「石破ショック」株価下落の原因は金融資産所得課税への拒否反応、それと成長戦略不在…地方創生の位置づけは見直せ

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石破内閣の経済政策に対して、株式市場は拒否反応を示している。それは、表面的には、課税の強化、とくに資産所得課税強化への反対だ。ただ、根本的には、経済の持続的な発展を実現するための強力な成長戦略が石破政策に欠如していることへの批判だと思われる。したがって、路線変更でもなく、初志貫徹でもなく、第3の道を切り開くことが必要だ。

市場は石破政策にNO

石破茂自民党新総裁が就任して最初の取引である9月30日の東京市場で、日経平均株価は今年になって3番目の下落を記録した。総裁選後の初日の下落率としては、1990年以降で最大となった。

しかし、市場では、下落は一時的なものだという見方が多い。実際、今回の値下がりは、高市氏優勢の情報で9月26日、27日に、株価が傾向より上がったのが元に戻ったに過ぎないと見ることもできる。

ただし、そうではあっても、マーケットが石橋氏の経済政策にNoをつきつけているのは間違いない。石破内閣としては、決して無視することのできない反応だ。

石破内閣はこれから具体的な経済政策を提示していくことになるが、何かのきっかけで株式市場がさらに不安定になることは十分にあり得る。

石破内閣は、総裁選の過程で主張してきた様々な経済改革案を、当初の考え通りに貫くのか、それとも方向転換をするのか?重大な岐路に立たされている。

金融正常化への反対というより課税強化への反対

では、マーケットは、石破政策のどこに反対しているのか?

第一に考えられるのは、金融緩和政策からの脱却だ。

前述のように、予備選挙で高市氏が優勢に立つと、株価が上昇し、為替レートが円安に進んだ。これを見ると、市場は明らかに、金融緩和政策の継続を望んでいる。

ただ、金融政策については、すでに正常化の方向が決められている。また、今後の為替レートの動きは、日本の金融政策というより、アメリカの金利引き下げがどのようなテンポでどこまで行われるかに依存している。

だから、冒頭で述べた株価下落は、石破経済政策のそれ以外の側面に起因していると考えられる。

マーケットの反対は、石破氏が増税の可能性について言及している点に向けられていると考えられる。とりわけ、金融資産所得に対する課税の強化だ。

この問題に関するこれまでの経緯は、岸田内閣の発足の時とほとんど同じだ。岸田氏は、総裁選の過程で金融資産所得課税の強化を掲げていたが、株価が下落するショックに襲われ、早々に提案を取り上げた。

その結果、政策の基本理念の喪失という深刻な事態に陥った。岸田経済政策の最大の問題は、「一体、どちらを向いているのか分からない」ということだったのである。

第三の道を選ぶ

石破内閣の選択肢としては、まず、岸田内閣と同じように、改革路線から撤退することが考えられる。第二は、それと正反対に、改革路線を重点政策として、総選挙でもそれを強調する方向だ。

しかし、第三の道を切り開いていくという方法もあり得る。

金融の正常化は、重要な課題である。しかし、それだけで、日本経済が長期成長の路線に乗れるわけではない。

それに加えて、法人税増税、金融資産所得課税強化と言うのでは、どうしてもネガティブなイメージになってしまう。日本経済が新しい方向に向かって生産性を高め、成長率が高まるとは思えない。

だから、マーケットが株価下落というネガティブなサインを出しているのは、自然と言えば自然なことだ。

重要なのは、長期成長を実現する構造的な改革だ。

これは、アベノミクスが「第三の矢」と言いながら、具体的には何も手をつけなかった分野である。岸田内閣は、「新しい資本主義」というスローガンを打ち出したものの、それを実現する具体的な手立てを提示するまではいかなかった。

そこで、石破内閣がこれに関する具体的な提案を出すことが考えられる。

この方向は、アベノミクスや金融緩和からの脱却、金融資産所得の課税強化となんら矛盾するものではない。これらと組み合わせることによって、長期的成長を可能にするものだ。 従来の路線からの転換や経済改革それ自体に、マーケットが反対することはないはずだ。そのような改革が従来の古い経済体制を打ちこわし、新しい成長を可能にするのであれば、大きな変革であっても評価は高くなるはずだ。

石破内閣の経済政策にマイナス点がつくのは、従来の制度を変えることが強調される反面で、新しい発展に向けた力強い方向が示されていないからだ。

石破氏が従来から主張してきた地方創生は、成長戦略と言うよりは、分配平等戦略の色彩が強い。少なくとも、これだけで経済政策成長が実現できるわけではない。

石破内閣の経済政策に成長戦略が欠けていることは間違いない。だから多くの人は、これから経済成長が減速し不況になると考えるのだ。

アベノミクスにも成長戦略はなかった

実は、成長戦略がないのは、石破内閣だけのことではない。アベノミクスにおいても、本当の意味での成長戦略はなかったのである。

アベノミクスは、円安とばらまき財政政策によって、見かけ上の活況を起こしただけであって、生産性を高めるための成長戦略はなかった。

むしろ、企業は、円安と低金利の環境に安住し、生産性は下がったと考えることができる。こうした状態は、菅内閣においても、岸田内閣においても、基本的には同じだった。

実際、そのために、日本経済が衰弱し、実質賃金が長期にわたって低下を続けた。そして、世界経済における日本の地位が顕著に低下したのだ。

だから、仮に石破内閣が、金融正常化、課税の適正化とともに、強力な成長戦略を示すことができれば、それは画期的なことなのである。

AI活用経済の構築

では、具体的にどのような方向が考えられるか?

AIの活用を前面に押し出し、それを経済構造の改革と結びつける。そして、そのための人材の育成に注力するという方向が考えられる。

つまり、これまでのデジタル化政策に加えて、AIの活用を重視する方向だ。

AIの活用については、これまでも、様々な提案がなされてきた。しかし、政府レベルの具体的で総合的な計画は遅れていた。

AIの中でも生成AIと呼ばれるモデルは、ここ数年間の発展が顕著だ。この技術は、菅内閣の時も、岸田内閣発足のときも、ましてや、安倍内閣の時にも、利用可能ではなかった。

AIを適切に活用していくことができれば、日本の経済再生のための強力な原動力とすることができる。ただし、AIの利用には様々な危険も伴う。こうした問題を制御するのも重要な課題だ。

もう一つの問題は、人材である。もともと日本にはデジタル人材が乏しいが、とくにAIについてはそれが著しい。したがって、本格的なAI戦略を展開するためには、大学などの教育・研究機関を大きく変革し、高度のAI人材を大量に養成する必要がある。

なお、石破氏がかねてから唱えていた地方創生は、このビジョンの一部分として位置づけることが可能だろう。

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