「疲れていますか?」と聞かれて「まだ大丈夫」と答える仕事熱心な人ほど、見えない疲労が溜まっているかもしれない。医学博士の片野秀樹さんは「『まだがんばれる』と思う人は、脳のマスキングのせいで疲れを自覚できていない可能性がある。疲労度を見える化するツールで自分の疲れ具合を客観視し、休む意識につなげていくことが重要だ」という――。

※本稿は、片野秀樹『休養マネジメント』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/littlekop
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/littlekop

■疲労は自覚できているとは限らない

あなたは普段、疲れを感じていますか?

いつも体が重くて、だるい。熱っぽい。朝起きてもすっきりしない。筋肉痛がある。

このような自覚症状がある人は、「疲れている」と答えるでしょう。

では、「それほどでもないかな」と思った人も、次のような悩みに心当たりはないでしょうか。

・ミスや物忘れが増えた
・いつも不安な気持ちをかかえている
・ちょっとしたことでイライラする
・やる気が出ない
・ドアの角によくぶつかる

じつは、このような人も「疲れている状態」だといえます。

以前はそんなことなかったのに、最近、イライラすることが多い。仕事に集中できない。でも、こんなふうに考えてはいないでしょうか。

「仕事は休まず行くし、家事や休日の予定も問題なくこなせている。だから、自分はまだ大丈夫だ」と。

動けるから、疲れていないというわけではありません。ほんとうは疲れがたまっているはずなのに、自覚できていないだけかもしれません。

■仕事熱心な人ほど「精神的」に疲れているかも

疲労には大きく2つのタイプがあります。

「肉体的な疲労」と「精神的な疲労」です。

「肉体的な疲労」があると、明らかな変化が起こります。体が重い、だるいなどです。元気なときとの差がわかりやすいので、疲れていることを自覚しやすいです。

疲れを自覚すると、「休みをとらないといけないな」「今夜は早く寝て、体力を回復させよう」という意識になります。ある程度、自分で調整しながら生活することができます。

一方、「精神的な疲労」は疲れを自覚しにくいという特徴があります。

現代では、この精神的な疲労をかかえている人がとても多いのです。

たとえば、次のような行動をとっている人は要注意です。すでにかなり精神的な疲労がたまっているかもしれません。

・移動時間もメールチェックをかかさない
・休みの日でも社用スマホを持ち歩いている
・休日も仕事のことが頭から離れない
・仕事のチャットやメールは休日でも即レスしている

一見「仕事熱心な人」というイメージかもしれませんが、こうした行動が常態化してしまうと、心身の健康を損なうことになりかねません。

「精神的な疲労」でいちばん問題になるのが、活動能力が低下しているにもかかわらず、活動をつづけてしまうことです。

■「脳のマスキング」が疲労を隠してしまう

疲れているという自覚がない人の場合、意識的に休みをとることをしません。

イライラする、不安、集中力が続かないなどは「精神的な疲労」によって起きる現象ですが、「最近怒りっぽいので今日は休みます」という人はおそらくいないでしょう。

ほんとうは疲れているのに休まない。これは非常に危険な状態なのです。

では、なぜ「精神的な疲労」は自覚しにくいのでしょうか?

これには、脳の働きが関係しています。

脳は、疲労をマスキングすることができます。マスキングとは、「上から覆い隠すこと」です。本来あるはずの疲労を覆い隠してしまうことで、疲れている状態でも活動を継続できてしまうのです。

写真=iStock.com/mohd izzuan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mohd izzuan

これは脳のすばらしい能力でもあります。一時的にがんばらなければいけないとき、この能力があることによって切り抜けることができます。

たとえば、クライアントへの納品日前日になって、重大な欠陥が発覚したとしましょう。明日までにすべて点検して欠陥を直さなければなりません。

■見えない疲れを可視化して把握しよう

納品に間に合わせるための作業で、すでに疲労はピークに達しています。体はだるいし、明らかな睡眠不足。一刻も早く休養をとる必要がある状態ですが、そこからもうひとがんばり――徹夜で懸命に作業して、なんとか仕上げて納品に間に合わせる――ということができるのは、脳が疲労をマスキングしてくれているからです。

でも、いつも疲労をマスキングしながら活動をつづけていたら、どうなるでしょうか。

知らず知らずのうちに疲労は蓄積され、やがて活動能力は下がっていきます。少し休んだくらいでは疲れが回復しなくなります。

最悪の場合、病気になってしまうこともあります。

昨今、このように疲労から病気になってしまう人が非常に増えています。

「精神的な疲労」をかかえた人が多い現代では、「マスキングされた疲労をどのように可視化するか?」がとても大切な視点になります。

「疲れ」を把握して、「休む」という行動につなげなければいけません。

目に見えない疲労は、数値化することで休む意識につなげることができます。

「自分はまだ大丈夫」と思っている人も、試しにチェックしてみることをおすすめします。

疲労を可視化するためのツールを3つ紹介します。

■世界で使用されている「疲労感VAS検査」

「VAS」とは、「ビジュアルアナログスケール」の略です。

疲労感VAS検査では、「主観の客観化」という方法を用います。いちばん手軽な検査方法の1つとして、疲労の検査以外にも、VASはさまざまなスポーツの現場や心理学の現場で使われています。世界的にオーソライズされた検査方法です。

