「ミスター・オクトーバー」の異名を取ったジャクソン(左)と大谷 photo by Getty Images

ドジャース・大谷翔平vs.ヤンキース・ジャッジ 後編

10月25日(日本時間26日)から幕を開けるロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースによる今年のワールドシリーズ。両リーグのMVP&本塁打王である大谷翔平とアーロン・ジャッジが求めているのはチャンピオンリングではあるが、ともに初出場となるワールドシリーズでは、どのようなパフォーマンスを見せるのか。大きな注目が集まる。

【歴史に残るミスター・オクトバー】

 MLB史に残る偉大なベーブ・ルースは、データサイト『ファングラフス』のWAR(Wins Above Replacement/容易に獲得可能な代替選手=Replacementに比べてどれだけ勝利数を上積みしたかを統計的に推計した指標)で計算すると9シーズン(1920、21、23、24、26、27、28、30、31年)で全体1位だったが、公式戦だけでなくワールドシリーズでも圧倒的な存在感を示した。ボストン・レッドソックス時代も含めて、ワールドシリーズ41試合で打率.326、15本塁打、33打点、OPS(出塁率+長打率)1.214。特に1928年には、打率.625、3本塁打、3二塁打、OPS2.022と手がつけられない活躍だった。加えて、病気の子どもに本塁打を約束して実際に打ったという逸話や、試合中に予告本塁打を放ったという伝説も生まれ、彼の名声は世界中に広まっている。

 ポストシーズンの10月に活躍することから「ミスター・オクトーバー」と呼ばれたのは、レジー・ジャクソンだ。オークランド・アスレチックスとヤンキースで5度ワールドシリーズに出て、27試合で打率.357、10本塁打、OPS1.212だった。特に1977年のドジャースとのシリーズでは3打席連続本塁打を含む5本塁打で、打率.450、OPS1.792と驚異的だった。1973年、1977年と2度ワールドシリーズMVPに輝いている。近年でいえば、コーリー・シーガーが「ミスター・オクトーバー」の存在に当てはまり、2020年にロサンゼルス・ドジャース、2023年にテキサス・レンジャーズで、ジャクソン以来史上4人目となる2度のワールドシリーズMVPを獲得。計18試合に出て、打率.294、6本塁打、OPS.991だった。

 こういった話題になると、大舞台で強い選手、弱い選手というレッテルを貼られることがよくある。しかし、筆者の考えではこれは不公平であり、判断材料となるサンプルがあまりにも少なすぎる。

 例えば今年の大谷翔平についても、シーズン序盤は得点圏に打てない、勝負弱いと決めつけられていたが、ご存じのように公式戦終盤からポストシーズンにかけ、直近の得点圏打率は.818(22打数18安打)。信じられないほど勝負強いと、評価は正反対になった。

【大谷、ジャッジの対相手投手陣の成績】

 ドジャースでポストシーズに強いと言われるキケ・ヘルナンデスは、9度ポストシーズンに出て81試合で打率.278、15本塁打、OPSは.889。公式戦は通算打率.238、OPSは.713である。ナ・リーグ地区シリーズ第5戦でサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有から先制本塁打をかっ飛ばしたとき、「なぜ、大舞台で強いのか」と聞かれ、本人は成功を視覚化していると説明した。

「走者なし、走者一塁、走者二塁、1・2塁、満塁、いろいろな状況で、自分がダルビッシュのどんな球でも打つ姿を思い描いた。ポストシーズンでは不安や自己疑念が心に忍び寄ってくる。特に夜、寝るとき、そんな気持ちになるのは普通だ。そこで視覚化の力を役立てる。不安が浮かんできたら、成功する自分を何度も視覚化する。そうすると、次の日に球場に行った時、すでにその日を体験したかのように感じるので、何に対しても圧倒されない。どんな瞬間も大きすぎることはなくなる」

 だが、こういった言葉を信じる人は少なくないだろう。しかしながら、筆者はサンプルが増えれば公式戦の数字に近づくだけだと思う。

 それでもその限られたサンプルのなかで、結果を残せるか、残せないかで、全米の評価が決まってしまう。アンフェアーでもそれがポストシーズンの現実だ。公式戦のマラソンから、短距離走に変わり、戦い方も変わるが、そこで自分の実力を見せつけなければならない。

 ちなみに大谷は、対ヤンキース投手陣で見ると、エースのゲリット・コールに20打数4安打(1本塁打)7三振と少し苦手にしているが、左腕カルロス・ロドンには3打数1安打(1本塁打)3四球、クラーク・シュミットには3打数1安打(1本塁打)2四球、クローザーのルーク・ウィーバーには1打数1安打(二塁打)で、特に苦手な投手がいるとは思えない。

 ジャッジの対ドジャース投手陣の成績を見ると、山本由伸に2打数1安打(二塁打)1四球で、ジャック・フラーティとウォーカー・ビューラーとは過去に一度も対戦はない。リリーフ陣とはひと通り当たっていて相性は悪くない。ジャッジも特に苦手な投手がいるとは思えない。ふたりとも心強いのは、それぞれムーキー・ベッツ、フアン・ソトといったチームメートが好調なので、投手は歩かせるわけにもいかず、ストライクゾーンで勝負してもらえることだ。

 メジャー7年目で初のポストシーズンを迎えた大谷は、大舞台でのプレッシャーよりも、そこに出られる喜びをしばしば口にする。

「単純に、ここまでプレーできていること自体が幸運だと思います。10月まで戦えるのはひと握りのチームや選手だけ。結果はどうあれ、こうしてプレーできていることが何よりすばらしい」

 結果に一喜一憂するのでなく、貴重な経験に心から感謝しているのである。