『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は新たな景色を見せてくれる “名作火ドラ”との共通点
これから毎週火曜日は自分を省みる夜になりそうだ。10月7日にスタートした夏帆と竹内涼真がW主演を務めるドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)。その第1話を観て、視界がパッと開けたような感覚になった。
参考:『じゃあ、あんたが作ってみろよ』壮大な別れから開幕 竹内涼真が痛さとかわいげを好演
容姿も仕事も完璧な勝男(竹内涼真)が、献身的で料理上手な完璧彼女の鮎美(夏帆)に完璧なプロポーズをするもまさかの玉砕。本作は、電子コミック誌「comicタント」(ぶんか社)で連載中の同名漫画を原作に、完璧だったはずの恋人生活に終止符を打った二人の再生を描くロマンスコメディだ。
聞くところによると、原作者の谷口菜津子が、本作で鮎美の運命を変える美容師・渚を演じるサーヤ(ラランド)の相方で、クズキャラとして知られるニシダが彼女の手料理に「茶色い」と文句を言って泣かせたエピソードから着想を得た物語だという(『ラランドの声溜めラジオ #293』より)。実際に、第1話は勝男が鮎美の料理に「全体的におかずが茶色すぎるかな?」と上から目線でアドバイスするシーンが大きなハイライトとなっていた。
人は往々にして性別や年齢、出身地、学歴、職業など、その属性ごとに勝手な共通点を見出したり、「こうあるべきだ」という型を押し付けがちだが、勝男はそういう先入観や固定概念、とりわけジェンダーバイアスが強いタイプ。いくら日本のジェンダーギャップ指数が先進国の中で最低レベルとはいえ、「家で料理作って、愛する人の帰りを待つのが女の幸せ」と何の躊躇いもなく言える勝男は絶滅危惧種の部類だろう。
「料理は女がするもの」と思っているから、当然自分は料理をしないし、後輩の料理好き男子・白崎(前原瑞樹)のことも彼女が料理を作ってくれないかわいそうな男扱いをする。料理をしたことがなく、その大変さを経験していないから、「ほとんど冷凍食品の弁当は手作り弁当ではなく解凍弁当」「市販のルーを使ったカレーは手料理とは言わない」「顆粒だしやめんつゆを使うのは手抜き」といったおかしな発想になるのだ。竹内涼真の人をイラっとさせる演技があまりにうまく、怒りを通り越してケラケラと笑ってしまった。
でも、「勝男のことを笑ってばかりもいられないかもしれない」と急に怖くなった瞬間がある。鮎美と勝男が大分出身と知った時、「さす九」というワードが頭をよぎるともに思わず納得してしまった自分がいたのだ。「さす九」とは、「さすが九州」の略で、男尊女卑の傾向が強いとされる九州地方を揶揄するネットスラング。今年春頃にXで九州出身者から「親戚の集まりで男性陣は座って飲み食いし、女性陣がひたすら給仕する」大学進学を希望したら『女性に学歴はいらない』と言われた」といったエピソードが投稿され、「さす九」のハッシュタグとともに拡散されるのが一種のミームになった。
たしかに都会に比べて地方はジェンダーギャップが大きい傾向はあるものの、それは九州だけに限らない。実際に筆者は中国地方出身だが、先に挙げたエピソードと似たような経験をしたこともあるし、帰省するたびに人々の価値観が時代に合わせてアップデートされているのを感じる。勝男はたまたま亭主関白な家庭で育ったようだが、九州出身者の中にも男女平等な家庭で育った人も大勢いるはずだ。にもかかわらず、九州出身者というだけで勝男を評価するのは、料理は女がするものと勝手に決めつけて座り込んでいる男性たちと何が違うのだろう。
もう一つ反省したのは、勝男みたいに先入観や固定観念が強い人は他者の意見を受け入れないと勝手に決めつけていたことだ。その思い込みは、第1話の時点で大きく覆される。後輩の白崎や南川(杏花)に自分で筑前煮を作ってみたら元カノの気持ちがわかるのではとアドバイスされ、しぶしぶながら料理を始めた勝男。すると、筑前煮が手間のかかる料理であることや、めんつゆの材料が肉じゃがの調味料と全く同じだということに気づく。やってみなければ、わからない。「男同士で弁当交換は変」という固定観念を取っ払ってみたら、白崎の作ったサクサクのエビフライが美味しかったように。その後、白崎は南川に勝男みたいな人は誰が何を言っても一生変わらないと思っていたことを明かし、「それって俺の決めつけだったかも」と話した。
勝男は短絡的でバカだなぁと思うところもあるけれど、愚かではない。他人に間違いを指摘されて、自分を省みることができる。それはもしかしたら人として一番大事なことかもしれない。それなのに、鮎美は「勝男さんにはわからないし、わかってほしいとももう思わないかな」と理由も告げずに勝男を拒絶した。思い込みや決めつけが激しいのは鮎美も同じなのだ。鮎美と勝男が実は合わせ鏡のような関係であることに気づいた時、6年前に放送された『凪のお暇』(2019年/TBS系)の凪 (黒木華)と慎二(高橋一生)を思い出さずにはいられなかった。
凪は鮎美とは厳密に言えば、少しタイプが異なるものの、保守的で自分がなく、ハイスペックな恋人・慎二と結婚することをゴールにして、ひたすら尽くすところがよく似ている。そんな凪は他人に合わせて無理をした結果、過呼吸で倒れてしまい、仕事と恋も全て捨てて東京郊外のボロアパートで新生活をスタートさせる。そこで自分自身を見つめ直すと同時に、変化していくのが慎二に対する見方だ。慎二のことをモラハラ気質で酷い人だと思っていた凪。だが、慎二もまた凪と同じように空気を読みすぎてしまう不器用な人で、2人は似た者同士だった。付き合っている間、凪がそれに気づかなかったのは、結局のところ、慎二のことをスペックでしか見ていなかったからだろう。自分を幸せにしてくれればそれでよくて、相手に興味を持って知ろうとはしなかった。それは鮎美も同じなのではないだろうか。鮎美が一度でも本心を打ち明けていたら、勝男は歩み寄る努力をしてくれていたような気がする。
これまでもTBSドラマは令和のイマドキ研修医と昭和世代のベテラン医師(『まどか26歳、研修医やってます!』)、専業主婦とワーママ、仕事と家事を両立する妻と家庭を顧みない夫(『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』)など、異なる属性を安易に二項対立図式に落とし込まず、それぞれの目線に立ったフラットな描き方で視聴者に相互理解を促してきた。本作も、鮎美と勝男のどちらか一方を悪者と決めつけるような描き方はしていない。勝男と別れて、鮎美もまた自分と相手を見つめ直すことになるのだろう。「女だから」「男だから」といったバイアスから解放された先に広がる景色を、このドラマは見せてくれる。
(文=苫とり子)
