副理事長の恫喝で「保護者が過呼吸」に…Netflix『恋愛バトルロワイヤル』でも描かれた、閉鎖的な学校のヤバさ

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昨今、理不尽な校則が社会問題化したことで、文部科学省が教員向けの生徒指導マニュアルである「生徒指導提要」を改訂したり、「こども大綱」が施行されたりと、校則見直しの動きは全国各地で進んできた。しかし、信じがたい校則や生徒指導は今もなお複数の学校で残っている。

本記事では、【前編】に引き続き、『恋愛バトルロワイアル』のモデルになったと思われる校則裁判や、生徒によって人権救済申し立てが起こされた学校の実態など、令和の世に蔓延る理不尽校則の現状について、複数の事例をもとに考えていきたい。

「校則見直し会議」で生徒を恫喝した副理事長

現場のタコツボ的な感覚が生徒の権利をいたずらに妨げた事例は、S高校だけに留まらない。東京にある学校法人M学園は、自閉症児と健常児が同じ空間で学ぶ混合教育(インクルーシブ教育)を理念として、独自の取り組みで人気を博してきた。

ところが、今年1月、M学園高専で行われた「校則見直し会議」の場で、副理事長(現:理事長)に意見を述べた生徒が「俺は恥をかかされている!」などと恫喝されるという出来事が起きた。

そもそも「校則見直し会議」は、こども基本法の施行に伴い、生徒へのヒアリングを目的として実施されたものだった。にもかかわらず、その生徒は後日保護者とともに呼び出され、副理事長への「謝罪文」の提出を要求された。現在、生徒は副理事長を強要罪で刑事告訴している。

副理事長はその他、保護者会で威圧するような言動をとり、保護者の一人が過呼吸を起こして救急搬送されるという事態を招いたり、混合教育に関する学園独自の様々な取り組みの廃止を断行したりと、多くのトラブルを引き起こした。

これに反発した同校の保護者は「M学園を守る会」を結成、副理事長や学校側に対して声をあげ、生徒・保護者と学校とのあいだの対立は今もなお激しさを増している。保護者の一人は、「創設者の理念を無視した副理事長の言動は許せない」と怒りを露わにした。一方、学園側は、「事実と異なる」と主張している。

なぜ理不尽な校則はなくならないのか

なぜ未だにこのような事態が起きてしまうのだろう。筆者は、校則問題や学校自由化を取り扱うNPO法人の代表として、複数の当事者や専門家から話を聞いてきた。そこから考えられる理由として、一つは私立学校の治外法権性が挙げられる。教育委員会の管轄下にあり、比較的校則見直しの影響を受けやすい公立学校とは異なり、私立学校は私立学校法によって自主性が保障され、独自の教育を行うことが認められている。

こうした環境を最大限に生かし、最先端な教育を実践している学校が多くある一方、前述したような問題のある教育・指導が行われていても、多くの場合、行政は手出しできないという状況も作り出している。こうした事情から、M学園のような人物が管理職に就いた場合、生徒や保護者にとれる解決策は今のところ存在しないのだ。

また、近隣住民や保護者、行政がありとあらゆることを学校に押し付けた結果、学校現場が疲弊しているという実態も理由の一つだ。教員の多忙化により、生徒個人の声に向き合いながら、対話を重ねて校則を見直すという余裕もない現状がある。これは公立・私立両方に言える話だ。教育社会学者で名古屋大学大学院の内田良教授は、これを「学校依存社会」と呼んでいる。

校則問題の矛先は、しばしば学校だけに向きがちだ。もちろん、問題の状況はケースバイケースで、実際、多くの責任が学校にあるケースも多い。しかし、そう問題は単純ではない。この社会に生きる私たち一人一人の意識が変わらない限り、この国の校則問題は解決しないということを筆者は訴え続けていきたい。

「性交渉をしたら退学」「校則のない学校のはずが…」学校で横行する理不尽の数々