眉山惣兵衛は、その代表例だろう。時代の価値観を背負いながら、不器用に家族と向き合う姿は、視聴者に強い印象を残した。佑の芝居の魅力は、感情を過剰に説明しない点にある。視線や間、佇まいの変化だけで、人物の内面を伝えてくる。その積み重ねが、NHKドラマの重厚な語り口とよく噛み合ってきた。
朝ドラ『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)で柄本佑が演じた菅井伸は、水木しげるの職場に出入りするアシスタントで、現場の空気や人間関係を視聴者に伝える役だった。佑の芝居が効いていたのは、菅井を“便利な助っ人”ではなく、焦りや弱さも抱えながら仕事を続ける一人の人間として成立させていた点だ。『なつぞら』(2019年度前期)の倉田隆一も同じで、主人公になつに正解を与える先生ではなく、少し引っかかる言葉を残して考えさせる存在だった。主役の成長が説教くさくならず、試行錯誤に見えるのは、こうした人物がちゃんと現実の人として置かれているからである。
近年では、大河ドラマ『光る君へ』(2024年)での藤原道長役が象徴的だ。権力者としての強さだけでなく、揺らぎや弱さも含めて描かれた道長像は、佑の持つ生々しさによって立体的に描かれていた。決して英雄的に描かれないからこそ、視聴者は目を離せなくなる。派手なカリスマではなく、感情の揺れを抱えたひとりの人間として、歴史上の人物を現在に引き寄せた。そのバランス感覚こそ、NHKドラマにおいて重宝されてきた理由だろう。
柄本佑と柄本時生は、決して同じタイプの俳優ではない。しかし共通しているのは、出番の大小に関係なく場面を成立させる力だ。主役が輝くための土台を整えつつ、自分の役にもきちんと手触りを残す。その積み重ねが、大河や朝ドラのように長く続くドラマで、制作側にも視聴者にも信頼されてきた理由なのだと思う。
だからこそ筆者を含め、視聴者は、2人が画面に現れた瞬間、無意識のうちに「この作品は大丈夫だ」と感じてしまうのかもしれない。柄本兄弟がNHK大河ドラマ・朝ドラに愛され続ける理由は、その確かな安心感と、静かに心を揺らす表現力にある。(文=川崎龍也)

