2024年7月の米・共和党全国党大会で、ドナルド・トランプ氏は大統領選指名候補の受諾演説の中で、さんざん聞かされた過去の外交政策の功績を改めて強調した。北朝鮮の指導者、金正恩氏とは「非常にウマが合っていた」からこそ、金氏に弾道ミサイルおよび核兵器実験を止めさせることができたのだ、と前大統領は主張。「核兵器を大量に所有する人間とは仲良くしておいたほうがいい」とも付け加えた。

【画像】金色のAR-15型ライフルを構える文亨進氏

全体的に強気なトーン演説での、弱気な一幕だ。だが同時に、トランプ氏の北朝鮮に対する姿勢がはっきり変化したことも示している。トランプ氏が再選したあかつきには、こうした方向転換は朝鮮半島の平和を大きく左右しかねない――ともすれば、東アジアで核戦争が勃発する可能性もある。

残り時間は少ないかもしれない。有識者の間では、アメリカとの国交正常化に進展がまったくないことに業を煮やした金氏が、ソウルに向けて攻撃の準備を進めているとの意見もある。朝鮮問題の著名な専門家、ロバート・L・カーリン氏とジークフリード・S・ヘッカー氏は今年、「朝鮮半島情勢は1950年代初頭以来、かつてないほど危うくなっている」との記事を寄稿した。北朝鮮は核兵器を用いて奇襲攻撃を仕掛けるだろうというのがカーリン氏とヘッカー氏の意見だ。これについて懐疑的な見方をする専門家もいるが、金氏は今月上旬、韓国およびアメリカに対して核兵器の使用も辞さないと威嚇した。

2017年、大勢の人々が米朝間でこうした核戦争が起こるかもしれないと危惧していた。トランプ政権初期は北朝鮮政府との激しい言葉の応酬が日常茶飯事だった。政府が「最大限の圧力をかける」戦略を取る中、トランプ氏は金氏に「ロケットマン」というニックネームを付け、北朝鮮がミサイル発射を繰り返すなら「世界史に例を見ない炎と怒り」で返礼すると脅しをかけた。同じ年、トランプ氏は軍の最高指揮官として対北朝鮮戦略の見直しを命じた。ボブ・ウッドワード氏がトランプ政権時に出版した著書『RAGE 怒り』によると、北朝鮮指導部の殺害計画や、全面侵攻および政権交代を想定した計画の刷新も見直しの一貫に含まれていたという(米軍はつねにあらゆる状況を想定した戦争計画を準備しているが、当時は別格だった。なにしろ二大核保有国間で危機感が高まる中、平壌に攻撃を仕掛けたがっていた大統領が事態を悪化させたのだから)。

トランプ氏が抱いていた対北朝鮮対策のいくつかは、控えめに言ってもかなり突飛だった。2017年2月から2018年4月までトランプ政権の国家安全保障顧問を務めたH.R.マクマスター氏が最近出版した回顧録によると、前大統領は「北朝鮮の軍事パレードの最中に、朝鮮人民軍をごっそり根絶やしにすればいいじゃないか?」と尋ねたそうだ。また北朝鮮に核兵器を投下し、第三勢力に濡れ衣を着せる案を内輪で検討していたとも言われている。ウッドワード氏の著書『Rage』によると、当時のジム・マティス国防長官は、トランプ氏の北朝鮮政策がきっかけで「数百万人が灰と化す」のではないかと危惧していたという。

だがほどなく、トランプ氏は北朝鮮への姿勢を180度転換した。少なくとも表向きはそうだった。2018年6月、両国の緊張が和らぐ中、トランプ氏と金氏はシンガポールで史上初の米朝首脳会談に臨んだ。後日トランプ氏は金氏から「素晴らしい書簡」をもらい、両氏は互いに「恋に落ちた」と発言した。2019年にトランプ氏はベトナムで金氏と再会し、やはり同年、短時間ながらも北朝鮮の地を踏んで3回目の首脳会談を行った。

そして今、トランプ氏が政権奪回を目指す中、再選したあかつきにどちらの北朝鮮政策が顔を出すかはまだ分からない。「炎と怒り」と核兵器による大量虐殺で平壌を威嚇した好戦的なトランプ氏か、それとも北朝鮮の独裁者と「恋文」をかわした懐柔的なトランプ氏か?

トランプ陣営の全米メディア広報担当者、カロリーネ・レヴィット氏はローリングストーン誌の取材に対し、「トランプ氏が大統領に返り咲きしたあかつきには、かつて世界に平和をもたらした力による平和の政策を復活させるだろう」と述べた。

いずれにせよ、トランプ氏が再選した場合、任期中に見直された米軍の北朝鮮政権交代計画が引き継がれるだろう。だがそうした侵攻の際、CIAも絡んだ最新極秘計画も同様に引き継がれることになるだろう。CIAの対北朝鮮計画の改訂に詳しい元CIA職員および諜報関係者の3人はこう語る。

2017年、当時のマイク・ポンペイオCIA長官はアスペン研究所で行われた講演で、改訂された計画についてほのめかし、政府は北朝鮮の政権交代の道筋も検討中だと言明した。CIAは「必要とされる最終目的のために幅広い選択肢を用意」するだろう、とポンペイオ長官はアスペンで発言した。

