このままだと「ドイツは全体主義」に向かってしまう…いま現地で起きている「経済と民主主義」の危機

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ショルツ政権に落第点をつけた証拠

前々回はこのコラムで、9月1日に行われた旧東独地域の2州、チューリンゲン州とザクセン州での州議会選挙の結果を記した。

AfD(ドイツのための選択肢)が、チューリンゲン州では大差で第1党、ザクセン州では1.3%ポイントという僅差で第2党となった。この結果を主要メディアは、“極右で、反民主主義で、排他主義の危険政党AfDが急伸”と、あたかもドイツが独裁国家になりかけているかのように報じた。

一方、ボロ負けしたのが、社民党、緑の党、自民党。この3党が、中央政権で政党を担っている3党であることは言うまでもない。緑の党はザクセン州ではかろうじて泡沫政党として残ったが、チューリンゲンでは議席を失った。それどころか自民党は、どちらの議会からも脱落した。

つまり、この結果は、どう見ても、チューリンゲン州とザクセン州の有権者が(おそらく全国民の意見を代表して)、この3年間のショルツ政権に落第点をつけた証拠だった。というのも、ドイツでは現在、倒産、リストラ、企業の国外移転という嵐が吹き荒れ、まさに坂を転げ落ちるような速度で不況に陥っている。

もちろん、これらの全てがショルツ政権(社民党)のせいではないにしろ、何もしないショルツ首相と、経済音痴のハーベック経済相(緑の党)の責任は大きいはずだ。

ところが、張本人の社民党と緑の党は反省の色がなく、「旧東独の国民は40年近くもSED(ドイツ社会主義統一党)の独裁政権下で暮らしていたため、未だに民主主義が身についていない。我々の政策をもっと丁寧に説明する必要がある」などと言っていた。

民衆の力で独裁政権を倒した人々に、民主主義は何かということを教えようというわけだ。旧西独の政治家が東を上から目線で眺めている様子は、統一後、34年が過ぎようという今も、それほど変わっていない(10月3日は統一記念日)。

超党派グループの目標は…

ただ、2週間遅れで9月22日に州議会選挙を控えていたブランデンブルク州では、どの候補者も、そんな悠長なことは言っていられなかった。同州では元々、社民党が強く、統一以来34年間、第一党として政権を仕切っている。とりわけ、この10年間州首相を務めたヴォイトケ氏の人気が高かった(州議会選挙は5年ごと)。

つまり、全国的に人気が失墜している社民党における数少ない成功例の一つが、ヴォイトケ氏率いるブランデンブルク州だったのだが、もちろん、現在、ここでもAfDの追い上げは強烈だ。そこで、選挙戦の最終盤には、社民党はもちろん、CDU(キリスト教民主同盟)や、その他の党でも危機感が広がり、「AfDを勝たせてはならない!」という空気が超党派で強まった。

そんな中、奇妙なことが起こった。州外のCDUの大物政治家がブランデンブルク州の有権者に向かって、社民党に投票するようアピールしたのだ。必死で戦っていたCDUの候補者らにしてみれば、背後から味方の弾が飛んできたに等しい。

これにより選挙は、AfDvs.社民党・CDU連合となり、肝心の政策論争は忘れ去られた。超党派グループの目標はただ一つ、「いかにしてAfDを抑えるか?」である。

それどころか、人気ゼロのショルツ首相に足を引っ張られては適わないと思ったブランデンブルクの社民党は、首相の応援演説など一切辞退し(ショルツ首相の選挙区は、ブランデンブルクの州都、ポツダム!)、ひたすら「ヴォイトケ」の名前を看板にして戦った。

あっさり捨て置かれた国民

つまり最重要事項は、国民を苦しめている経済問題でも、エネルギー問題でも、移民・難民問題でもなく、AfDの撲滅となった。国民はあっさり捨て置かれたのである。

そして、実際問題としてこのアピールは効いたらしく、結果は下記。

(SPD=社民党、AfD=ドイツのための選択肢、CDU=キリスト教民主同盟、Grüne=緑の党、Linke=左派党、BSW=サラ・ヴァーゲンクネヒト同盟、Andere=その他)

計画通りCDUの得票が減り、社民党が生き延びた。しかし、緑の党(4.1%)と左派党(3.0%)が巻き添えになり、議会から弾き出された。結局、残ったのは得票13.5%のBSW(サラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)のみ。

要するに、今後のブランデンブルクの州議会には、社民党、AfD、BSW、CDUの4党しか無くなってしまう。その場合の議席配分が下記だ。

ここから青色のAfDを除けば、残るは3党。施政方針の違うその3党で、どんな連立が組めるのか? 社民党とCDUが組んでも、ちょうど半数で過半数にはならない。だったら、社民党とBSW? 1月にできたばかりの新党であるBSWは、共産主義者の集まりだとして既存の政党が無視してきた党だ。それでも過半数を取るためには組むのだろうか…?

