「批判も覚悟」現役プロ野球選手が福祉ビジネスへ「異例の挑戦」…横浜DeNAベイスターズ・関根大気がいま「起業に挑む」理由

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10月1日、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの関根大気外野手(29歳)が、横浜市磯子区内に児童発達支援・放課後等デイサービス『グローブ』を開所した。関根選手は2013年に愛知・東邦高校からドラフト5位で入団。俊足と強肩を生かした外野守備が持ち味で、2023年シーズンには140試合に出場、126安打を放ちキャリアハイの成績を記録した。

現役プロ選手がシーズン中に新規事業を立ち上げるのは珍しいが、スポーツ関連ではない福祉事業への挑戦もまた異例といえる。デイサービス開所に至った詳しい経緯や、プロスポーツ選手のセカンドキャリアのことまで、本人に話を聞いた。

批判よりもポジティブな反応が多かった

――今年7月、児童発達支援・放課後等デイサービスの事業を始めることを公表されました。現役のプロ野球選手による異色の挑戦として注目されましたが、反響はいかがでしたか?

関根周りの選手からは「起業するなんてすごいな」と言っていただくことが多かったですね。また、ファンの方からはSNSなどを通して「そういう施設が現状では足りていないので、ありがたいです」という声も、想像していた以上に多く寄せられました。批判的なコメントが来るのかなという心の準備をしていたんですけど、ポジティブな反応をたくさんいただけてよかったです。

――児童発達支援・放課後等デイサービスとはどういったものなのか、教えてください。

関根まず「児童発達支援」というのは、手帳を持ったお子さんや、発達に心配があるお子さんのうち、就学前の幼児を対象としたサービスです。一人ひとりの特性に合わせて個別支援計画をつくり、日常生活に必要な基本的な動作の習得や集団生活への適応など、いろいろな面から支援を行います。

「放課後等デイサービス」のほうも基本的な内容は同じですが、こちらは小学生から高校生までの就学児が対象です。僕が運営責任者を務める『グローブ』では、主に午前中に児童発達支援、午後に放課後等デイサービスを行う形になっています。

起業を考え始めたきっかけ

――この事業を始めようと思ったのはなぜですか?

関根数年前から、社会で活躍している同世代の友人たちに比べると、自分は野球以外は知らないことばかりだな、もっといろんなことを学ばなければいけないなと考えるようになりました。

もちろん、現役選手である以上、野球に対して全力で取り組みますが、野球以外のことに使える時間がないわけじゃない。最初は読みやすそうな本を手に取るところから始めて、少しずつビジネスに興味を持つようになりました。2022年の秋頃からは、より積極的に、時間を見つけては野球とまったく違う分野のことを勉強するようになっていきました。

そうしているうちに「ビジネスの学びと野球の日常って、すごくつながってるな」と思い始めたんです。実際、学んだことを野球に転用するようになったら、いい方向に行き始めました。そのおかげで2022年オフに参加したメキシコのウィンターリーグ、そして2023年のシーズンもすごく充実した時間を過ごせました。

――ビジネスの勉強を始めたら、野球にも好影響が出てきたんですね。

関根その通りです。野球以外のことにトライする価値をあらためて感じ始めたタイミングで、親しくさせていただいている経営者の方から事業の提案がありました。「大気さんの今までの経験を、未来ある子どもたちに還元できるようなビジネスができたらいいですね」と。

僕自身、親になったことで、子どもの成長を後押しする仕事の大事さが分かるようになっていましたし、この事業なら横浜市という地域への貢献もできるのでぜひ挑戦してみたい、と思いました。それで前向きに検討を進めてきたという流れです。

プロフェッショナルの力を借りながら

――事業を提案してこられた方について、もう少し詳しく教えてもらえますか?

関根北海道で経営コンサルティングや財務マネジメントの会社を経営されている西山一生さんという方で、僕がプロ3年目のときからお付き合いがあり、2年ほど前からは僕の財務面のマネジメントもお願いしています。話しやすい方ですし、ビジネスのことを教えてもらいながら人生設計の相談などにも乗ってもらっています。

西山さんの会社は保育施設の事業も手掛けているんですよ。Jリーグ・コンサドーレ札幌に所属している菅野孝憲選手が札幌で児童発達支援・放課後等デイサービスの事業を2021年から始められているんですが、西山さんはそれにも関わられたということで、僕が今の事業を進めていくうえでも心強いなと思っています。

――先行事例を参考にしながら運営できるのは、一つの安心材料になりますね。

関根かなり大きいです。西山さんのほかにもう一人、複数の療育施設立ち上げに関わってこられたプロフェッショナルの方にもご協力いただいています。この事業には当然ビジネスとしての側面もありますが、その方は「来所者を集めて売上を伸ばすことよりも、支援を通して子どもたちが成長し、施設に来る必要がなくなることが一番だ」と言ってくださったんです。その言葉には僕も共感しましたし、ぜひ力を貸していただこうと思いました。

「組織のマネジメント」という新たな挑戦

――『グローブ』という施設名の由来は何ですか?

関根いくつかの意味がありますが、一つは野球で使うグローブ(glove)のことで、子どもたちを温かく受け止めるイメージです。もう一つは、地球・球体などの意味を持つグローブ(globe)。僕が海外でプレーしてきたことや、まるくて優しい印象などもひっくるめて表現できる言葉として『グローブ』がいいな、と。ロゴマークも、僕が左利きなので、左利き用のグローブをモチーフにしたデザインにしました。

――10月、その『グローブ』(横浜市磯子区)がいよいよ開所となりました。ここまでの準備は順調でしたか?

関根順調だと思います。幸いにも、すばらしいスタッフの方たちを採用させていただくことができ、皆さんにすごく助けられてここまで来ることができました。でも、大事なのはこれから。

子どもたちに適切な支援を行っていくことと親御さんたちの力になることを第一にしながら、運営を軌道に乗せていきたいと思っています。僕としては、組織をマネジメントするというのも新たな挑戦になりますね。

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【つづきを読む】「野球に集中しろという声も当然」それでも「異例の起業」に挑む理由…DeNA・関根大気が語った、プロ野球選手の「セカンドキャリア問題」

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