『嘘解きレトリック』©︎フジテレビ

写真拡大

 嘘を聞き分けることができるヒロインと借金まみれの貧乏探偵が謎解きを繰り広げる、月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)。7月期の月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)は1組のカップルから広がって“親子”や“家族”の絆を考えさせられる内容だったが、10月期の本作はガラッと変わって昭和初期を舞台に描かれるミステリーだ。

参考:『ミステリと言う勿れ』“広島編”が映画で描かれた理由 久能整を作り上げた幼少期の経験

 浦部鹿乃子を演じる松本穂香は、本作ではおかっぱ頭に眼鏡をかけ、変な子だと噂され続けた鹿乃子を体現。レトロな雰囲気が似合う彼女が、着物を着て駆け回る。そして鋭い観察眼を持つ探偵・祝左右馬を演じる鈴鹿央士は、次々とドラマに出演している今最も勢いのある俳優の一人。『silent』(フジテレビ系)で共演した目黒蓮からバトンを受け継ぎ、どのような作品を見せてくれるのか放送前から注目が集まっていた。

 本作は、累計発行100万部を超える都戸利津による人気コミックの実写化で、原作があるドラマがフジテレビ系月9枠で放送されるのは、『風間公親-教場0-』(以下『教場0』)以来1年半ぶりだ。『教場0』は初回世帯視聴率12.1%、最終回は10.6%(※1)で終えたが、その後続いたオリジナルドラマの初回世帯視聴率は『真夏のシンデレラ』で6.9%、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』で7.8%、『君が心をくれたから』で7.2%、『366日』で7.2%、『海のはじまり』で8.0%と低迷していたため、既に一定のファンがいる“原作もの”のドラマに期待もあった。そして10月7日に放送された第1話の世帯視聴率は7.1%を記録。決して好発進とは言えないものの、ひどく落ち込んでしまったわけでもない。原作ファンをはじめとした、視聴者の拡散力にも期待できるため、これから口コミで広がっていくことも予想できる。

 “原作もの”ドラマを軸に2020年代を遡ってみると、2022年1月期放送の『ミステリと言う勿れ』は初回世帯視聴率13.6%、最終回は11.2%を記録し、映画化もされて興行収入48億円(※2)とヒット。ここ数年の月9成功例とも言える作品だ。

 そんな『ミステリと言う勿れ』と『嘘解きレトリック』の共通点は、原作が“コミック”というだけではない。『ミステリと言う勿れ』で菅田将暉演じる久能整は、『嘘解きレトリック』の左右馬と同様に、普段から人の表情や仕草を細かく記憶しており、それが事件解決の鍵となる。また、何でも思ったことを言ってしまう整と世渡り上手な一面がある左右馬は性格は全く違うが、どこか愛らしいキャラクター像という点で共通している。視聴者がキャラクターに愛着を持ち、「この人たちの日常をもう一度見たい」という思いが、シリーズ化の実現にも繋がるはずだ。既に愛らしさを見せている左右馬や鹿乃子ではあるが、これからどのように視聴者の心に入り込んでいくのか注目したい。

 一方で『嘘解きレトリック』には、話している相手の嘘を視聴者もリアルタイムで読み取れるため、伏線回収のような驚きが少ないところや、ファンタジー的な能力や昭和初期という設定が想像しにくいという点もある。しかし裏を返せば、登場人物の心の機微に触れることができる斬新な設定であり、連続テレビ小説や大河ドラマのように過去の時代を追体験できることがこの作品独自の魅力と言える。

 男女2人の凸凹コンビが織りなすユニークな掛け合いが楽しい『嘘解きレトリック』。原作があるからこそ解決すべき謎も豊富で、『ミステリと言う勿れ』のような映画化も視野に入れやすい。さらには『イチケイのカラス』(フジテレビ系)、『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)などのような人気シリーズになるのか、今後の展開を期待したい。

参照※1.ビデオリサーチ、週間視聴率ランキング:https://www.videor.co.jp/tvrating/※2.一般社団法人映画製作者連盟, 2023年度(令和5年)興収10億円以上番組: https://www.eiren.org/toukei/(文=伊藤万弥乃)