Temuは物価高に悩む欧米諸国の消費者の心をつかみ、またたく間に人気を博した(写真はTemuのアメリカ向けウェブサイトより)

中国発の低価格越境EC(電子商取引)サイト「Temu(テム)」。その運営母体である中国のEC大手、拼多多(ピンドゥオドゥオ)の株価がジェットコースターのような乱高下を見せている。

アメリカのナスダックに上場する拼多多のADS(アメリカ預託株式)は、2024年4〜6月期決算を8月26日に発表した直後に約3割も急落。2日後の8月28日には一時、年初来最安値の88.01ドル(約1万3103円)をつけた。

ところが、そこから株価は急速に回復。10月4日には一時155.67ドル(約2万3176円)と、年初来最安値の約1.8倍に上昇して6月以降の最高値を更新した。

こうした激しい値動きの裏側には、拼多多の今後の成長をめぐる投資家の不安と期待の交錯がある。

「ダウングレード消費」の受け皿

過去1年余り、拼多多の業績は目覚ましい勢いで拡大した。2023年の通期売上高は2476億3900万元(約5兆2093億円)と、前年比89.7%増加。同年後半から2024年初めにかけて成長がさらに加速し、2023年10〜12月期と2024年1〜3月期の売上高は前年同期比120%を超える伸び率を記録した。

同社の成長ペースは、中国EC業界のライバルである阿里巴巴(アリババ)や京東(JDドットコム)をはるかに上回っており、投資家の期待をかき立てた。拼多多の株価は2023年5月からほぼ右肩上がりに上昇し、2024年5月には一時164.69ドル(約2万4518円)の高値をつけた。

拼多多の急成長の原動力がTemuにあることは言うまでもない。中国市場で培った低価格ECのビジネスモデルをもとに2022年9月に立ち上げた越境ECサービスを、わずか2年ほどの間に80を超える国・地域に展開。とりわけ欧米諸国では、高いインフレ率を背景にした「ダウングレード消費」の受け皿になり、またたく間に人気を博した。

そんな中、株価の変調は唐突に訪れた。拼多多が8月26日に発表した2024年4〜6月期の決算で、売上高の伸び率が前年同期比85.65%に減速。アナリストの事前予想を下回ったために投資家の落胆を招き、株価が急落したのだ。

それだけではない。4〜6月期の決算説明会では、拼多多の董事長兼共同CEO(会長兼共同最高経営責任者)を務める陳磊氏から予期せぬ弱気の発言が飛び出し、投資家の狼狽売りに拍車をかけた。

「拼多多を取り巻く経営環境は急速に変化しており、(業績変動の幅が大きくなるような)不確実性が増した。わが社が直面する競争は激しくなる一方だ」

陳氏はそう前置きしたうえで、「これまでのような急成長は持続不可能であり、(競争が激化する中で)利益率の低下傾向は避けられない」と述べたのである。


アメリカ政府は中国発の越境ECの急浸透に警戒を隠さない。写真はアメリカの国内産業を支援する法案に署名するバイデン大統領(アメリカ商務省のウェブサイトより)

ここで言う経営環境の変化には、Temuに代表される中国発の越境ECサービスに対して、進出先の複数の国々で風当たりが強まっていることが含まれる。外国政府による保護貿易主義の台頭は、Temuの将来を左右する最大級のリスクと言っても過言ではない。

関税の「抜け穴」利用に批判

「中国企業が海外で製品を販売する場合には、直売よりも(地場の流通業者を介在させる)卸売りのほうが相対的に安全だ。なぜなら、直売方式は現地の人々の雇用を奪うことになりかねないからだ」

ある機関投資家は財新記者の取材に対してそう述べ、Temuのような直売方式の越境ECサービスは保護貿易主義の影響を受けやすいと指摘した。

例えばアメリカ議会の議員たちは、個人宛て小口貨物の関税を免除する特例措置をTemuが「抜け穴」として使い、莫大な関税を回避していると批判している。これを受けて、アメリカのバイデン政権は2024年9月、特例措置を見直すと発表した。


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こうした逆風が強まる中、Temuは今後も成長を維持できるのだろうか。最近の株価の回復を見る限り、市場は短期的には楽観視しているようだ。

「進出先の雇用や利益に配慮し、保護貿易主義の影響を抑えることができれば、さらなる成長を疑う余地はない」。前出の機関投資家はそう述べ、Temuは今後の成長戦略を慎重に進めると予想した。

(財新記者:包雲紅)
※原文の配信は10月11日

(財新 Biz&Tech)