〈積水ハウス地面師詐欺事件〉「引き返す最後のチャンスだった...」決済前日に積水ハウスが見逃した、地面師の”唯一のミス”とは

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第12回

『「積水は騙されている」...実は地面師との取引中に警告文が届いていた!?利益に目がくらみ、決済を急いだ積水ハウスの「愚行」』より続く

ニセ海老澤の「ミス」

実は、小山たちと積水ハウスとのあいだでおこなわれた一連の会議の途中で、なりすまし工作がばれそうになった瞬間もある。それが決済前日だ。弁護士の〈報告〉にも〈平成29年5月31日(水)午後3時 事務所会議室〉での出来事として、互いのやりとりが書き残されている。

〈海老澤佐妃子を名乗る人物は、(本人確認の際)1944年申年であるにもかかわらず酉年であると記載した〉

そこに気付いた積水ハウス側の司法書士が問い詰めると、小山たちは単純なミスだと言い逃れた。むろんそれでは納得できない。

高精度すぎた偽造パスポート

不審を抱いた積水ハウス側は、〈海老澤佐妃子を名乗る人物が所持しているパスポートの旅券番号等が記載されているページを赤外線ペンライトを照射して調べた〉(同・報告)という。

言うまでもなくペンライトの照射は書類偽造を見破る手法の一つで、パスポートに透かしが入っているかどうか、あるいは本物の写真の上からニセモノの写真を張り付けていないかどうか、それらを検証することができる。ところが、それもクリアーしたと〈報告〉にはこうある。

〈(ペンライトをあてたところ)添付されている女性の写真と同じ顔が浮かび上がってきたことが確認でき、このような透かしを入れるようなことは偽造ではできないので、パスポートは本物なのではないかということになり、パスポートが本物ならば海老澤佐妃子を名乗る人物は海老澤佐妃子本人と言えることになるので、取引を進めることになった〉

そうして6月1日の決済日に備えて、手続きを進めていった。先の5月23日付のニセ海老澤側弁護士の〈報告〉にはこうもある。

〈海老澤を名乗る人物は、自分は5月21日日曜日に海喜館に入って残置物を点検したが、欲しいものはないので全て処分してもらっても構わないような話をした。この三谷常務執行役員とのセッティングは前日の昼過ぎ頃までに小山氏から、海老澤佐妃子と、積水ハウス株式会社との間で打ち合せをしたいので、会議室を貸してほしいし、T(原文では当該の弁護士の実名)も同席して欲しいという申し入れに基づいてなされたものであった〉

『「我々も騙された側で...」“被害者”を主張した地面師詐欺の仲介者…ペーパーカンパニーとしての実態と不透明な“カネの流れ”』へ続く

「我々も騙された側で...」“被害者”を主張した地面師詐欺の仲介者…ペーパーカンパニーとしての実態と不透明な“カネの流れ”