2022年に出版された回顧録『Never Give an Inch(原題)』には、北朝鮮に関しては「外交や従来の軍事力では不十分だと大統領が判断した場合に備え、極秘任務能力を揃えておくことが自分の使命だと受け止めた」と書かれている(ポンペイオ氏にコメント取材を申請したが、返答はなかった)。

だが、想定される米朝戦争でCIAが果たす役割についてどんな見直しが行われたのか、トランプ政権の「最大の圧力をかける政策」で強化された極秘任務能力についてCIA内でどんな計画が行われていたかについては、これまで具体的には語られてこなかった。

CIAの準軍事部門「特別行動センター(SAC)」の統括で行われた2017年の計画改訂は幸先の悪いスタートだった。まずCIAは在韓米軍特殊作戦司令部(SOCKOR)の職員に連絡を取った。米朝戦争の勃発に場合に備え、CIA準軍事部門をはじめとする特殊作戦部隊を交えた戦争計画を策定したのがSOCKORだった。

だが元CIA高官によると、いざSOCKORの計画を見直したCIA準軍事部門の面々は「驚愕した」という。何十年もまったくほったらかしだったのだ。SOCKORの立案者はCIA職員に計画のことを口にしたことすらしなかった。

さらに最悪なことに、計画は「どこから見てもバカげていた」と元CIA高官は振り返る。「『それじゃあCIAから3人同行させて一緒に戦車で乗り込むか』という感じでした。ふざけるな、と思いましたね。実際そういうわけにはいきません。誰がこんなの考えたんだ、『ルーニー・トゥーンズ』のワイリー・コヨーテか? というような計画でした」。

SOCKORの上層部に話を聞いても、CIAの不安はまったく払拭されなかった。「将軍の1人に話をしたところ、『とにかくまずは……北朝鮮の山岳民族と合流しよう。山岳民族は平壌市民と仲が悪いからな』と言われました」と、元CIA高官は当時を振り返った。

「なので言ってやりました、マカロニ・ウェスタン映画じゃないんだぞ……北朝鮮の山賊と連携して平壌に乗り込めばいい、なんていう希望的観測に基づいた戦争計画なんか立ててる場合じゃない」と元CIA高官。「まるで無謀な博打ですよ。ラスベガスくんだりに繰り出して、奥さんの金を全額賭けるような真似はしたくないでしょう」。

軍が策定した計画にはまともなものもあったが、大半はまるで「マティーニを飲み過ぎた」末にできあがった代物だった、と元高官は語った。

CIA準軍事部門は、北朝鮮有事に備えた独自の緊急対策計画――元高官が言うところの「極秘中の極秘計画」――についても公開調査とテコ入れを行った。

元高官によると、CIAの計画も長年手つかずのままで埃をかぶっていた。「万が一の際にはガラスの箱を叩き割って書類を開け、そこに作戦が書いてある」というのがCIA本部の姿勢だったと元高官は述懐する。だがこちらの計画も内容的にはずいぶん時代遅れだった――あるいは元高官の言葉を借りれば、単純に「意味不明だった」。

元高官によると、北朝鮮計画の改訂を行った担当者は、これら時代錯誤の緊急事態対策を刷新し、非常時の通信などの諸問題に対応した有効な戦時計画に改編しようとした。

だが一部の人々の目には、改訂されたCIAの北朝鮮計画もやはりバカげて見えた。「朝鮮情勢はおかしくなってましたね」と語る元CIAの契約職員は、当時CIAのSACから出された「奇妙な計画の数々」を振り返った。計画の大半は北朝鮮国内のトンネルや地下施設への侵入に集中していた。そのうちいくつかは、「『たしかに部隊の80%は戦死するだろうが、4人ぐらいは突破できるんじゃないか』みたいな感じでした。ふざけるなって思いますよね」。

地下施設に関する情報は収集が極めて困難なため――衛星画像やドローンでは、という意味だが――「奇妙な」代替案が絶えず持ち上がっていたと元CIA契約職員は言う。例えば訓練した犬を地下に送り込み、侵攻の際に米軍工作員とともに偵察などの作戦を遂行する、などだ。「犬はどのぐらいの重量を運べるのか? 弾薬は運べるか?というような内容でした。犬に(暗視)ゴーグルをつけてはどうかという案もあったと思います。『どうかしてる、老犬の跡をつけて行けと言う気か?』と思いましたよ」。

ローリングストーン誌はCIAに詳細な質問リストを送ったが、CIAはコメントを拒否した。国防省にも質問をなげたが、CIAに問い合わせよと言われた。

CIAの北朝鮮計画は、今まで報じられてこなかった「探索プログラム」という壮大な計画とセットになっていた。CIAのSAC上級職員が統括したこのプログラムはオバマ政権の終盤に発足した。元職員の記憶では、戦闘地域外も含め、CIA全体で最新テクノロジーを駆使した軍事能力の集約方法を模索することが目的のひとつだったという。

