石破茂首相は「米騒動の救世主」となるか?公約で「コメ改革」を掲げたが…今後も起こり続ける”米不足”その「最大の原因」

写真拡大 (全4枚)

この夏、「令和の米騒動」とも呼ばれた空前の米不足が注目を集めた。スーパーの棚から次々と米袋が姿を消したことは各メディアで報じられた通りだ。すでに新米が出回る季節となり、米不足は解消に向かっている。

だが、この夏に我々が経験した“米騒動”は今後も繰り返し起きるかもしれない。

前編記事『「令和の米騒動」の原因は猛暑やインバウンドだけじゃない!深刻な米不足が今後も起き続ける「本当の理由」』に引き続き、その背景を探っていく。

事実上「減反政策」は続いている

政府が米の生産量をコントロールする減反政策は、一応「廃止」されたことになっている。だが、すでに述べたように米の消費量が右肩下がりの日本において、政府の介入が完全になくなると米価は下がり、主食である米を生産する農家が減ってしまう。

そのため、今でも農業の現場では減反政策の名残がある。その代表格と言えるのが「水田活用の直接支払交付金」(通称:水活)だ。これは、水田で麦や大豆などを作付けした場合に、その面積に応じて交付金を支払う制度で、かつての「転作奨励金」とほぼ同様のものとなっている。つまり、現在も政府は米価を維持するべく米の生産を抑えようとしているのだ。

そして、このことが今夏に起きた米不足の一因にもなっている。米が不足しないギリギリのラインで生産を調整した結果、わずかな需給バランスの乱れによって、たちまち米が不足してしまうようになった。

“米騒動”を起こさないための政策案

誤解なきよう断っておくが、筆者は政府の政策趣旨を批判したいわけではない。食料安全保障上、米価を一定レベルで維持することは必要であり、そのための手段として生産調整という方法に合理性があることも理解している。だが、ギリギリの需給調整には、今夏のような思わぬアクシデントを招くおそれがあることも事実だ。

では、現在の米政策に代わる案はないのか。実は、一部農家などからは「米価のコントロールをなくして農家が自由に競争すればいい」という声も上がっている。

その理屈はこうだ。政府のコントロールがなくなると米価は下がる。そうすると経営が厳しくなった農家は農業を諦めることになるが、代わりに「強い農家」が田をどんどん吸収し、大規模化する。その結果、生産効率が向上し、米価が下がっても問題なくなる。「自由競争でも米の安定供給は可能」という理屈を簡単に整理するとこうなる。

なるほど、この説には一理あるように思える。だが、「規模が大きくなるほど効率化が進み、安い米価にも耐えられる」という論理にはやや注意が必要だ。

作付面積の規模ごとに米の生産コスト(10a当たり)を調べた農林水産省の統計がある。これによると、たしかに30ヘクタールまでは規模が大きくなるにつれて生産コストは低くなる。しかし、30ヘクタールを超えると逆に生産コストは増加に転じることが分かっている。そのため、先の論理が必ずしも成り立つかどうかは不透明と言える。

さて、ここでもうひとつ米政策の代案をご紹介したい。注目すべきことに、その提唱者は他でもない現職の内閣総理大臣、石破茂なのだ。

15年前に浮上した「幻の石破案」

防衛畑のイメージが強い石破首相だが、農業政策にも明るく、かつて麻生政権下では農林水産大臣(2008〜2009年)を務めたこともある。実はその農水相在任時代、石破は米政策の大転換を計画したことがあった。

石破は税金を投じて米価を維持する方針に否定的で、農水相在任時に省内でプロジェクトチームを編成し、生産調整政策は緩和すべきと結論づけたことがある。もっとも、この改革案は自民党内からの反対で頓挫し、その後も生産調整は続けられた。

しかし、石破はその後も米価維持に否定的なスタンスを貫いた。先の総裁選でも、米生産への政府のコントロールを緩めることを主張。米価が下がった結果、農家の所得も下がった場合には農家へ直接補助金を支払うべきと公約を掲げた。つまり、農家には好きなように米を作らせ、所得があまりにも下がった場合には政府が農家を支援するという仕組みだ。

15年前は改革に挫折した石破も、今や首相の座にある。そして、深刻な米不足を経験した今こそ、同様の事態を繰り返さない政策が求められている。早くも「前言撤回」の数々が批判されている石破だが、米政策についてはどうか。その行く末が注目される。

・・・・・・

【もっと読む】「魚が獲れないのは世界で日本だけ」”子どもの魚”まで食べ尽くす日本人…スーパーの刺身や回転寿司が消えゆく「最大の理由」

「魚が獲れないのは世界で日本だけ」”子どもの魚”まで食べ尽くす日本人…スーパーの刺身や回転寿司が消えゆく「最大の理由」