今季で退任する中日の立浪和義監督

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 10月に入り来シーズンに向けての話題も多くなってきたプロ野球。中でも大きな話題となっているのは、やはり中日・立浪和義監督の退任だろう。現役時代は“ミスタードラゴンズ”として長年活躍し、低迷するチーム復活の切り札として期待は大きかったが、3年間で一度も優勝争いに絡むことができず、今季限りでユニフォームを脱ぐことになった。【西尾典文/野球ライター】

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現役ドラフトの“最高の成功例”

 現場での采配だけでなく、トレードやドラフトなど編成に関しても積極的にかかわりながらも結果が出なかったことに対して批判の声が多かった。果たして3年間でチームはどう変わったのだろうか。

今季で退任する中日の立浪和義監督

 立浪監督就任後にトレードと現役ドラフトで加入した選手と、逆に他球団へ移籍した選手の今シーズンの成績を文末にまとめている(成績は10月2日終了時点)。

 これを見ると何よりも大きなプラスは、現役ドラフトで加入した細川だ。昨年24本塁打を放ってブレイクすると、今年も最多安打のタイトルを争うなどチームの主砲へと成長している。現役ドラフトで移籍した選手として“最高の成功例”と言える。

 ただ、斎藤が左のリリーフで大きな戦力となったものの、それ以外の選手は、そこまで目立った成績を残していない。逆に他球団に移籍した選手が大ブレイクしているわけではないが、ともに山本と郡司は大きく成績を伸ばして、移籍先である日本ハムの躍進に貢献している。それを考えても、トレードに関しては成功とは言い難い。

コミュニケーションの問題

 続いて、既存戦力の底上げはどうだったのだろうか。投手は高橋宏斗や清水達也、松山晋也、野手は岡林勇希や村松開人、福永裕基、カリステが主力へと成長。特に高橋と岡林はリーグを代表する存在となった。それを考えると、戦力発掘という点で残した実績は少なくない。

 一方で、立浪監督就任後に大きく成績を落としている選手が多い。成績を落とした主な選手を文末にまとめている(成績は10月3日終了時点)。

 年齢的に仕方ない部分はあるものの、柳裕也や福谷浩司、ビシエド、高橋周平、木下拓哉らは衰えるにしてはまだまだ早い印象で、彼らの力を十分に生かしきれなかったことは、大きなマイナスだった。

 では、元々主力として活躍していた選手を生かしきれなかった理由はどこにあるのだろうか。その背景としてコミュニケーションの問題が大きかったのではないかという。

「立浪監督が就任した時はチーム内でももちろん期待も大きかったです。ただ、現役時代から気軽に話しかけられない雰囲気があったというのが、当時の選手たちからもよく言われており、監督になってよりその印象が強くなった部分があったのではないでしょうか。どうしても立浪監督から一方的に選手に伝えることが多く、なかなか双方向のコミュニケーションにはならなかったようです。監督が言ったことができていないと、その選手は使えないという判断に繋がったこともあると聞きます。立浪監督としても焦る気持ちがあったのかもしれませんが、実績のある選手からすると、このやり方がマイナスに働くことも多かったと思いますね」(球団関係者)

 トレードで移籍することになった京田に対して「お前、変わらんかったな」と話したというのはすっかり有名になっている。また『令和の米騒動』として話題になった件も、あくまで試合前の軽食において白米の提供を止めただけで、試合後には提供していたと語っているが、それに対して詳しい説明はなく、選手からすると唐突に感じたのではないだろうか。

13年間で5人 ハイペースで監督交代が続くドラゴンズ

 二軍降格を通達された主力選手が「喜んで二軍に行きます」と関係者に漏らしていたという話もある。「いちいち言わなくても分かるだろう」という典型的な古い考え方に、選手が不信感を募らせていった。