だがトランプ政権が最大の圧力をかける政策を推し進めたため、北朝鮮政府に一泡吹かせることが探索プログラム、ひいてはCIA準軍事部門全体の主要目的になった。総合計画という名目だったが、最悪の事態に備えた対北朝鮮計画に力点が置かれていたことは「秀才でなくても分かる」と元CIA契約社員は語った。

元CIA職員によると、探索プログラムの戦争計画には平壌行きの禁制品を運ぶ船を妨害するという攻撃的な案が新たに加えられていた。当時の北朝鮮経済は、石炭や海産物といった主要輸出品に各国から制裁をかけられ、困窮していた。

妨害工作は最高司令官からの命令だった。トランプ氏は「おそらく、北朝鮮に対して昔ながらの手を使うべきだ」と考えていた、と元CIA高官は振り返る。

実際にCIAが北朝鮮船舶にどの程度妨害工作を実行していたのかは定かではない。「万が一に備えて、少なくとも訓練はしておこう」という考えだったと元CIA高官は振り返る(ポンペイオ氏は著書『Never Give an Inch』の中で、CIA長官在任中にシリアや他の国々におけるCIA準軍事部門の『交戦ルール』を改変したと、言葉少ながらも自慢している)。

北朝鮮に最大の圧力をかけるというトランプ政権の全体政策において、妨害工作案はささやかながらも中核を成していた。別の元CIA高官によると、対外的には外交面・財政面でアメリカの力を見せつけ、裏では諜報機関を中心に隠密行動をとる、という案もあったそうだ。

北朝鮮に関しては「あらゆる選択肢が検討されていた」と、その元CIA高官は語った。「中には我々の目にも、『おいおい、これはかなりヤバイぞ』というものもあった」。妨害工作は対北朝鮮対策の「全体の5%」だったが、最大の圧力をかけるという大局の重要なポイントだったと元CIA高官は語った。

「すべては我々の任務(の一部)だった――石炭船を停めるには、いくらでもいろんなやり方が考えられる」と元CIA高官は語ったが、極秘活動計画についてそれ以上詳しく語ることは控えた。

トランプ政権高官の1人は、前政権で北朝鮮船舶の極秘妨害ができなかったことを悔しがっていた。「あらゆる手を検討していました……実行を可能にする様々なテクノロジーも揃っていましたが、実際に決断するには至りませんでした」とその元高官は語った。「トランプ氏は口では大層なことを言っても、いざ引き金を引く段になると、厳しい決断を下すことには非常に消極的でした」。

とはいえ最大の圧力をかける政策は、トランプ氏が公の場で金氏をほめそやすようになっても続いた――2人目のCIA高官の言葉を借りれば、まるで正反対だった。「もっと強化して、大統領の交渉と歩調を合わせるよう指導されました」と元CIA高官は当時を振り返る。「『いいか、我々は悪ガキと交渉するんだ。できる限り圧力をかけて、大統領をできるだけ優位にしてやれ』と」

元高官によると、トランプ政権時にCIAは北朝鮮が密かに輸出していた禁制品(石炭など)や、北朝鮮に密輸されるその他物品(石油やキャビアなどの嗜好品)の特定と差し止めに一役買ったという。また海外で業務を展開する北朝鮮の総合建設企業や漁業会社が制裁に違反した場合には、資産没収にも関わった。「CIAが叩き潰していました」と元CIA高官は語る。

だがトランプ氏お気に入りのCIA活動は、知らず知らずのうちに北朝鮮政府とビジネスをしていたアメリカ企業から、北朝鮮から流出した金を凍結するというものだった。元高官によると、アメリカ企業には後日こっそり金を返していたという。この際、政府職員がすみやかに間に入り、驚いたアメリカ企業に製品のエンドユーザーの正体を明かした。そして北朝鮮に到着する前に政府が押収した製品を企業側に返却した。

アメリカ企業は製品を取り戻すことができた上に、北朝鮮からの支払いもそのままキープできた。「トランプ氏は(この案を)何よりも気に入っていました」と元高官は語った。元高官の推測では、最終的にアメリカ企業のふところには違法取引による北朝鮮の金が数十万単位で転がっていったそうだ。

CIA主導の活動はある程度成功を収めたものの、最終的には厳しい逆風に直面した。元高官の記憶では、CIAの尽力であちこちから北朝鮮の金が大量に巻きあげられた。だが2018年になると、北朝鮮のハッカーが「次々と暗号資産の取引所から金を奪い」始めた――元高官によると、1回で総額数億ドルが強奪されたこともあったという。CIAの極秘作戦は次第に徒労に終わった。

再選したトランプ氏が金正恩に銃を向けるのか、あるいは和平の手を差し伸べるのか。いずれにしても、北朝鮮と折り合いをつけることになるだろう。第1次トランプ政権の終盤以降、北朝鮮もいくつか教訓を得たはずだ。CIAの対北朝鮮戦争計画や妨害工作に変更がなくとも、「最大の圧力政策ver.2.0」は前回と同じというわけにはいくまい。

関連記事:旧統一教会の過激分派「サンクチュアリ教会」指導者が語る、ライフル銃崇拝の理由

from Rolling Stone US