オーストリアとの違い

しかし、こんな野合のような連立、しかも有権者の3割を無視することを是とした連立が通用するなら、党も要らなければ、選挙も要らない。それどころか、今回のCDUと社民党のような、政策を無視した不条理な協働は、民主主義の要である「選挙」という仕組みを冒涜していることにならないか。

なお、選挙後の調査によれば、社民党に投票した人たちの7割が、社民党の政治には満足していないが、AfDを阻止するためだけに社民党に投票したと答えていた。これが「民主主義」を守るための手段だというのは、なんだか違う気がする。元々、「AfDが政権に入れば、ドイツは大変なことになる」という主張の根拠さえ、極めて不明瞭なのだ。それでも多くの人がそれを信じた…。

それから1週間後の9月29日、今度はお隣のオーストリアで総選挙があった。その結果、ここでもドイツの3州と同じ現象が起こった。

極右と言われていたFPÖ(自由党)が、中道右派である与党の国民党を破って第一党になったのだ。得票率は、FPÖが前回より13.3%ポイント増の29.5%で、現政権であるÖVP(国民党)が、10.8%ポイント減の26.7%だった。

勝利者FPÖの主張はドイツのAfDと似ており、政府のこれまでの移民・難民政策を強く批判。また、ロシアへの制裁や、EUへの過剰な主権の移譲にも反対している。

ただし、勝ったはいいが、うまく連立政権を立てられるかどうかわからないところも、やはりドイツの旧東独の3州と同じだ。これを見ていると、来年9月のドイツの総選挙でも、同じようなことが起こるだろうと思えてくる。

ただ、オーストリアでは、ドイツほど連立交渉が拗れない可能性もある。と言うのも、10月1日、負けたÖVPの党首であり、首相でもあるネハンマー氏が早々と、「選挙に勝った政党が、連立交渉をリードするのは良い伝統」と言い、交渉の主導権を潔くFPÖに委ねたからだ。

いかにも紳士的で、建設的で、ドイツのチューリンゲン州のフォークトCDU代表が、「民主的な票で選ばれた第1党は我々だ!」という屁理屈をこね、AfDから様々な権利を奪うため、これまでの慣習までひっくり返そうと躍起になっているのとは対照的だ。

地方の住人にとって重要なこと

なお、さらに興味深かったのは、ネハンマー氏が、「FPÖのキクル党首との協働はあり得ないが、FPÖ党との協力関係は可能」と、ディールと思われることを表明したこと。

これは、23年にオランダで、極右と言われていた自由党が第1党になった時、結局、党首のウィルダースが首相も閣僚も辞退し、無所属の人間を首相に引っ張ってきて、連立を成立させた方法を思い出させる。ネハンマー氏は、FPÖを締め出していると、将来、締め出されるのは自分たちÖVPとなってしまうかもしれないと思ったのかもしれない。

ただ、ネックは、オーストリアでは大統領の政治的権限が強いこと。つまり、たとえ政党の間で連立交渉が合意に至っても、大統領の同意が得られない限り、新政府は成立しない。

ちなみに、現大統領のファン・デア・ベレン氏は、1997年より2008年までオーストリアの緑の党の報道官を務めていた人なので、そう簡単にFPÖの政権奪取を許すかどうかは疑問だ。

言い換えれば、今回の選挙結果は、すでに80歳の氏にとって、最後の最後にぶつかってしまった最大の難事と言える。“極右”政権を認めたりすれば、せっかくの花道に泥が付く危険がある? これからの展開が見物だ。

なお、多くの日本の主要メディアは、FPÖを「極右政党」と断定するが、すでにドイツでは、「右派ポピュリスト」と表現が一段階下がっている。実際にFPÖは、地方政治ではすでに市民権を得ており、例えばオーストリアで8番目に大きいヴェルズ(Wels)市では、2005年よりFPÖが政権を担当しているが、何の問題もないという。

地方の住民にとっては、政治家が右か左かなどどうでも良い。重要なのは、どの政治家が教育を立て直し、治安を改善し、良い道路を作ってくれるかと言うことだ。

今やEU全体を見回せば、イタリアのメローニ政権、ハンガリーのオルバン政権、スウェーデンのクリステション政権といった明確な右派の政府も存在する。ドイツの既存政党が、今のような形で頑なにAfDを締め出していては、いずれやっていけなくなるのではないか。

本気で恐れていること

なお、オーストリアのネハンマー氏の「選挙に勝った政党が、連立交渉をリードするのは良い伝統」という発言のあと間をおかず、チューリンゲン州のフォークト代表(CDU)が、「今後は、AfDの提出した動議も内容と必要に応じて審議する」とか、「議会における各委員会のいくつかは、AfDが担当することを認めたい」などと言い出した。

ちなみに、これまでのCDUは、AfDの提出した動議はひたすら拒絶し、採決でAfDと意を共にすることも、極力避けていた。しかし、少なくとも今後は、AfDの権利も少しは認めるということだろう。自分たちが第一党であるような口振りには閉口するが、内容的には、わずかではあるが方向転換の兆しが見える。

一方で、社民党と緑の党の間では、来年の総選挙までにAfDを無きものにしようという計画が燻っているようだ。自分たちの支持率の低下を政策改善で補おうとせず、敵を除去すれば良いと思っているらしい。

そのためには、NGOやメディアを別働隊として駆使し、官僚機構や、さらには司法にも手を回す。万が一、それが成功すれば、付いていった国民は民主主義を守ったつもりで、実際には全体主義に向かっていくわけだ。4年間の社民党政権が、経済だけでなく、民主主義も潰す可能性を、私は本気で恐れている。

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