 もちろん低迷の理由が全て立浪監督にあるというわけではない。特に、コミュニケーションについては、他の首脳陣やフロントにも問題があったようだ。

「立浪監督に対して意見できないというのは選手だけでなく、コーチやフロントも同様だったと思います。特に編成の面でも立浪監督の意見が通るようになり、ドラフトでの指名もトレードも監督主導のものが多かったと聞きます。以前であれば、スカウト部長を務めていた中田宗男さんがはっきりとスカウト部の意見を伝えて、時には衝突することもありましたが、今はそういう人もいません。知名度と人気のある立浪監督をせっかく連れてきたのだから、監督に全て任せておいた方が無難だろうという雰囲気は少なからずあったのではいでしょうか」(前出の球団関係者)

 知名度と人気という言葉が出たが、今年の前半戦の入場者数を見ると、前年比で11.1%増とセ・リーグ6球団で最も観客動員は増えている。球団幹部からも「立浪監督の人気は凄い」との声も出ていたという。ただ、「強いけど人気がない」と言われた落合博満監督時代と比べると、決して大幅に増えているわけではなく、監督の知名度と人気だけでは超えられない壁があることは確かだ。

 後任は井上一樹二軍監督が有力視されており、二軍で結果を残した彼の手腕に対する期待は大きい。ただ、黄金時代を築いた落合監督以降、13年間で5人の監督が就任しながら、成績が上向いてこない点を考えても、監督を変えれば、全てが解決するというわけではない。この3年間の取り組みを改めて振り返って課題を洗い出して、それをどう潰していくのか。球団全体で改善していかなければ、「強い中日の復活」は難しいだろう。

データで見る 立浪監督政権下での選手成績

<立浪監督政権下でトレード、現役ドラフトで加入した選手>
涌井秀章:16試合3勝5敗0セーブ0ホールド 防御率3.07
斎藤綱紀:54試合4勝3敗0セーブ19ホールド 防御率2.18
梅野雄吾:18試合1勝0敗0セーブ2ホールド 防御率4.15
砂田毅樹:一軍登板なし(今年限りで引退)
宇佐見真吾:59試合45安打3本塁打17打点0盗塁 打率.310
加藤匠馬:85試合21安打0本塁打5打点0盗塁 打率.171
細川成也:140試合152安打22本塁打66打点0盗塁 打率.291
後藤駿太:27試合4安打0本塁打1打点0盗塁 打率.133
川越誠司:24試合18安打2本塁打6打点0盗塁 打率.273

<立浪監督政権下でトレード、現役ドラフトで他球団へ移籍した選手>
笠原祥太郎(DeNA):昨年限りで退団
山本拓実(日本ハム):35試合6勝0敗0セーブ3ホールド 防御率1.82
鈴木博志(オリックス):32試合1勝1敗0セーブ9ホールド 防御率2.97
阿部寿樹(楽天):75試合52安打9本塁打32打点0盗塁 打率.231
京田陽太(DeNA):98試合51安打1本塁打25打点3盗塁 打率.242
郡司裕也(日本ハム):125試合113安打12本塁打49打点2盗塁 打率.259
石岡諒太(オリックス):昨年限りで引退
高松渡(西武):35試合0安打0本塁打0打点8盗塁 打率.000

<立浪監督政権下で他球団に流出した外国人選手>
アリエル・マルティネス(日本ハム):124試合92安打13本塁打57打点2盗塁 打率.236

<立浪監督就任後に大きく成績を落とした選手>
大野雄大:9試合2勝6敗0セーブ0ホールド 防御率4.87
柳裕也:13試合4勝5敗0セーブ0ホールド 防御率3.76
福谷浩司:7試合3勝1敗0セーブ1ホールド 防御率4.00
祖父江大輔:27試合0勝0敗0セーブ3ホールド 防御率2.89
木下拓哉:73試合41安打3本塁打9打点0盗塁 打率.232
ビシエド:15試合9安打1本塁打2打点0盗塁 打率.209
高橋周平:60試合45安打2本塁打16打点0盗塁 打率.260
大島洋平:75試合23安打0本塁打5打点1盗塁 打率.198

※成績は10月3日終了時点

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部