恐怖の姿をした飛べない鳥、160kgの巨大ペンギン…「大量絶滅事件を乗り越えた鳥類」驚愕の姿

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新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。

マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。

そこで、好評のシリーズ『生命の大進化40億年史』の「新生代編」より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。今回は、新生代初期の背景と、

恐竜類の一グループとして登場、繁栄し、白亜紀末の大量絶滅事件で大打撃を受けたものの、この事件を乗り越えることに成功した鳥類について取り上げます。

動物園でも人気のペンギンですが、登場したこの頃は、どのような鳥だったのでしょうか? 現在に繋がる生命の姿を見てみましょう。

*本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。

今から約6600万年前の白亜紀末、メキシコのユカタン半島の先端付近に、直径約10キロメートルの巨大隕石が落ちた。この隕石をトリガーとして、「衝突の冬」と呼ばれる大規模な寒冷化が発生し、多くの生物が滅んでいった。

陸では、恐竜類が大打撃を受けた。1億6000万年以上の長期にわたって地上に君臨し、空前の大帝国を築き上げていた恐竜類は、その構成員の一つである鳥類をのぞいて姿を消した。海では、クビナガリュウ類やモササウルス類、アンモナイト類など、恐竜時代を華やかに彩った動物たちが滅んだ。私たちの祖先やその仲間である哺乳類は生き延びることができたけれども、やはり大きなダメージを受けた。

2021年、ノースウェスタン大学(アメリカ)のクリストファー・R・スコテーゼたちは、過去5億4000万年間の地球の気温変化をまとめた論文を発表した。スコテーゼたちのこの論文によると、約6600万年前に発生した「衝突の冬」は、地球の平均気温を約6℃下げたという。

約6600万年前の大量絶滅事件で幕を閉じることになったのは、約2億5200万年前から連綿と続いてきた「中生代」という時代だ。衝突の冬による寒冷化は、中生代の間に動物たちが経験したことのない「平均気温約15℃」という世界を地球に現出したのである。ちなみに、蛇足かもしれないが、現在の地球の平均気温が約15℃である。中生代がいかに温暖だったのかがよくわかる。

ただし、この「衝突の冬」は、長くは続かなかった。正確な期間は議論が続いているものの、ほどなく平均気温は約24℃にまで回復する。その後、約1000万年間にわたって、平均気温は約24℃から約21℃の間を変動する温暖な時代となる。

約6600万年前に始まった新時代を「新生代」という。新生代は、約2303万年前と約

258万年前を境として、古い方から「古第三紀」「新第三紀」「第四紀」の三つの時代に分けられている。

中生代までとは異なり、「第○紀」と露骨に数字が入っているという“直接的な名称”が新生代の地質時代名の特徴だ。これはかつて、概おおむね古生代よりも前を「第一紀」、古生代と中生代を「第二紀」と呼んでいたころの名残である。

ちなみに、英語では第四紀こそ「Quaternary」という「4番目」を意味する単語が使われているものの、古第三紀と新第三紀を示す英語はそれぞれ「Paleogene」と「Neogene」であり、「3」にまつわる単語は使われていない。

また、中生代から始まった諸大陸の分裂は、暁新世になっても続いている。

このとき、北アメリカ大陸とユーラシア大陸、アフリカ大陸はそれぞれ完全に独立した存在となっていた。世界地図が“世界地図らしく”なるまで、もう少しだ。

飛べない鳥たちの台頭

白亜紀末の大量絶滅事件は生態系に大きな打撃を与え、多くのグループが姿を消した。しかし、すべてが消えたわけではない。いくつかのグループは大量絶滅事件を乗り越えることに成功した。

鳥類は、恐竜類の一グループとして登場し、中生代においては恐竜類の一グループとして繁栄した。そして、白亜紀末の大量絶滅事件で大打撃を受けたものの、恐竜類としては唯一、この事件を乗り越えることに成功している。

大量絶滅事件を乗り越えた鳥類は、「新世界」にいち早く適応を遂げる。かつて翼竜類と争った空は鳥類の独壇場となり、地上や水中にも、鳥類の「本格的な進撃」が開始された。

地上適応を果たした鳥類として、ヨーロッパや北アメリカ、アジアと、広い版図を確立した「ガストルニス類」を挙げることができる。「ガストルニス(Gastornis)」がその代表だ。

ガストルニスは、いわゆる「飛べない鳥」である。翼はもっているものの、その翼は飛ぶには小さすぎる。体高(身長)は2メートルに達し、頭部は大きく、クチバシは頑強に発達している。

首は長く、後肢も長く、そして、太く、がっしりとしている。全体として恐怖さえ感じさせる、そんな姿の鳥類だ。なお、かつて、「ディアトリマ(Diatryma)」と呼ばれていた鳥類は、研究の進展によってガストルニスと統合されている。

恐怖さえ感じさせるガストルニスだけれども、実は、こんな姿でも捕食者ではなかったようだ。

クロード・ベルナー・リヨン第1大学(フランス)のD・アングストたちは、ガストルニスの骨の化学成分を分析した結果を2014年に発表している。この分析によると、ガストルニスの骨は、植物食性の哺乳類と似ていたという。つまり、植物を食べてからだをつくっていた可能性が高いのだ。

そして、地上だけではない。

海洋生態系をかけ登った「初期のペンギン類」

クビナガリュウ類やモササウルス類が滅んだ海にも、鳥類はいち早く進出した。ペンギン類の登場である。

最初期のペンギン類として、「ワイマヌ(Waimanu)」がいる。体高90センチメートルほどのこのペンギン類は、白亜紀末の大量絶滅事件から、わずか400万〜500万年後に出現した。

もっとも、ニュージーランドの地層から発見されたその化石を見ると、ワイマヌの姿は、現生のペンギン類とはいささか異なる。すなわち、現生のペンギン類と比較してクチバシや首が細長く、翼(フリッパー)も細い。どちらかといえば、ウ(鵜)のような姿をしていた。

その後、ペンギン類はいっきに海洋生態系をかけ登る。その象徴ともいえる存在が、2023年にブルース博物館(アメリカ)のダニエル・T・セプカたちが報告した「クミマヌ・フォルダイセイ(Kumimanu fordycei)」だ。

クミマヌの名前(属名)をもつ種は他にも報告されており、総じてそうした種はからだが大きい。フォルダイセイはそうした同属たちの中でもとくに大型で、セプカたちによる部分化石からの推測によると、その体重は約160キログラムに達したという。

これは、現生ペンギン類の中で最大といわれるコウテイペンギン(Aptenodytes forsteri)の4倍超に相当する重さだ。体高でみても、コウテイペンギンの1.7倍近いサイズがあったと推測されている。

クミマヌ・フォルダイセイの登場は、ワイマヌの登場から300万〜500万年後の話である。

わずか300万〜500万年だ。

この短い時間に、ペンギン類は大型種が登場するに至った。白亜紀末の大量絶滅事件が、彼らにとってどれほどの奇貨だったのか、推し量れるというものである。

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さて、大量絶滅事件を乗り越えることに成功した生物種には、爬虫類もいます。回を改めて、その中の代表的な生物を取り上げてみましょう。

カラー図説 生命の大進化40億年史 シリーズ

全3巻で40億年の生命史が全部読める、好評シリーズの新生代編。哺乳類の多様化と進化を中心に、さまざまな種を取り上げながら、豊富な化石写真と復元画とともに解説していきます。

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