やり方は簡単です。100mmの水平な直線上に、「×」を記入します。左端が「疲れを全く感じない最良の感覚」、右端は「何もできないほど疲れ切った最悪の感覚」です。

出所=『休養マネジメント』

このうち、現在の自分の疲労度合いに近い位置に印をつけます。

そして、左端から「×」までの長さを定規で測ります。

そうすると、「○mm」という数値がでてきます。

これが計測時点での、あなたの疲労度です。たとえば、印が左端から33mmの位置にあった場合、その日のあなたの疲労度は33点ということになります。

片野秀樹『休養マネジメント』(かんき出版)

測定する際は直線を100mmとすることが公式ですが、日本疲労学会のホームページから、検査シートを入手できます。PDFがアップされているので、これをプリントアウトして使うことも可能です(必ず「等倍」で印刷すること)。

VASは自分自身の状態の変化を数値化することができるので、自分の疲労度をチェックする際、「○、△、×」ではなくVASで評価するのもいいと思います。

続けていくと、「30mm以下のときは日中のパフォーマンスがよいが、50mmを超えると目標達成率がかなり下がるな。ということは、30mm以下をキープするためのルーティンを作ればいいんだな」などと分析ができるようになります。

■疲労感を記録する「疲労checker」

「疲労checker」は、過労死等防止調査研究センター(RECORDs)が開発した、疲労や疲労感を測定・記録するためのWEBアプリです。

もともとは研究用に調査参加者の疲労状態を計測するものとして開発されたものですが、現在はより簡単に、疲労をセルフチェックできるツールとして「疲労checker簡易版」が一般向けに公開されています。

「疲労checker簡易版」では、スマホを使ってさまざまな側面から疲労を測定します。

質問に回答することで過労リスクを点数化する過労兆候調べや眠気・疲労の程度を記録する主観調査のほか、反応時間等の客観的な疲労調査(心理課題とも呼ばれる)が可能です。

疲労は複数回の計測を行うことでその変化を追うことが重要ですが、このアプリでは繰り返し疲労を計測し、保存されたデータをいつでも振り返ることができます。測定したデータは端末内だけに保存されるので、プライバシー保護の観点からも安心です。

■健康管理アプリ「カルテコ」

メディカル・データ・ビジョン(MDV)が開発した健康管理アプリ「カルテコ」は、わずか10秒で疲労を可視化できます。

まず、スマホのカメラで10秒間、自分の顔を撮影します。すると瞬時に、体の疲労度を表す「トータルパワー」、ストレスの度合いを表す「自律神経指数」、そしてこれらを総合した「ウェルコンディションスコア」がグラフと数値でわかりやすく表示されます。

「カルテコ」ホームページより

計測には、千葉大学大学院工学研究院の津村徳道准教授が開発したセンシング(非接触型生体情報取得)技術が活用されています。肌画像からヘモグロビン色素の動きなどの血流情報を取得することで、脈拍数、呼吸数、交感神経、副交感神経などの数値を算出します。

朝晩2回(あるいは朝昼晩3回)、毎日同じ時間帯に継続的に計測することで、自分の疲労度やストレス度の変化を把握することができます。計測結果をもとに、専門家による食事や休息のアドバイスが示されるので、セルフマネジメントに生かすことができます。

「カルテコ」の名前の由来は、「カルテの倉庫」です。もともとは医療機関の診療記録や健診結果、検査画像などの医療情報を一括管理し、閲覧できるアプリとして開発されました。そのほか、血圧や歩数などの記録、服薬情報やアレルギー情報などの登録、疾患リスクの未来予測などの機能もあります。

企業において社員の健康管理のために活用されているほか、一般の人でもアプリをスマホにインストールするだけで手軽に利用することができます。

----------
片野 秀樹(かたの・ひでき)
日本リカバリー協会代表理事、博士(医学)
東海大学大学院医学研究科、東海大学健康科学部研究員、東海大学医学部研究員、日本体育大学体育学部研究員、特定国立研究開発法人理化学研究所客員研究員を経て、現在は一般財団法人博慈会老人病研究所客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所未病公認講師(休養学)、株式会社ベネクス執行役員も務める。日本リカバリー協会では、休養に関する社会の不理解解消やリテラシー向上を目指して啓発活動に取り組んでいる。編著書に『休養学基礎 疲労を防ぐ! 健康指導に活かす』(共編著、メディカ出版)、著書に『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)。
----------

(日本リカバリー協会代表理事、博士(医学) 片野 秀樹)